【中学受験 社会】入試傾向の変化に合わせた勉強法-高輪中&渋幕中を例に紹介

「社会」の指導・学習法

「社会=暗記教科」というイメージがありますが、近年の中学受験においては、「思考力」を試す問題が増えています。・・・こう書くと、情報感度の高い親御様は「既に知っていますよ」と感じられるかもしれません。

ただ、そこから一歩踏み込んで、「今の入試問題は、具体的に、何がどう難しいのか?」ということを理解していただいたり、「日頃の家庭学習において、何を気を付けるべきなのか?」ということを考えていただくことが肝要だと思っております。そうすることで、小6の学校別模試や過去問演習の結果に振り回されることも、少なくなるはずです。

「知識さえ身についていれば良いわけではなく、それを元にして思考することが大切だ」というのは、まさに近年の社会科のトレンドと同じといえますね(^ω^)。では、実際の入試問題を見て、大切なことについて考えてみましょう。

思考力問題の例 1:高輪中(2023年)の社会

以下は、高輪中 2023年の問題となります。読者のみなさんも解いてみてください。

下の表2は、都道府県別収穫量において東京都が上位に位置するいくつかの作物について、都道府県別収穫量上位の都県と国内収穫量にしめる割合を示したものです。

表2中のD~Fには、こまつな(2020年)・パッションフルーツ(2019年)・ブルーベリー(2019年)のいずれかが入ります。作物名とD~Fとの正しい組み合わせを、下のア~カから選び、記号で答えなさい。

高輪中学校 2023年

[出典:高輪中学校 2023年]

この問題を子どもが難しく感じるポイントは、こまつな、パッションフルーツ、ブルーベリーの収穫量のデータを知らない(馴染みがない)という点だと思います。少なくとも、『予習シリーズ』には載っていなかったように記憶していますが、サピックスの『データバンク』にはありましたっけ? 

ただ、仮にサピの教材に掲載があったとして、「流石サピ!!」みたいな話がしたいわけではありませんw この問題は、どの塾のテキストにも載っている、基本知識を元に考えれば解けるからです。

まず、「パッションフルーツ」は南国のフルーツなので、鹿児島・沖縄が上位にある「F」だとわかります。

残りの「こまつな」「ブルーベリー」が悩みどころです。こまつなと同じ「葉物野菜」である、レタスやキャベツの収穫量が多い都道府県を思い出してみましょう。レタスの一位は長野県、キャベツの一位は群馬県、すなわち高冷地農業を行っている県が上位を占めます。そして、二位以下には近郊農業を行っている県も入ってきます。

予め、野菜の収穫量のデータをインプットするときに、「葉物野菜はすぐにしおれる(鮮度が落ちやすい)ので、大都市周辺で作られていることが多い」という理解をしておくと、もしかしたら、こまつなも同様に近郊農業なのではないか? と推測できます。

それを踏まえると、茨城県や埼玉県が含まれる「D」が「こまつな」、残った「E」が「ブルーベリー」となります。

ちなみに、筆者は東京の郊外出身なのですが、近所にブルーベリーの農家がいくつかありました。ですので、なかには知識として覚えていて、「ブルーベリー=E」と答えられる子もいると思います。

が、ここまでで見てきたように、そんなことを知らなくても消去法でなんとかなります。(「パッションフルーツ=南国の果物」は塾で習うわけではないので、常識的な知識として、それすら知らなかったらアウトですが・・・)

学習のポイント 1:浅く広いイメージづくりをする

まずは、子どもも親御様も、「社会の問題=クイズのように、知っていることを答えるものだ」という発想を脱却する必要があります。

デイリーチェックのような小テストも、80~90点くらい取れれば、それでいいと考えます。100点満点を狙って、何度も解き直すような必要もありません。子どもに「社会=クイズのように、知っていることを答えるものだ」と曲解させないためにも、「語句を正確に覚える」ことを過度に重視しすぎないほうが良いです。

それよりも、何かを覚える際には、「一位の県は高冷地だが、二位以下は近郊農業だ。なぜなら、葉物野菜は・・・」というように、ある事柄に対する「因果関係・共通点・違い」を理解しながら記憶して、浅く広いイメージをつくっていくほうが大事です。

たとえば、以下の市販教材はイメージづくりの参考になると思うので、amazonへのリンクを貼っておきます。

『中学入試 くらべてわかるできる子図鑑 社会 改訂版』 旺文社

意外と上位生は、良い意味でアバウトな理解で合格していくものです。社会の偏差値が高い子でも、入試直前期に「菅原頼道」とか書いていてぎょっとした経験もあります。誰なんだそれは(笑)。

思考力問題の例 2:渋谷教育学園幕張中(2023年)の社会

先ほどの問題は、塾で学習する知識を活用する問題でしたが(※「パッションフルーツ」除く)、完全に「一般常識」が問われる問題もあります。その一例が、渋幕 2023年の問題です。

鬼退治で有名な昔話に「桃太郎」があります。この昔話の「桃太郎」の冒頭では、おじいさんは山にシバかりに、おばあさんは川へ洗たくに行きます。このおじいさんが山でかりとった「シバ」は、どのようなことに使われたと考えられますか。

