中学受験の家庭教師 鳥山と申します。
国語はとらえどころのない科目といわれています。成績が良くないとき、「何をしたらいいのか?」がわからないというお悩みを抱えるご家庭は、多いのではないでしょうか?
今回の記事では、「国語の成績不振の背景にあるものは何か?」、「本当にやらなければならないこととは何か?」について書いてみたいと思います。
(※ 実はこの手の話題は、当ブログでは繰り返し書いてきました。そのため、熱心な読者様は、「前にも同じようなことを読んだ」と感じるかもしれません。すみません。
当ブログの記事数も100を超えて、新規読者の方も増えています。そのため、自分の考えの整理も兼ねて、あらためて記事を書かせていただく次第です。)
なぜ、国語のテクニック問題集は、役に立たないのか?
他科目の場合、テストの点数が悪いと、「我が子は、『つるかめ算』が苦手なようだ」→「つるかめ算の問題をやろう」という発想になりますよね。そして、ある程度は正答率が上がったり、成績が上がったりする。
他科目の勉強法を、国語にも流用して、「『テクニック(読み方・解き方)』の問題集をやろう」と考える方もいらっしゃいます。
しかし、やってみたものの、結局は、「国語の成績が上がらない」というジレンマに陥ることは多いはずです。
インターネット上には、「テクニック系の問題集をやるだけで、成績が上がった」という体験談も見られます。
その体験談自体は、本当のことなのでしょう。ですが、体験談を書いている人のお子様は、「自分の子どもとは、『違った条件』を持っているのではないか?」と考えてみてください。
プロの目から見て、「テクニック系の問題集をやるだけで、成績が上がった」場合、(1) 体験談を書いている人の「成績が上がった」の基準が緩い、(2) 書き手の子どもに、元々「素地」があった、いずれかであると考えられます。
(1)について。首都圏模試で偏差値50→60になるのと、サピックスのテストで偏差値50→60になるのとでは、スコアを得るための難易度は全く違います。
前者と後者とでは、問題内容や、試験を受ける母集団のレベルが、別物すぎるからです。
また、偏差値が50→60→53と推移したとして、「平均的には上がった」とプラスに捉える方と、「60になったのに、53まで落ちた! 60もまぐれ!」とマイナスに捉える方に別れると思います。
読者様が「テクニック系の問題集をやったが、国語の成績が上がらなかった」と感じている場合は、「お子様の受験しているテストの母集団のレベルが高い」、あるいは、「減点思考である(子どもの成長を、長期スパンで捉えられていない)」というケースが考えられるでしょう。
ただし、それ以外の要因として、そもそも、子どもが問題集の内容をものにするための「素地」が足りていない場合もあります。
国語の力を上げるために必要な「素地」とは?
国語の「素地」とは、大きく分けると、「(1) 活字慣れ(情報処理力)」、「(2) 語彙力」、「(3) 一般常識力」です。
これらの力は、塾やテキストで伸びるものではないので、日常生活(ご家庭)における取り組みが大事になります。
(1) 活字慣れ(情報処理力)
当ブログでアクセスが多い記事に、『令和の中学受験国語は激ムズ。「テストで時間が足りない」悩みの解決策とは?(1)』があります。
アクセス数が多い=それだけ、「読むスピード」が遅いことに悩んでいるご家庭が多いということですね。
それに関連して、「制限時間をつくるなどして、読むスピードを速めさせてみたら、今度はまともに内容が理解できなかった」というのも「あるある」だと思います。
結論から申し上げれば、精読するスピードは、「まとまった文章を読んでいる経験が多いか・少ないか」という経験値の量に左右されるのです。
国語が苦手な子どもが10分かけて読む文章でも、大人であれば5分で読めます。
なぜ読めるかといえば、別にテクニックを駆使しているわけではなく、中学~高校~大学~社会人と経て、色々な文章を読んできているからです。
