前回の記事では、入試直前期に学校を休む際の注意点と、親御様ができるメンタルサポートについて述べました。
今回は、「入試直前期(1月中)の勉強」について、気を付けると良い点を書きたいと思います。
(※ 前回記事:『中学受験生の入試直前期、学校は休む? 親にできるメンタルサポート』)
「少しがんばれば、安定しそうな内容」を定着させる
これから話すのは、主に、「四谷偏差値55以上」の子に向けた話となります。(偏差値55未満の子が、勉強において注意すべき点については、末尾に記します)
今から、2/1までの期間で、「現段階で全くできていないことを、できるようにする」ことや、「苦手分野を得意にする」ことは、現実的は不可能です。
目標にすべきは、「今は完璧ではないが、少しがんばれば、安定しそうな内容」を定着させていくこと。
それが具体的に何なのか? というのは、受験生によりけりなので、各ご家庭でお考えいただくことが大事です。
ただ、一般論を話すならば、「基礎事項の定着」が挙げられます。たとえば、社会の基本知識を漢字で書けるようにする、年号の暗記をする、不得意な文化史をおさらいする 等。
やり直してみたときに、「あー、そうそう! そうだった!」「前も、同じ間違いしたわ・・・」といった感想が浮かぶような、既に、何度か触れている問題に対して、完璧な定着を目指していくと良いでしょう。
【注意点1】基礎の全てを完璧にすることは不可能
「今は完璧ではないが、少しがんばれば、安定しそうな内容」を定着させていく際、2つの注意点があります。
まず1点目ですが、「(完璧を目指すことは大切だが)現実として、入試日までに、全て完璧にはならない」という心構えを持つことです。稀なる天才以外の凡人は、不安定な部分を抱えて入試に挑むのは当然といえます。
実際、自分の過去の生徒の中にも、入試直前期に「藤原頼道」を「菅原頼道」と答えたとか、兵庫県の県庁所在地を忘れたとか、そういった子たちもいましたが、前者は神奈川御三家に2校合格、後者は御三家やその他難関校を総なめしました。
もちろん、その誤答を見た際、「さすがに、それはやばいw」と、あえて苦笑まじりで指摘はしています。しかし人間は、コンピューターのように、際限なく知識を詰め込めるわけではないので、目くじらを立てることは、合理的ではありません。
「入試日までに、全て完璧にはならない(それでも、合格する)」というのは、親御様自身の受験経験を振り返ってみていただいてみても、ご納得いただけるのではないかと思います。
しかし、ものすごい天才肌・秀才肌の方とか、あるいは、内申点を揃えて、推薦入試で受験をクリアしてきた親御様は、その感覚がわからず、無闇に焦ってしまうこともあるかもしれません。
ですが、そんな親の不安が子どもに伝わり、自信のないまま試験に挑むと、上手くいくものも上手くいかなくなるので、ご注意いただくといいでしょう。
【注意点2】志望校の過去問(難問)から逃げない
2つ目の注意点ですが、基礎だけやっていればいいわけではなく、難しい問題にも、がっつり当たったほうがいいです。
すなわち、1月中も、過去問を解くことが大事になります。
その理由として、
「(1) 基礎だけやってても、入試問題が解けるわけではないから」
「(2) 過去問に触れないと、1ヶ月の間に、時間配分の感覚を忘れてしまうから」
「(3) 難しいことを避けていると、本番の入試において、気持ちで負けてしまうから」
という3つが挙げられます。
過去問の効能:初見の文章を読み、「知識を引っ張り出す」訓練ができる
基本的な事項に取り組む際は、既にやったことのあるテキストを周回することが多いでしょう。仮にそうでなくても、「見たことがある問題」に取り組むと思います。しかも、教材によっては、「流水算」「鎌倉時代」など、ご丁寧に単元名まで書いてある。
それらの問題は、「反射で解ける」「(解き方等を)思い出すだけで、ささっと解ける」という特徴があります。
ですが、実際の入試はそうではなくて、幅広い学習範囲のどこかから出題され、「知識を活用する」ことで、初めて正答できるような問題が出題されます。
設問文や資料などをひたすら読んで、「このダラダラ長い文章、結局、何の話してるの?」→「ああ、『公職選挙法』の話か」などと解釈し、頭の中の棚から、関連知識を引っ張り出すことが肝要です。
「初見の文章を読み、知識を引っ張り出す訓練」をするには、入試過去問をやるか、応用問題のテキストをやるかしかないわけです。
過去問の効能:実践的なスピード感覚を身に着けられる
また、最近の入試問題は、各科目で長文化傾向にあるので、時間配分や、捨て問を判断する「感覚」が非常に大事。そういったスピード感覚も、実際の志望校の過去問を解いて身に着ける・思い出す必要があります。
