中学受験の国語における「制限時間内に文章が読み切れない(あるいは、全ての問題に手がつけられない)」という悩みは、多くの子どもが抱えています。今回の記事では、家庭教師の立場から、その原因や解決策について書きます。
模試や入試問題を「8割」の制限時間で解いてみてください
そもそも自分からすれば、中学受験の国語のテストで時間が足りなくなるのは、何も特別なことではなく、「そりゃそうだよな」と感じています。なぜそう感じるのかについて、ひとつ思い出話をしましょう。
以前に私が勤めていた大手集団塾では、他校舎の講師も集まる大規模な研修がありました。そこでは、四谷大塚のテストや私立中学の入試問題を、制限時間の8割(例:50分間のテストなら40分間)で解いて、点数を出してランキング化するというイベントが何回か実施されていました。先生たちが解くのだから、制限時間を短くしたところで、高得点が続出すると思うじゃないですか? でも、実際のところは9割取れている先生は全然おらず、難関校の入試問題であれば、ベテランでも6割台の先生もざらにいました。
みなさん普段から国語を教えているわけですから、決して問題が「解けない」というわけではありません。正規の制限時間で解けば、当たり前のように高得点が取れることでしょう。しかしプロであっても、時間が短くなると、文章を読むスピード & 問題を解く際の判断の速さがシビアに問われ、誤答が増えてしまうのです。
大人が制限時間を短くして、問題を解いたときの感覚は、12歳の子どもが、国語のテストに取り組んでいるときの感覚に近いんだろうな、と考えます。
ぜひ保護者様も、塾の模試や志望校の過去問を、制限時間を8割にした上で解いて、点数まで出してみてください。多くの場合、見たくもないような結果(笑)がでると思いますが、お子様の置かれている状況はありありと理解できるはずです。
「令和の中学受験国語」は、情報量が圧倒的に多い
実際に短時間で問題を解いてみると、「文章量が多すぎてつらい」と感じることでしょう。私立中学の国語入試問題の平均字数は6000~7000文字といわれています。ちなみに、芥川龍之介の『羅生門』が6000文字です。
仮にどんなに長文でも、文章が平易であれば、読み進めるのも簡単ではありますが、「そもそも内容が難しい」と感じたのではないでしょうか? 中学受験の文章は、大人が読む本から出題されていることが圧倒的で、そのために扱われている語彙・テーマ・心情のレベルが、小学生向けの読みものと比べると桁違いに高いわけです。
出典に関しては、朝日学生新聞デジタルプラスの『2023年度 中学入試に出た本 part1』といった記事を見ていただくと、わかりやすいと思います。朝日の記事では難関中の出典だけが紹介されていますが、偏差値40台の学校でも、重松清や辻村深月 <物語文>、河合隼雄や外山滋比古 <論説文>などは普通に出ます。いずれも大人向けの文章を書く作家・学者ですが、20年くらい前まで、外山滋比古は大学受験でも頻出でした。
読むスピード対策をする際の注意点
では、読むスピードを付けるためにどうすればいいのでしょうか? まずは、そもそも内容が難しいわけですから、語彙や常識的知識を身に着けて、精読力を付けることです。言葉や文章の意味がわからないから、読み進めるのに詰まってしまう。そして、結果として解答用紙に空欄ができて、子どもが「時間が足りなかった」と言っているパターンも多いです。
こういった際に本質を見極めず、親御様が表面的なスピード対策に目を向けてしまうと(例:「毎回、タイマーで時間を決めて長文を読ませる」など。この方法論がまずい理由は後述します)、子どもの中で「読むこと=字面をどんどん眺めていって、とりあえず最後までいくことだ」という認識になってしまい、結果として、文章を「読まない」クセがつく(=内容を理解しようとしない悪習慣がついてしまう)危険性があるので注意が必要です。
脅すような書き方はあまりしたくはないのですが、大前提を書かずに、いきなり方法論だけを羅列すると、読者様に誤解を与えてしまいます。そうすると責任感のない発信となってしまうので、あえてこのような書き方をさせていただきましたことを、ご理解くださいませ。
(※ 関連記事: 中学受験 語彙力アップの方法とは? 問題集・テキストの使い方)
家庭でできる、国語のスピード対策は5つ
精読力をつけることは大前提とした上で、家庭でできる読解のスピード対策を5点紹介します。
・音読(慣れてきたら、「早口」で)
音読をすることで、読むスピードは少しずつ上がっていきます。継続して行うことが大切で、毎日、あるいは2日に1回といったペースで行いましょう。読む文章は、塾のテキストやテストでOKです。
後の項目で「読書」の有効性についても説明しますが、文章を読む経験を増やし、擬似的な読書の状態を作り出すという意味でも、音読習慣をつけることは大切です。
音読に慣れてきたら、できるだけ、早口で読むことを目指しましょう。ストップウォッチで読む時間を測って、「昨日より、〇秒短くなったね!」などと、ゲームっぽく盛り上げても面白いと思います。
・文章の書き写し
読むのが遅い子は、文章を「大きな意味の塊」として認識していないことがあります。それは、塾の板書(先生がホワイトボードに書いた内容)を書き写すのが遅いという現象に表れます。
たとえば、以下の文章をノートに写すとします。
すきとおった風と、夏でも冷たさを持つ青い空。美しい森のある新しい街。郊外のぎらぎら光る草の波。
読むのが遅い子は、ホワイトボードを頻繁に確認しながら、以下のように、単語単位で書き写しています。
すきとおった/風と、/夏でも/冷たさを/持つ/青い空。/美しい/森の/ある/新しい街。/郊外の/ぎらぎら/光る/草の波。
逆に、書き写すのが速い子は、以下のように文章を「大きな塊」で捉えて、頭の中に記憶しながら書いています。だからこそ、文章を読むスピードも速いのです。
