本の感想『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』

中学受験関連の書籍レビュー

『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』 佐藤 智 / SAPIX小学部

今さらながら読んでみました。書かれている内容には、実に納得する限りです。私も中学受験の家庭教師として、ご家庭に同様のことをお伝えした経験がありますし、このブログで私が書いてきたことと、被っているような内容もありましたね。

この本には、いわゆる、受験テクニックや家庭学習の取り組み方的なモノは、一切書かれていません。「(受験の)もっとずっと手前にある学びの本質」に関する「子どもが興味関心の翼を広げるための実践法」が紹介されています。(※ 鍵括弧内は原文ママです)

登場するサピックスの講師陣は、皆、何百人もの生徒を見てきた大ベテランです。そういった先生たちが、経験則から「これはやったほうがいいよ」とアドバイスすることには意味があるはずです。

この本に書かれている「実践法(読書や対話習慣やお手伝いなど)」を、実際にやるか・やらないかはさておきとして、なぜ、それらが大事だと先生方は言っているのか? を考えていただくことは、中学受験の親御様にとって、大切だと思っています。

「情報」だけでは、中学受験には勝てない

私個人の勝手な憶測にはなりますが、この本は、昨今の中学受験の親御様の内々にある「誤解」を解き、啓蒙するために出版されたのではないか、と考えています。

「親御様の誤解」とは何なのでしょうか? それは、問題を解くテクニックや、スケジューリングといった「受験ノウハウ情報」を集めることこそが、子どもの成績アップにつながる、という誤解です。もちろん、これらの取り組みも大事ですし、親御様のがんばりを否定するつもりは全くございません。ですが、現実問題として「親が中学受験の情報に詳しくなる=子どもの成績アップ」ではないということは、ご理解いただいたほうがよろしいかと思います。

そう考えられる理由は色々とあるのですが、ひとつには、今の中学受験は「情報」を得ただけでは、大きな差がつかない、という点が挙げられます。

読者様として、最後に経験した受験は、大学入試である方が多いことでしょう。ネットが普及していない、25~30年ほど前の大学受験は、「情報」で差がついた側面があります。

たとえば、巷にあふれる参考書の中には、「ハズレ」と「アタリ」のものがあり、進学校や予備校に通っている生徒は、「アタリ」の参考書の情報が得られる。また、問題の効率的な解き方や、わかりやすい考え方といった受験テクニックを教えてもらえる。逆に、そういった機会がなければ、情報が全然入ってきませんから、成績は伸びづらくなる。それだけでも、偏差値の差がついていた時代だと思います。

しかし、現代社会においては、PCもスマートフォンもインフラです。塾の先生や、子どもを私立中学に入れた親のノウハウを、インターネットからいくらでも吸収することができます。また、大手四大塾に通っていれば、必要な情報は入ってきます。要するに、現代の中学受験は情報を持っているのが当たり前の世界なので、そこではほとんど差がつかないわけです。

このような違いに気づけていないがゆえに、「どこかに自分の知らない、成績を伸ばすための『正解』の情報があるのではないか?」という一心で、SNSにのめりこんだり、ドクターショッピングならぬ、塾・家庭教師ショッピングをしたりする保護者様もいらっしゃるのではないでしょうか。

中学受験で成功するために大切な2つのこと

「情報があるだけじゃだめなら、どうすればいいですか?」という問いに答えるのであれば、持論として、以下の2つのことが言えます。

1つめは、お子さまが勉強に取り組む際のメンタルや、学習姿勢を良くしていくことです。メンタルを良くするとは、「勉強をすると、良いことがある」「つらいこともあるが、とても楽しいときもある」のように、学習そのものに対して良いイメージを持ってもらうこと。また、学習姿勢を良くするとは、親御様の言いなりになって勉強するような形ではなく、子どもなりの自走をしてもらうことです。

2つめは、カリキュラム学習では伸びていかない、「土台の能力」を伸ばすことです。あえて雑な言い方をするならば、子どもの頭を良くしていくこと、とも言い換えられます。

そして、これらの2つに関するヒントが書かれているのが、この本『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』だと感じました。

ただし、誤解を受けないように述べておきたいことがあります。インターネットの中学受験界隈で、よく親御様が「地頭」という言葉を使っているのを見かけます。しかし、私はそれと同じ意味で「土台の能力」の話をしたわけではございません。

地頭という言葉には、その裏に「地頭は変えられないものである。地頭が良くなければ、成績が伸びないのも仕方ない」というニュアンスが感じられます。確かに、もともと、個々人が持つ能力に差があるのは事実です。しかし、周囲の大人たち(親だけでなく、塾や家庭教師など子どもに関わる大人全員)が子どもを信じて、能力を育み、見守っていくことが大切なのではないかと、私は考えています。

