当ブログでは、中学受験生に「読書」を推奨してきました。
まだ言語体験が少なく、幼児の延長線上にある小学生は、当人の成長の度合いによって、文章の理解力や処理スピードが大きく違ってきます。
そして、それらをブーストさせるには、(1) 家庭での会話習慣を良くしていく、(2) 読書経験を積む、のいずれかが有効です。細かい論拠については、当ブログのこれまでの記事に書いております。興味のある方は、国語カテゴリ、読書カテゴリをぜひご覧ください。
一方で、「読書をしているのに、国語の成績がふるわない」と感じている読者様もいらっしゃることでしょう。今回の記事では、考えられる理由や解決策について論じてみたいと思います。
1.親御様が高い成績と安定を求めている
読書だけで出せる成績は、四谷偏差値50(サピなら45)くらいだと思います。
「読書していても、成績が上がらない」と思っている親御様は、それ以上の成績を期待している可能性が考えられます。しかし、そもそも全く読書しておらず、言葉の発達も途上にある子の場合、上記の成績に達しない場合もあるということは、伝えておきたい点です。
また、どんなにできる子でも、国語の成績は、高偏差値でずっと安定することはありません。その根拠は、以下の記事に書きました。
上記記事に書いたように、国語の成績が安定しない理由は複数ありますが、一番大きいのは「文章で使われている語彙、テーマ、心情が理解できるか? といった不確定要素に左右されやすい」点だと思います。
集団塾時代に指導してきた生徒の中には、ものすごく国語ができる子もいましたが、やはり、そういった子でも、たまに点数は落ちることがありました。(偏差値70が、偏差値60弱くらいまで落ちる)
読者のみなさんは「国語ができる状態」とは、高偏差値を取ったら、そこから落ちない状態であるとお考えかもしれませんが、実際にはできる子でも、多かれ少なかれアップダウンを繰り返しており、模試の上位層はテストのたびに入れ替わっています。
上位層でもこうなのですから、人生経験が少なく、語彙力やスキーマが足りていない子であれば、なおさらです。
(※ 「スキーマ」とは、ある物事を理解する際に必要な背景知識・常識的な知識のことです。詳しくは、『スキーマ理論(熊本大学ホームページ)』をご覧ください)
ですので、まずは「本を読むだけで、成績を上げるのには限界がある」「成績のアップダウンは誰にでもある」ということを念頭に置いていただきたいと思います。その上で、この後にあげる項目を読んでいただき、具体的な対策を取っていただくことが大切です。
2.「国語の問題を解くための読み方」になっていない
国語の問題を解く際の文章の読み方と、読書の読み方は全く別物です。
たとえば、趣味で小説を読むとき、登場人物のセリフや行動を見て、いちいち止まって、「このときの主人公の心情は『後悔』だ」「ここでは、『わだかまり』を抱いているな」などと考えないと思います。
勢いでざっと読んで、なんとなく楽しんでいるはず。細かい描写については、頭に残っていないことも多いのではないでしょうか。
一方、国語の場合、文章を読んだ後に、心情や細部について読み取れているか否かが問われてしまう。
そのため、国語の長文は、文章における法則な繋がりを理解しながら読む必要があります。そうすれば、「どこに何が書いてあったか」を頭に留めておけるようになり、問題を解く時にも効率的に解けるからです。
物語文であれば、心情の変化とそのきっかけ、説明文・論説文であれば、因果関係、対比、換言に着目することが大切になります。詳しくは、下記の記事に書きました。
ですが、そういった読み方は、ひとりでに身に着くものではなく、誰かに教えてもらわなければ身につきません。塾の授業で教えてもらっていたとしても、集団授業であるがゆえに、なかなか定着しづらいという事情もあります。
(※ 「なぜ、集団授業だと身に付きづらいのか?」という理由については、上記記事に書きました)
読書をしているのに、国語がいまいち伸びない場合は、「国語としての文章の読み方」が身についていない可能性が考えられます。困った場合は、プロの先生に相談してみてください。
3.問題の解き方が確立していない
国語の問題においては、「本文さえ理解できていれば、素直に解ける問題」もある一方で、「本文が理解できていても、解きづらい問題」もあります。学年が進むにつれて、後者の割合が増えてきます。そのため、問題の解き方を確立させることも大事です。
「選択肢問題が紛らわしく、2択まで絞っても外してしまう」「書き抜き問題で、答えがなかなか見つからず、探しまわっているうちに時間切れ」「記述問題で、何から書き出せばいいかわからない」といったことは、「国語あるある」でしょう。