すきとおった風と、/夏でも冷たさを持つ青い空。/美しい森のある/新しい街。/郊外のぎらぎら光る/草の波。
文章を「大きな塊」でとらえられるようになるために、具体的には以下の方法が取ることが大事です。
(1) 毎日、国語のテキストの文章を2〜3文ほどノートに書き写す。→(2) その際、なるべく速く書き写すように努める。
先に書いた音読と同様、ストップウォッチを使って、毎日計測をすると、徐々に書き写しが早くなっていくのが実感できて、達成感も得られます。
「音読」や「書き写しトレーニング」に関しては、成果が出るまでに2〜3ヶ月はかかるので、辛抱強く続けてみてください。
・「問題」を速く解けるように努める
実際のところ、文章を早く読めるかどうかは、子どもの脳の言語分野の成長度合いにも依存することが多いようです。もちろん、訓練を重ねれば、ある程度までのスピードはつきますが、まだ10~12歳の子なので、成長速度の個人差はどうしても出てきます。
ですので、読むスピードを上げるには、一定の限界があると考えて、同時に「問題を解くスピード」を短縮することに力を入れるといいでしょう。時短につながる方法論をいくつか挙げてみます。
・本文を読む際、予め本文を意味段落に分けておく。
こうすることで、問題の根拠を探す際に「〇〇の話題は、あそこにあったな」と本文に戻りやすくなり、時短につながります。
・因果関係・筆者の主張・具体例・人物の心情などに線を引いておく。
先の項目と同様に、のちのち問題で問われるであろう箇所に線を引いておくことで、解答の際のヒントを探しやすくしておきます。
・問題の解き方を確立させて、迷う時間を減らす。
たとえば、書き抜き問題であれば、(1) 【もし記述だったら、この問題はどのような答えになるか】を頭の中で考える → (2) 本文中の答えがありそうな範囲を絞る → (3) (1)に似た言葉を範囲内で探す、という手順で考えると上手くいきやすいです。
実戦においては、臨機応変な対応をとる必要もありますが、ある程度、自分なりのやり方を作っておけば、迷う時間は少なくなります。
・ いつかスピードは上がるものとして待つ
ただし、あくまで先述の内容は課題解決のための一助となるものです。国語には、「何らかの解法に当てはめれば、必ず答えが出る」というように、反射的に解ける問題は存在しません。本質的には、いかに熟考しているかが問われる科目でもありますので、解くペースを焦らせすぎるのもよくありません。
まだお子様にスピードがついていないのならば、無理に問題を最後まで解かせようとはせず、「手がつけられた問題の正答率を上げる」ことを意識させるのも大切です。
「今は」全部の問題が解けなくても仕方ないとして、音読といった地道なトレーニングを重ねながら、少しずつスピードが上がるのを待つのが良いでしょう。
・入試過去問演習は時短に有効
過去の記事において、「国語は、算数と違って、時間のかけどころを決め打ちできないので点数が崩れやすい」という話を書きました。
模試に関しては上記の通りです。一方で、入試の過去問においては、(学校にもよりますが、)毎年の問題傾向が決まっているため、演習を繰り返すうちに、「この文章には、これだけ時間をかけよう」「前もこの手の問題が出たけど、あまり深追いしない方がいいから飛ばそう」といった、自分なりのペース配分の感覚を掴めるようになります。
また、例年、似た文章テーマを繰り返し出してくるような学校もあります。(例:「自然環境」に関する説明文ばかり出題される/「親子の相剋」に関する物語ばかり出題される等) そうすると、「この文章、どうせいつも通り、〇〇〇〇って展開になるんだろうな~」と先の展開の予測がつくようになり、必然的に読むスピードは上がります。
他科目と比べたとき、特に国語は過去問の相性の良し悪しが出やすく、相性の良さをうまく利用することが、模試の成績以上の入試結果を出すことにも繋がります。
「タイマーで時間を決めて読む」は、基本的にはNG
注意していただきたいのが、ネット上でよく見かける「毎回、タイマーで時間を決めて、長文を読むようにする」という方法です。
一見、有効そうに見えなくもないのですが、そもそも読むという行為がおぼつかない子どもが、強引に一定時間内に読み切ろうとしたところで、内容理解が乱雑になっていくだけではないでしょうか? 必要以上に焦らせてしまうと、文章を「読まない」子になっていくので危険です。しかも、「読まない」クセは他科目にも波及していきます。
逆に、読む力は間違いなくついているものの、読みながら何となくダラダラしてしまうという子であれば、タイマーは有効に働くとも思います。
「読書習慣」がある子は圧倒的に読むのが速い
最後に、読者様に考えてみていただきたいことがあります。大人すら読みこなすのが難しい内容と、制限時間に間に合わせるのに苦労するほどの長文。これらは週2~3回、年端もいかない子ども(=言語能力が育ち切っていない)が塾で問題演習だけしていれば、読み切れるようになるものなのでしょうか? 合わせて、私が上記に書いた対策やトレーニング方法も、あくまで「対症療法」である、とご理解いただいたほうが良いと思います。
結局のところ、今までの指導経験から見出される結論としては、読むスピードが速い子と遅い子の違いは、読書習慣があるか否かに尽きる、と言えます。読書をしている子は、読む速度が速いだけではなく、語彙力も強くて物知りです。これまでに本を読んできた人なのか、読んでいない人なのかは、経験のある指導者が話をすればすぐにわかるものです。少し残酷なくらいの違いが見える、ということも述べておきます。
この記事の続編は以下です。
また、「わが子を本好きにするにはどうすればいいか?」というテーマについては、以下の関連記事に書きましたので、興味を持たれた方は、ぜひご覧くださいませ。
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