中学受験の国語の入試問題は、基本的には「大人向け」の本が出典になります。平均字数は約6,000字、学校によっては14,000字を超える場合もあると言われています。
さらに、「設問文」「選択肢」も読まなければいけないので、実際に読む字数は、↑よりもっと多いことになります。
ちなみに、この記事は約5,900字。読んでいて「長い」と感じる方もいるかもしれませんが、実はお子様が日々がんばって取り組んでいる、国語の平均文字数よりは、全然短いんですね・・・。
(※ データ参考元:ダイヤモンドオンライン『【驚愕!】中学受験の国語の入試問題で要求される「文章を読むスピード」はどのくらいか?』)
要するに、中学受験の国語の長文問題を読みこなすには、12歳にして、成人年齢と同等の「活字慣れ」が必要ということです。
それには、「普段から本を読んでいる子」が圧倒的有利というのはおわかりいただけると思います。
(2) 語彙力
「英単語を知らない限り、英語の長文読解ができるわけがない」というのと同じで、中学受験の国語でも「語彙力」がない限りは、文章読解はできません。
それに気づいたご家庭は、『語彙力アップの問題集』に取り組むと思いますが、「効果が見られない」という話もよく聞きます。
その理由は、さきほどの「活字慣れ(情報処理力)」の理屈と似たものになります。
大人であれば、『語彙力アップの問題集』に取り組んだことがなくても、語彙は十分に身についていますよね。
大人は長く生きていて、色々な文章を読んできている。加えて、たくさんの会話をしてきた経験から、語彙を身に着けているということです。
色々なご家庭を見てきた経験から、「会話において、適切な表現を取る親御様の子は、国語ができる(できるようになる)」という傾向は見出せます。
小学生の場合、子ども同士で話しても、そう高度な内容の会話なんてしませんので、難解な語彙・言い回しを学ぶのは、親御様(ご家族)からということになります。
かといって、親御様が子どもの話を聞かず、自分の言いたいことばかり、一方的にずーっと話しているようだと、当然ですが、子どものアウトプットの機会は失われるので、語彙力は磨かれなくなります。
なるべく、子どもに話をさせなければいけません。
「じゃあ、どうすればいいの?」という疑問に対してのお答えは、以下の二つの記事に書きました。
上の記事は、「語彙力の問題集を有効に使う方法」、下の記事は、「語彙力・表現力を伸ばすための対話の仕方」となります。いずれにせよ、ポイントは「親子間の対話」です。
(3) 一般常識力
文章を読むには、実は「一般常識」が必要です。
日本語には言葉が多い。それは、同じ物事を言うのに、いくつも言い方があるからだ。(中略)地位や職業による話し方の違いや、方言による話し方の違いもあり、日本語には言葉の数が多いということになる。
(出典:『国語〈1〉日本語の探検にでかけよう』 桐山久吉 汐文社)
たとえば、この文章は大人なら理解するのはたやすいですが、小4くらいだと理解できる子と、理解できない子にわかれます。
「地位や職業による話し方の違い」とか「方言による話し方の違い」が何なのかを、経験から知っている(気づいている)子と、知っていない(気づいていない)子がいるからです。
また、物語文であれば、以下のようなシーンを読み取るのにも、常識が必要になります。
「登場人物が、病気で苦しんでいる」→ (場面は一転) → 「箱の中で、さきほどの病人が目を閉じている。声をかけても、起き上がらない」
大人であれば、登場人物が「亡くなって、棺に入れられた」ことがわかりますよね。
しかし、これも子どもにおいては、大人と同様に理解できる子と、「なんで箱の中で寝てるの?」と感じる子に別れます。
読書しないなら、せめてマンガを読んでほしい
「亡くなった」ことがわかる子が、何故わかるかといえば、ここまでに書いたように、本を読んで知っていたり、親子の会話の中で知っていたりするからです。
あとは、マンガ、ゲーム、テレビドラマ等で、「死」に触れていたり、お葬式のシーンを見ていたりするパターンがあります。
