中学受験で「読書」はどこまで必要?ヨンデミーレベル45と読解力の関係とは

「国語」の指導・学習法

こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。

2025年6月、関西の大手進学塾「浜学園」と、読書支援アプリ「ヨンデミー」が、中学受験に必要な「読む力」を分析し、その結果を発表しました。

その中で注目を集めたのが、次の指摘です。

「小4で『ヨンデミーレベル45』に到達していないと、塾の教材が読めない」

「ヨンデミーレベル45」とは、『ナルニア国物語 ライオンと魔女』(C・S・ルイス)や『モモ』(ミヒャエル・エンデ)といった、厚みのある児童文学を一人で読めるレベルを意味します。

私はこの指摘に対して、「かなり的を射ている」と感じました。

なぜなら、語彙力・常識力・抽象化能力・処理スピードといった、国語の文章を読むための力は、塾で「問題を解くだけ」では身につかないからです。

この記事では、

  • (1) 塾では伸びない力とは何か?
  • (2) なぜ、読書がその力を支えるのか?
  • (3) 子どもに読書習慣をつける取り組みとは?

この3点について、指導現場の視点からお伝えしていきます。

ヨンデミー×浜学園「中学受験に必要な『読む力』を徹底分析」の概要

「そもそも、『ヨンデミー』って何?」という方もいらっしゃると思うので、簡単に説明します。

「ヨンデミー」とは、子どもに読書の楽しさを伝える・読書習慣をつけてもらうためのアプリ。AIが子どもにぴったりな本をすすめてくれたり、子どもが書いた感想を聞いてくれたりします。

そんなヨンデミーが、今回、浜学園と共に「中学受験に必要な読む力」を分析したところ、以下のことがわかったそうです。

また、浜学園は、今回ヨンデミーと共同で分析した理由を次のように述べています。

中学受験の現場では、年々「ことば」がわからない子どもが増えており、「学力の低下」が課題となっています。

授業や教材はすべて「ことば」で構成されており、その意味を正しく理解することが、学習効果を高めるための土台となります。

特に国語では、文章や設問の意図を読み解く力が求められます。同じ教材を使っていても、子どもによって理解度に大きな差が生じるのは、「ことばの蓄積」が家庭環境に強く影響されるためです。

再現性高く指導できる算数とは異なり、国語は塾の授業だけでは補いきれないのが実情です。

※ 出典:『【業界初】ヨンデミー×浜学園が共同制作!中学受験に必要な「読む力」を徹底分析したホワイトペーパーを公開』(PR TIMES)

中学受験において、本当に「ヨンデミーレベル45」が必要なのか?

読者のみなさんとして気になるのは、以下だと思います。

本当に「小4でヨンデミーレベル45(=『ライオンと魔女』『モモ』を読み切る力)」がないと、塾の教材が読めないのか?

これは、私の指導経験からすると、「概ね、正しい」と考えます。

先ほど引用したプレスリリースにおいて、浜学園が述べていることに対しては、一言一句まったく同意です。

私が若手のときからずっと感じていたことで、「やっと、大手塾がホンネを言ってくれた!」とまで思っています。

要するに、高度な語彙力・常識力・抽象化能力は、「読解問題を解くだけ」では身につかないのです。

中学受験の国語は、長文の本を、ある程度は「読めるようになっていること」を前提に設計されている、というのが所感です。

たとえば、以前、聖光学院で配布された学校資料には、国語の「入試出題のポイント」として、以下の趣旨の内容が書かれていました。

・ 日常生活においては、言葉に関心を向けてほしい 。

・ 「何となく知っているだけでは太刀打ちできない」語彙の問題を出すので、日々、どん欲に言葉を吸収してほしい。

・ 小説、テレビ、映画などは、自分が未経験のことであっても、疑似体験させてくれる。常に「知らないことに対する欲求」を持って、生活を送ってほしい。

この話のポイントとして、聖光学院が国語で求めていることは、「塾でがんばって語彙を覚えてきてね!」とか、「問題集・単語帳をたくさんこなしてね!」ではないということ。

そうではなく、「必要な力は、日常生活の中で学ぶものだ」とメッセージを伝えているのです。

そして、その手段の一つとして、はっきりと「小説」を挙げています。

私の指導経験上、最上位校を狙うのであれば、 「読書が趣味」である必要はありませんが、 「大人っぽい文章を読み切る体力」がないと通用しづらいと考えます。

たとえば物語文の問題では、昭和の生活、大人の葛藤、職業人の苦悩といった「小学生にとって身近でない世界」への理解も問われます。

でも、そういった時代背景や感情は無限に存在しますから、「これさえ覚えれば、大丈夫だよ!」と、塾で試験範囲のように示すことは不可能。

そのため、聖光学院が言っているように「身近でない話題にも、関心を持つ」ようにするしかないのです。

あと、聖光は言っていませんが、膨大な量の長文を読んで、それを頭に記憶しておき、さらに設問文読んで、選択肢の正誤を見分けて・・・という作業をするには、相当な「処理スピード」が問われます。