最近よく耳にする「1月には過去問を解かないほうがいい」という考え方は、某塾で生徒に出されている指示ですよね。合格実績を出しているがゆえに、あの塾の発信は、親御様の間で信ぴょう性を持って、受け止められがちなのではないかと思います。
ですが、「1か月間という、小学生にとっての長期間、過去問を一切解かないことに、リスクはないのか?」を、今一度、真剣にお考えいただいたほうがいいでしょう。
中年の親御様と、12歳の小学生とでは、体感時間が全然違います。親にとっての「1か月前」は、ほんのちょっと前でしかなくても、子どもははるか昔に感じているということも、ご留意ください。
ただし、自分が指導するときも、入試本番3~5日前には、概ね、新規の過去問を解くのはストップします。もし、点数が取れなくて、生徒が落ち込んだとして、3日もあれば大体はリカバリーが効きますが、さすがに前日だと、そのまま入試まで引きずる可能性があるためです。
過去問の効能:入試当日を想定してメンタルが鍛えられる
小学生が試験に向かう際の、メンタル的な観点からも、「過去問を初めとする難しい問題から、逃げるべきではない」といえます。
入試本番、緊張しているときは、過去問と同レベルの問題でも妙に難しく感じられるものです。
だからこそ、応用問題や、今まで見たことがないタイプの問題にも向き合って、逃げずにやりぬいたほうがいい。
入試本番ではないので、今ならまだ、どれだけ泣こうがわめこうが、ノーダメージです。その都度フォローすればいいだけですから、子どもの反応を過度に恐れる必要はありません。
1ヶ月間という長期間、その子にとって取り組みやすいことばかり続けていると、いざ入試本番、気持ちの面で負けてしまいます。
先述した某塾ですが、「1月中に、新しい過去問を解くのはやめましょう」と指示を出しつつも、正月特訓では実際の入試よりも難しいんじゃないか? というような高度なことをやらせていますし、そもそも、通常授業で扱う内容や、志望校別特訓もハイレベルです。
授業の中で、知識を引っ張り出す訓練をしたり、メンタルを鍛えたりして、帳尻をあわせているからこそ、「過去問はやらなくていい」という指示が出せるフシもあります。(まあ、それでも正直あまり納得のいっていない指示ではありますが・・・w)
ですので、某塾に通っておらず、塾から負荷をかけられていない子が真似するのは違う、ということも述べておきます。
偏差値55未満は、別の対応が必要
最後にですが、「四谷偏差値55未満の子」の、直前期の勉強のしかたについてお話しておきます。
偏差値が下になればなるほど(← 便宜的に、このような言い方をすることを、どうかご容赦ください)、「あー、そうそう! そうだった!」「前も、同じ間違いしたわ・・・」といった思い出しが少なくなって、基礎問題を解くにしても、ほぼゼロベースから勉強するような形になります。
そのため、ここまで私が書いたことには当てはまらず、以下が大事になります。
「(1) 入試に出るレベルの問題を絞り込む」
「(2) (1)に対応するテキストを、まるごと周回する」
ただし、「絞り込む」といっても、受験校のレベルが高くなるほど、結局はまんべんなくやるしかないとは思います。
偏差値50くらいまでの学校なら、概ね、「全範囲をやらなければいけないが、深堀りはしなくていい(=浅く広くで、応用的なことまで手を出さなくていい)」というイメージでしょうか。
なお、「四谷偏差値45未満の子」ですと、そもそも演習量が足りていない場合も多く、過去問についても、入試前日や、当日帰宅後にやらざるを得ないこともあるでしょう。
不合格になってから、やっと気持ちにブーストがかかることもあるので、様子を見た上で、2/1以降もどんどん過去問を解かせて構いません。
成績別の具体的な勉強の方策について、ブログ『お受験ブルーズ』の長谷川智也先生の最新記事にも詳しく書かれていたので、ご覧ください。私は、この記事以上の内容は書けないと判断し、素直に誘導することにいたします(笑)。
(※ 外部リンク:「お受験ブルーズ『偏差値帯別、直前期の心構え』」)
ちなみに、長谷川先生は「サピ偏差値」でカテゴライズされているので、これまで受けてきた模試が、四谷大塚であれば偏差値から-7、首都圏模試であれば偏差値から-17したうえで、当てはまる成績別のアドバイスを読んでいただくと良いかと思います。
次回記事では、「入試期間(入試当日と合否発表)」の際に気を付けていただけると良いことについて書きます。なるべく、早めに書けるようにがんばりますので、よろしくお願いいたします!
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