上記それぞれの課題点について、どう解決すればいいかについては、以下の記事が参考になるかもしれないので、興味があればぜひご覧ください。
(※ 選択肢問題についてはまだ記事を書いたことがないので、そのうち書きたいですね。また、記述問題の記事は2本アップしているのですが、どちらもリライト予定なので、リンクは貼らないでおきます)
いずれにせよ、「こういう問題においては、こう考える」というように、思考手順をしっかり固めることが大事です。
ただし、国語の場合、絶対的な公式はなく、地道に文章を読んで、その場その場で臨機応変に問題を考える必要があります。
そのため、国語の学習においては、一個一個の設問において、「『なぜこの答えを選んだのか? 本文のどこをどう読んだのか?』を子どもに説明させる」、「指導者が、子どもと一緒に問題を考える」ことが有効です。
そういったやり取りの中で、子どもの中に、徐々に抽象的思考や対比思考が身についていきます。意識的に頭を使わせていくことで、徐々に成績が上がっていくのが国語という教科なのです。
逆に、問題の解法や何かの法則的なものを、演繹法的に説明したとしても、子どもにとって、実践時には活用しづらいため、上手く行きづらいことが多いように思います。
また、御三家といった難関校の過去問では、「問題の解釈」が高いレベルで求められるようになります。「作問者が求めていることが何であるのか?」について、じっくり思考しなければいけません。
この場合も、「読書をしているのに、国語ができない」パターンに陥ることが考えられますが、さすがにこのレベルですから、「そりゃそう」とご納得いただけることでしょう。
4.読んでいる本が幼い
私は、本来、読書は楽しいからするものだと考えているので、子どもたちの好きな本を否定するつもりは全くありません。
しかし、今回の記事のテーマは「読書をしているのに、国語が伸びないのはどうして?」です。そのお題に沿って考えるならば、「そもそも、読んでいる本が幼い場合は伸びない」という回答も挙げられます。
幼い本とはどういうものかというと、たとえば、「低学年向けの絵本」(子どもは高学年なのに、低学年向けの本を読んでいる場合)、「ケータイ小説のような物語」(最近は、大手出版社から、普通の文芸書のような体裁で出版されています)、「毎回、同じ展開を繰り返すだけの漫画ちっくなライトノベル」など。
これらの本には、読みながら、情景を想像したり、何かを考えさせられたりすることが少ない(しなくてもいい)という共通点があります。
子どもが、絵本やケータイ小説やラノベを好むということは、すなわち、その子の精神年齢や読解力で無理なく読める本がそれということです。
しかし、中学受験の国語の問題は、大人が読む本が出典になっています。要するに、私立中学(の多く)は、大人に近い成熟した子がほしいと思っているわけです。
子どもの趣味を否定したくはないのですが、絵本やケータイ小説やラノベを好んで読む時点で、私立中学が求めるターゲットからはズレてしまっている、ということは言えます。
とはいえ、「難しいのを読め!」と一方的に伝えたところで、幼い子が読むはずもありません。もっと大人っぽい本を読んでもらうには、周囲の大人がその面白さをあの手この手で伝えるしかないと思います。
以下の二つの記事は参考になるかもしれません。下の記事は、「偏差値30~45から脱出する方法」というタイトルではありますが、読書習慣をつけるための普遍的な話をしています。
まとめ
色々書いてきましたが、自分のような指導者側から見ると、本を読んでいる子は「伸ばしやすい」と感じます。
なぜなら、概ね、問題を解くための読み方や、問題の解き方を身に着けさせればいいだけで、そういったことは、週一回の授業で、ある程度は定着させられるからです。
色々な子を指導してきたからわかりますが、読書している子とそうでない子とでは、日本語の語彙や一般常識の知識量に大きな差がありますし、文章を読むスピード、問題を処理するスピードもかなりの違いがあります。
読書で身に着くような骨太の語彙力と処理能力は、家庭教師や個別指導塾の、たった週一回の授業で身に着けさせてあげられるはずもありません。
読書は必ずや血肉になります。「読書をしているのに、国語の成績が伸びない」とお悩みの方は、今は伸びていなくても、そのうち伸びるのだ、と前向きにお考えいただければと思います。
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