こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。
「入試に出た本は、読んでおいたほうがいいんでしょうか?」、保護者様からよくいただくご質問です。
たしかに、入試報告会などで出典リストを目にすると、「これを読んでおけば有利なのかも?」と感じてしまうもの。でも、そこには意外な「落とし穴」もあるのです。
今回は、「出典の本を読む意味」と「注意しておきたいこと」について、実践的な視点から考えてみます。
「国語の出典」を読むメリット
私が考える、「国語の入試に出た本(出典)」「今後、出そうな本」を読むメリットは以下の通りです。
1 入試で求められる読解レベルが把握できる。
2 「読書」のきっかけになる。
3 難しい本を読むことで、意欲や自信につながる。
4 文章を読むための「前提知識」が身につく。
「1」については、特に親御様には知っておいていただきたいところです。
親御様世代の中学受験・高校受験よりも、国語の素材文はハイレベルになっているので、レベル感を確認するために、目を通していただくのは、非常に大切だと思います。
また、子どもとしても、「最終的には、こういう文章が理解できなければいけないんだ」と知るために、本を読むのは良いことです。
読書習慣がない子でも、「自分の志望校で出題された本」であれば、読む気がおきるかもしれません。すなわち、「2:読書のきっかけ」にもなるのは、大変良いことなのではないでしょうか。
「3」について。本によっては、昨今の世の中における現象や、世間に広まった考え方が解説されています。
たとえば、「親ガチャ」「多様性」「同調圧力」。本を通して、このような、正解のない現代社会の問題を知り、考えることで、「大人っぽいことへの興味・関心」が身につきます。
中学受験では、「大人が読む文章」が出典になります。
難解な文章を読むためには、読み方が~、テクニックが~と言う前に、「この文章を読もう!」という意欲や、「自分には読める! だって、前にも難しい文章読めたし」という経験にもとづく自信が必要になります。
そのため、入試の出典となった本(あるいは、出典となりそうな本)を通読できていれば、難しい読解問題でも精神的にめげなくなるという利点はあるでしょう。
また、「親ガチャ」「多様性」「同調圧力」等に関する本を読んだ後に、同じテーマの文章が運よく出題されれば、その文章は読み進めやすくなります。
よって、「4:文章を読むための『前提知識』を増やす」という意味でも、出典や、今後出そうな本を読む意味はあると考えます。
「国語の出典」を読むのは、リスクもある
個人的には、入試問題の出典や、今後出そうな本を読むメリットは、それだけだと考えます。
そうなんです。あくまで、この程度の「ぼんやりしたもの」でしかありません。
まあ、その「ぼんやりしたもの」に意味があることは、国語講師の私としてはよくわかっていますが、親御様たちは、出典を読むことで、「ぼんやりしたもの以上のもの」が得られると、期待されているように見えます。
言うなれば、「実際に読んだことがある本と、入試で同じ文章が出れば有利かも?」というお気持ちが感じられるのです。
しかし、一度読んだことがある本と、同じ文章が入試で出た場合、有利どころか、むしろリスクもあるとお伝えしておきます。
結論からいうと、「既に知っている文章を読むと、誤読が起こりやすくなる」のです。
教育心理学者 西林克彦氏の『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』(光文社)という本には、実験から判明した「誤読の原因」がいくつか解説されています。
その中に、「元々、知っている話が登場したとき、誤読は起こりやすくなる」という考察がありました。
私の指導経験においても、実際にそういう状況をよく見ています。昨年も小6の過去問演習時に、ある生徒が、ある年度だけ、ものすごく低い点数が出たことがありました。
事情を聞いてみると、「以前に、本で読んだ文章が出たから、もう理解できていると思って、浅い読み方になってしまった」とのことでした。
要するに、「あー、この話ね! もう知ってるし!」という慢心が、浅い読みと誤読を引き起こすわけです。
本ではなくても、塾のテキストや模試と同じ文章が、入試で出題されることもあります。
「読んだことがある文章が出題されると、『ラッキー!』って浮かれた気分になるけれど、そういうときほど、むしろ注意を払って読む必要がある」と、受験生には伝えるようにしています。
「なぜ、これが必要なのか?」を考えることが大事
結局のところ、このブログでは何度も主張している通り、国語では同じ問題は二度と出ないので、「頭の使い方」を良くしていくしかありません。
でも、大手塾としては、それをそのまま入試報告会で伝えたところで、「体裁が悪い」ような感じがするんですね。抽象的な話ではなく、なるべく具体的な話をしたい。
だから、出典を列記して、「傾向分析」的な考察をして、なんなら来年の出典予測も立てて、「保護者ウケ」を狙うという思惑があるのでしょう。自分も大手塾にいたことがあるので、その気持ちはわかります。
親御様としても、「子どものために、できることをしてあげたい」というお気持ちで、親御様が出典を買っていらっしゃるのもよくわかります。
ですが、一歩立ち止まって、「出典を読むことで、どんな力がつくのか?」、「それは、わが子に必要なことなのか?」と思考する習慣をつけることは大事ですね。
「出典対策」「読解テクニック」、そういった方法論だけで国語が得意になるわけではありません。
このページ下部の【関連記事】では、「どのように頭を使って読むか?」や「読書量と、国語の成績が一致しない理由」について解説しています。ぜひ、ご覧ください。
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