中学受験生やその親御様に向けて、読書におすすめの本を紹介する企画、第2弾は、『推し、燃ゆ』 宇佐見りん(著)です。
『推し、燃ゆ』概要
どんな小学生におすすめか?
・ 「推し」がいる子
・ 感受性の高い子
・ 大人向けの本を読みたい読書家の子
・ 中学受験の物語文って、ワンパターンだな・・・、と感じている子
本文の難しさ
単行本:128ページ(文庫本:160ページ)
小5 四谷偏差値 55以上の子なら、「どんな登場人物がいて、どんな出来事が起こっているのか」については、理解できるはず。ただし、この本のような純文学は、事象の背景にあるテーマを読み取ることが難しいので、最後まで読み切ったとしても、「何だこの話?」と感じる可能性は多々アリ。(だが、その読書体験を楽しめる子もいます)
本の概要(あらすじ)
高校生のあかりは、「身体の重さ」を感じている。忘れっぽく、空気が読めないといった特性から、親をはじめとする周囲の困惑を招いてしまい、距離を置かれていた。だが、「推し」である男性アイドルの出ている作品や配信に触れる瞬間、あかりは生を感じ、彼だけが自分を自分たらしめてくれると信じた。そんな折、推しがある事件を起こして、炎上してしまう。
『推し、燃ゆ』感想
第164回 芥川賞受賞作。「純文学」を紹介したくて、この本を取り上げました。
中学受験向けのテキストや、入試で登場する文章の出典の中には、興味深く、面白いものがあります。一方で、小学生からすると取っつきづらい人間関係(両親の離婚や、外国籍の親など)を盛り込んで、小難しく見せてはいるが、内実、ワンパターン([マイナス→プラスの心情変化])である小説も多々存在するように感じます。逐一、心情変化のきっかけとなるような事柄が、はっきりと描写されており、テストの作問者からすれば、さぞ、問題を作りやすいはず。
ああいう文章は、中学入試の文章で取り上げられることを狙って書かれているのだと思います。もし、自分が現代の中学受験生だったら、違和感を覚えることでしょう。・・・と、まあ、業界の方からすごく怒られそうなことを書いてますが(笑)、本好きの視点から見た、ただの感想ですのでお許しください。
もし、自分と同様の違和感を覚えている子がいるなら、「純文学」を読んでみることをおすすめします。宮沢賢治や芥川龍之介も良いですが、現代の時流を捉えていて、ボリューム感(ページ数)があるという意味で、『推し、燃ゆ』はおすすめです。
主人公のあかりが、日々どういう気持ちを抱いて過ごしているのかは、塾教材にあるような[心情語一覧]の一言では、とても言い表せません。「34ページで、〇〇という行動をしているから、あかりの心情は『罪悪感』だ」というように、あけすけな表現から、心情を「論理的に」考える必要も、一切ありません。
その代わりに、128ページという全体を通読しながら、主人公の切なる思いを、感覚的に理解していくという楽しさがあります。
ちなみに、私もあるアメリカのバンドが好きで、高校生の頃はボーカルのことを、あかりのように、自分の「背骨」と感じていたような気もします。何もない中で、そのバンドの曲や存在だけがある、というような感覚には懐かしさを覚えました。
なぜ過去形かといえば、そのバンドのボーカルには問題行動が多く、来日公演でも遅刻してきて、開演まで1時間以上も待たされたとか、オリジナルメンバーと仲たがいし、復活するまでものすごく年月がかかったとか、色々な思い出(笑)があるためです。
すなわち、この本を真に楽しむには、かなり若い感性が必要だと思うので、10代のうちに読んでもらいたいです。特に、推しがいる子は、何かを感じるのではないでしょうか。
余談ですが、芥川賞受賞作といえば、2017年に開成高校で『コンビニ人間』が出題されています。個人的には、『推し、燃ゆ』よりも、『コンビニ人間』のほうがテーマ性はわかりやすいように思います。
が、このブログでは、なるべく入試で使われていない本を紹介したい、というこだわりがあり、『推し、燃ゆ』を選びました。(あと、『コンビニ人間』は、ちょっとだけ性的な表現があったと記憶しています)
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