一番わかりやすいのは、『ドラゴンクエスト(ドラクエ)』というゲームです。(最近の若い子は、あまりプレイしませんが・・・)
ドラクエでは、キャラクターが敵の攻撃を受けて死ぬと、「かんおけ」に入るのですが、子どもはそれを見て、「そうか。人間は死ぬと、かんおけに入るのか」と理解するわけです。
さきほど、「方言」の話がありましたが、『名探偵コナン』に出てくる「服部平次」というキャラクターは、「西の高校生探偵」という異名を持ち、関西弁を使って話します。
ですので、コナンを読んだことある・観たことある子なら、服部平次の関西弁を思い出して、「方言による話し方の違い」という文章内容も、特につまづくことはなく理解できるでしょう。
大昔には、マンガやゲームやテレビといった、サブカルチャーが「悪」とされた時代もありました。
まあ、そういう意見が挙がる理由もわからなくはないのですが(「受験期」のゲームは、絶対に「我慢」はすべきですし)、サブカルチャーを極端に禁ずれば、結果として、文章もロクに読めない人間が出来上がってしまいます。
「机に座って、真面目にお勉強」だけしていれば、同世代の中で優位に立てるかといえば、そんなに甘くはないのが、現代のハイレベル化した中学受験。そのことを、親御様としては心に刻んでおいていただいたほうがいいでしょう。
また、最近はマンガを読む子すら減り、余暇にはYouTube動画を観ている子が多いです。
しかし、YouTubeは「自分の好きなものだけ」を観ることになり、「ああ、世の中には、そういう物事・考え方もあるのか」という新しい発見が少ないため、一般常識の幅は広がりづらいんですね。
私の生徒でも博識な子がいて、色々知っているので、「それ、どこで知ったの?」と聞くと、「こち亀」「ワンピース」などと返ってきたこともあります(笑)。
だから、「本を読まないなら、せめてマンガだけでも読んでくれ!」というのが、私の本音ですね。
まとめ:親御様の「理解」が最も大事
今回の記事をまとめます。
「テクニック系の問題集をやって、国語の成績が上がった」という経験談は、自分の子どもに当てはまるとは限らない。
テクニックが身に着かないのであれば、「素地」が足りない可能性がある。
国語の素地には、「(1) 活字慣れ(情報処理力)」「(2) 語彙力」「(3) 一般常識力」がある。
「素地」は、塾やテキストで伸びるものではないので、日常生活(ご家庭)における取り組みが大事になります。それぞれの力を身に着けるための「対処法」も書きました。
「子どものために、やれることはやりたい」という読者様、ガンバです! 一方で、「うちは、そんなことはできない」と感じられた方もいるかもしれません。
特に、「マンガやゲームを与えるか・与えないか」といったことは、各ご家庭の教育方針もありますし、それを無理に「変えろ」とまでは申し上げるつもりはないです。
ただし、「親が行動・方針を変えられない」のであれば、当然ながら、「子どもの国語力も、変えられるものではない」と受け止めていただき、「本人の成長を待つ」しかない、ということにはなるでしょう。
中学受験において、子どもの成長(レディネス)が来るのを待つことは、必ずしも「諦め」ではありません。親御様の「達観」は重要といえます。
なにより大事なのは、親御様自身が、子どもの置かれている状況を整理して、理解することです。
それをせずに、問題集・方法論にすがったり、思い通りにいかない理由を、子どもの努力のせいにしたりすると、悲しい方向にいってしまうので、どうかご注意ください。
あと、この手の取り組みは効果が出るまでに、長い時間を要するので、本来は、就学前の幼少期から始めるのが最適解だとは思います。「受験勉強の先取り」をするよりも、何倍もの良い効能があるはずです。
次回は、もう少し発展的な話として、「国語力を上げるにはどうすればいいか?」「『文章を理解する』には、どうすればいいか?」について語ります。
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