※ 「土台の能力」について、詳しくは以下の関連記事に書きました。
『中学受験「勉強しているのに、成績が上がらない」お悩みに本音でこたえます!』

集団塾は、受験テクニックを教える場所であり、情報提供する場所でしかありません。土台の力が弱ければ、どれだけ与えられた課題をこなしても、どこかで頭打ちが来ます。青臭い意見ではありますが、本来は、塾もその事実を保護者様に伝えるべきなんだと思います。そして、もちろん言いっぱなしではなく、「そのために、ご家庭で〇〇という声かけ/取り組みをしてほしい」と、具体的なアドバイスをするべきだとも考えます。

ですが、この手の話は誤解を生みやすく、伝え方が難しいのです。おそらくですが、親御様によっては、「うちの子、頭が良くないって言われているのかな・・・」とか、「面倒な取り組みを家でやらせようとしているけれど、それで成績が上がるとは思えない」と思うような方もいて、クレームをつけられたり、退塾されてしまったりすると、営利企業としては困る。だから、普段、伝えにくいことを伝えるために、『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』を書籍としてまとめたのではないか、と想像しています。

行き詰まりを感じている親御様に読んでほしい

この本で書かれている「実践法」について、いくつか私見や感想を述べたいと思います。

先ほど、私は「学習に対して良いイメージを持ってもらう」ことが大事だと書きましたが、これは「良い点数を取ったら、ご褒美をあげる」ということではありません。

子どもが勉強をがんばっており、それを労う意味で、おいしいものを食べに行ったり、ちょっとしたものを買ってあげたりするのは、親御様の優しさだと思いますし、そういったことには何も問題がないと思っています。

ただ、「たくさん勉強やったら(偏差値〇〇以上取ったら)、ご褒美をあげるね」というように、「結果」に対して褒美を与えるのは、避けたほうが無難です。それで子どもが親の望むように動いたとしても、この駆け引きを何度も繰り返していると、子どもは「何ももらえないなら、やらなくていいや」と思うようになってしまいます。

では、どうすればいいかといえば、この本に色々とヒントが書いてあります。中でも、私が良いなと思ったのは、「『わからない』が言える雰囲気づくりを心がける」という項目です。

少しでも親の言葉から「圧」を感じると、子どもは「うん」としか返事ができなくなります。「わかったよね?」に対して「わからない」と言ったら、「なんでわからないの!?」と返されるのが目に見えているからです。
「わかったよね?」という保護者からの言葉は、保護者にそのつもりがなかったとしても、コミュニケーションを切ることにつながります。本当はわかっていないことも、子どもは「わかった」としか言えない雰囲気になってしまうのですから。

大事なことは、どうやったら「わからない」が言える雰囲気をつくれるかということです。
「わかったよね?」ではなく、たとえば「じゃあ、説明できるようになったかな?」とうながしてみると、子どもが本当に理解できているかがみえてきます。
「わからなかったら、また聞いてね」でもいいですね。100%の理解ができていなかったとしても、また聞ける環境さえ整っていれば、子どもは再度確認してきます。
ときには、「おおまかにわかっていればOK」といったスタンスで接していくことも必要だと思っておきましょう。

佐藤 智 / SAPIX小学部『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』 ディスカヴァー・トゥエンティワン

勉強においては、「わかっていないことを、わかるようにする」ことが成績向上の最短ルートなわけです。だからこそ、「わからない」と言い出しやすい雰囲気を作らなければならない。自分も集団塾を辞めて、個別指導をし始めたばかりのときは、上記の観点がなくて、非常にまずい授業をしていた自覚と反省があります。

さらに、今では私も年齢を重ね、子どもからすれば「言い出しづらさ」を感じることもあるかもしれないので(単にオバサンになったともいえますがw)、若い時分よりも気を付けるようにはしています。

また、「親塾」においては、まだ反抗期の来ていない「真面目な良い子」であるほど、上記の状態(=実際にはわかっていないが、わかったような気持ちになって、面従腹背になっている)になっていることはよくあるのではないかと考えます。親御様にとっては、なかなか耳が痛い話で、そこを振り返るのは難しいとも思うのですが・・・。

あと、体験型学習については「親も楽しむことが大事」と繰り返し書かれていて、私も同意するところであります。これもこのブログでは何度か話してきたことなのですが、たとえば、旅行先で歴史的な建造物を見たとする。そこで親が「受験で必要だから教えないと!」という義務感から解説などをすると、子どもの心には残りにくいように感じています。

今、中学受験の学習に「行き詰まり」を感じている方は、ぜひこの本を読んでみると良いと思います。


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【この記事の続編と、関連記事は以下です】

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