渋谷教育学園幕張中学校 2023年 一次

この問題を見て、「答えはわかりますよ。これは教養ですよね」と思った方もいるかもしれません。ただ、「年端もいかない子どもが、この問題をどうやって解くか?」ということについて、想像力を持ってお考えいただく必要があります。長く生きていれば自然と身に着く教養を、たった12年しか生きていないのに答えさせられるから、中学受験は難しいのです。

「シバかり(柴刈り)」については、当然、塾の社会の授業で習うことはないです。国語で、「里山」「柴」についての論説文を読んで、たまたま、記憶していたという子もいるでしょう。

しかし、それはラッキーなだけです。読んだ文章など全部覚えていられるはずないですし、忘れたなら忘れたで仕方ありません。

一発で答えを出すことはできないのは当然なので、関連事項を想起して、あれこれ考えて、完答できなくても部分点を狙う気持ちで取り組みましょう。

この問題については、おそらく「刈り」を、「刈り」と勘違いした子が多いと思うのですが、その際に「ん?」と疑問に思って、立ち止まって考えられるかどうかがポイントです。

・「おじいさんは山へシバ刈りに、おばあさんは川へ洗たくに出かけました」
 →「芝」を刈る理由なんてない。
 →おばあさんとの対比で考えると、 おじいさんは、この時代の生活に必須なものを取りに行っている?

・小さい頃に読んだ『桃太郎』の絵本で、「おじいさんが、背中に何かを背負っているイメージ」があるような・・・。

上記のような思考で、何とか答えに近づこうとする努力が、非常に大切です。(とはいえ、「薪(たきぎ)」を知らない /あるいは、『桃太郎の絵本』に関する記憶すら無いならアウトですが・・・)

おそらく、渋幕としても、色々なことにアンテナを張る子、あるいは、考えられる子を求めているだけで、「正しい知識を知っている子」を求めているわけではないではないと思います。

学習のポイント 2:立ち止まって考える習慣をつける

「一見わからない問題でも、粘れる子」を目指すためには、普段からどのような勉強をすればいいのでしょうか? それには、「疑問に思ったことを、立ち止まって考える」思考習慣をつけることが肝要だと考えます。

たとえば、塾のテストで【授業では習っていない事柄】が出てきたら、親子で調べものを楽しむチャンスと捉えるといいでしょう。

あるいは、【知識を活用する問題】が出題されたら、親も一緒に「ああでもない。こうでもない」と考えてみる(←「先に答えや解説を見て、教える」のではなく)、その積み重ねが大事だと思います。

入試において、渋幕のような有名校がこの手の問題を出題することで、翌年度以降、結局は塾が「知識として教える」ようになるため、過度の詰め込み学習が進むという批判もあります。

後述するように、私も確かにそういう側面はあると思うのですが、一方、私学には、「こういう子がほしい」と思った子を選抜するために、好きなように問題を作る権利があります。そして現実として、特に苦も無く、この手の問題にハマって合格する子もいるわけです。

ですので、ご家庭としては、本質からズレないように学習するしかありません。「受験に出ることを、全て覚えなければ」という堅苦しい義務感を捨てて、難しい問題を楽しんで考える。そういった、ご家族様の資質や、環境づくりの努力は、子どもの思考力を伸ばすことに寄与するはずです。

ただし、思考力を伸ばすには時間がかかりますし、特にハイレベルな問題にもなると、努力したら全員が解けるようになるかといえば、必ずしもそうではないのは事実。そのことも認識しておいていただいたほうが、逆に親御様のお気持ちは楽になるかもしれません。

子どもが思考力系問題にハマらない場合、本人の精神的な成熟度が、学校の求めるものとは違っている、というケースもあるでしょう。

それは、巷でよく言われるような「地頭が悪い」とは、また違うことも多いのです。人間を無理やり成長させる手段などありません。その事実を無視して、親御様が強引に何とかしようとすれば、確かに批判者が指摘する通りの「過度の詰め込み学習」に陥ってしまうとも思います。

中堅校でも、社会の思考力問題は出題される

親御様として気になるのは、「思考力系の問題って、入試でどのくらいの割合で出るの?」「難関校はまだしも、中堅校であれば基本的な問題をおさえておけば合格するのでは?」という点でしょう。

これについては、四谷偏差値50~58くらいの学校でも、先に挙げたような思考力系問題を取り入れている場合があることを、知っておいていただくと良いと思います。

・問題全体を見たとき、思考力系問題の配点・割合が比較的高い。そのため、ある程度取れないと合格は厳しい。(高輪、暁星、巣鴨、成蹊、三田国際など)

・全体の中に、数問だけ、思考力系問題が散りばめられているパターン。その問題が取れなくても合格は可能だが、取れた方が有利ではある。(森村学園、都市大等々力、広尾学園小石川など)

どのくらい思考力系の問題が出ているかは、学校によりけりなので、過去問を実際に確認してみてください。

また、昨年、私が書いた筑駒、麻布、武蔵の社会の入試問題に関する記事は、これらの学校を受験しない場合でも見ておくと参考になるかもしれません。以下に関連記事としてリンクを貼りましたので、ぜひご覧ください。


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