これも、読書経験があると無いとで、差がついてしまいます。

色々な生徒を指導している側からすると、本を読んでいるのと、読んでいないのとで、「残酷なくらいの差」が見えるものです。

私は最上位校を目指したいという生徒には、「それなりの内容の本を読み切った経験がないと、話にならないよ」とはっきり伝えています。

一方で、「最上位校」を目指さないなら、そこまで、早い段階で難易度の高い本が読めなくてもいいように思います。

そのため、最初に「ヨンデミーレベル45ないと、塾の教材が読めないのか?」という問いに対して、「概ね、正しい」と答えました。

一口に「教材が読めている/読めていない」といっても程度があって、本来は、志望校によって強弱があって然るべきだからです。

個人的な意見として、最上位を目指していない小4であれば、『青い鳥文庫』レベルを楽しんで読めれば、標準的な偏差値を取るだけの土台はつくれるのではないでしょうか。

※ 参考ページ: 講談社コクリコ『小学5年生におすすめ! 読んでおきたい青い鳥文庫名作ガイド【2025年版】』

中学受験に必要な読書力と、読書の楽しさは両立できる?

このプレスリリースには、一部で批判の声も上がっています。

「読書は文化的な体験なのに、『このレベルまで読めないと、塾についていけない』と義務のように煽るのはどうなのか?」

この意見に対して、私は「一理ある」と思っています。

読書を受験という「競争の枠組み」に組み込むことで、「読書の楽しさ」が失われる場合もあるのは事実でしょう。

私も、難解で途中で読むのをあきらめた本はありますが、「〇〇才なら、本当はそれくらい読めなきゃね」と上から目線で指摘されたら、かなり腹がたつと思います。

それでも、私自身はもともと読書習慣があるので、他人の言うことなど気にせず、好きな本を読みますが、一桁や10代前半の子どもの頃にやられたら、確実に読書嫌いになりますね。

ただし、これは「切り離して考えるべき話題」です。

すなわち、

  • 「読書の意味を、どう捉えるか?」
  • 「読書経験が浅いと、塾の教材に適応しづらい(最上位校を目指すのは厳しい)」

この二つは別問題です。

教育観として議論すべき問題と、 「塾の教材が手に負えない」という現実は別の話であり、混同してはいけません。

私立中学の多くは、「成熟した子」がほしいのです。

公立中学と違って、誰もかれもを「一から育てる」義務は負っておらず、好きな生徒を「選抜」できるわけです。

そうなったとき、「長文を読むだけの、言語能力が発達している子」「自分にとって、身近でないことにも広く関心を持てる大人びた子」というのが、一つの選抜のポイントとして上がってくるのだと思います。

「うちの子は、そんなに成長は早くない」という方もいらっしゃるでしょう。

であれば、高いレベルでの成熟は求められない学校を選択する、あるいは、本人の自然な成長に任せる(しかし、「入試日」というリミットまでに伸びきらないことも覚悟していただく)ということになります。

もしくは、読書習慣を家庭でつけていくかです。

読書習慣は家庭で育てる。ヨンデミーは「補助」として使い分けを

「読書習慣を家庭でつけたい」と考えたとき、ヨンデミーを部分的に使用することは有効だと考えます。

いきなりアプリに「すべてを外注」するのではなく、やはり、最初は親・大人が主導するべきです。

私はよく図書館に行きますが、親御様が子どもを連れて、本棚の間を歩いてまわって、以下のようなおしゃべりをしている様子を見かけます。

  • 「ママは小学生の頃、この本すっごく好きだったよ」
  • 「〇〇は、野球好きだから、これ気に入るかも?」

まずは、親御様が「読書って面白い」ということを伝えるのが、絶対に大事だと思います。

それをせず、いきなりヨンデミーだけ機械的に与えても、子どもは「つまらない」「勉強みたい」「やらされてる」と感じて、読書が続きません。

ご家庭主導で、本を読む習慣ができて、子どもに「もっと、たくさん読みたいな」という意欲がでてきたタイミングで、ヨンデミーを導入すれば、有効的に活用できるはずです。

「うちの子、図書館連れて行っても読まないんです」という場合、一つの方法論に拘泥せず、色々なことをしてみてください。

この手のことは、とにかく試行錯誤が大事です。

たとえば、幼児にやるイメージのある「読み聞かせ」ですが、小4や小5にやってあげても有効です。

自分は小5のとき、学校の先生がよく読み聞かせをしてくれました。

普段は、本を読まない友達も、先生の読み聞かせをきっかけに読書するようになっていたのを記憶しています。

読書に興味を持つ年齢は人それぞれ。でも、現実からは目をそらさずに

「色々試したけど、それでも、うちは読書ダメだったんですよ」という場合は、「まだ、そのときが来ていない」のでしょう。

中学・高校に入ってから読書に目覚める子もいます。

中学受験は、本来ならもっと年齢が上がってから身につくことを、早い段階で求められる世界です。

だから、お子さんが読書をまだ楽しめなかったとしても、「一人ひとり、成熟のタイミングには個人差がある」と捉えていただければと思います。

ただし、ここまでに書いた通り、目指す志望校のレベルによっては、「読書経験の有無」が、子どもの限界点になるのも事実です。

お子さんは今、どんな本なら集中して読めますか?

その現実をしっかり受けとめてから、「どこを目指すか」「どのくらい背伸びするか」を決めても遅くはないと考えます。

読書の有用性、読書習慣を育てる方法 等については、このページ下部の【関連記事】でも詳しく紹介しています。気になる方はぜひ参考にしてみてください。


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