『中学受験 奇跡を引き出す合格法則 予約殺到の東大卒スーパー家庭教師が教える』長谷川 智也 (著)
ブログ『お受験ブルーズ』で知られる、家庭教師・長谷川智也先生のご著書 第三弾。タイトル通り、「(現状の成績が思わしくなかったとしても、)『奇跡』を引き起こすにはどうすればいいか?」がテーマの本です。
こういった話題自体はよく耳にしますが、この本が普通と違うところは・・・、
(1) 長谷川先生は、年間300件のご家庭に対してカウンセリング授業を実施しており(指導件数は、通算2500件超え)、豊富な経験の中から、成功する家庭の共通項を見出している点
(2) よくある「算数は、これさえやれば偏差値60!」というような、手っ取り早そうな何かのやり方ではなく、ご家庭や受験生本人の心構えをメインに、論を組み立てている点
この二つです。ありがちなタイトルとは裏腹に、実はなかなか他には無い内容の本なので、ぜひ、多くの受験生のご家庭に読んでいただきたいと思っています。
「親として当たり前の要望」が、子どもの成長には逆効果?
「それって、あなた(親)の願望ですよね?」
この本の良い点は、いきなり「奇跡の法則」を並べ立てていないところです。「どうすれば奇跡が起こるの? 手っ取り早い方法を知りたい!」という即物的な読者を想定して(←おそらく)、いきなり本題に入らず、まず前提から述べていることに対して、誠実さを感じます。
その前提とは何か? というと、本の冒頭で、長谷川先生は、「JGの校風が素晴らしい。ぜひとも行かせたい」「聖光学院とか行ってくれたらいいなあって」といった、よくある親の言葉に対して、「それって、あなた(親)の願望ですよね?」と突っ込んでいる。この点です。
続けて、「決して親の希望を押しつけないこと。子どもは親の顔色を見ますから、無意識に忖度させないこと。(中略)親御さんは何度でも自問を続け、意思疎通を図ってください。奇跡を願う前に、それが全てにおける大前提です」とも語っています。
ここからは私見です。親が思っているだけのことを、無意識に「子どもがそう思っている」とすり替える、悪い意味で親子が同一化してしまっているパターンは多いと思います。
親と子で対話している様子がなく、子ども自身の意志が感じられない。その場合、受験も上手くいかないか、受験自体は成功したとしても、その後、親子間での相克が生まれるようになってしまいます。
こういったことは、家庭教師風情が言うことではない、という意見もあるかもしれません。でも、子どものためを思えば、本来は、当然言うべきなんですよね。生徒ファーストをぶらさない長谷川先生には拍手です。
「わが子は勉強してくれている」と親が言える家庭の子は合格する
ちなみに、この本には書いていませんが、長谷川先生はご自分のブログで、度々「『偏差値50は取ってほしい』という言い方は、子どもに失礼だからやめましょう」と語っており、自分も同意見です。
長谷川先生が考えていることとは、少し異なるかもしれませんが、私見を述べます。偏差値とは相対評価であるがゆえ、自分の努力だけではどうにも上がらない場合がある。たとえ自分自身の学力が伸びていたとしても、他人が自分よりもっと点数が取れたなら数値は上がらないわけです。
よって、親が偏差値ばかり見ていると、「その子自身の学力の伸び」を無視することに繋がり、到底上手くいかなくなります。
親「こんなに偏差値伸びてない! 他の子はもっとがんばってるよ!!」→子「自分としては、がんばってるのに・・・」という展開になって、子どものやる気がどんどん萎えてしまう。
この状況を言い換えるならば、子どもが親に対して、「パパ(ママ)には、会社では、せめて『部長』くらいにはなってほしいな」と願望を漏らし、「〇〇くんの親はもう部長だよ。もっとがんばってるよ」と言っているようなものです。
で、親が休日にゴロゴロしていたら、「なんで仕事の勉強しないの? そんなんだから、部長になれないんじゃないの?」「え、なんで不機嫌な顔してるの? 働くのは当然のことでしょう? これは、あなたのために言っているんだよ」と子から追い打ちをかけられる。
親→子であれ、子→親であれ、こういった相対的な評価や願望の押し付けが、相手に対して失礼であり、やる気をそぐ行為なのは同じことだと考えます。
話を元に戻すと、長谷川先生の本や、ブログの良いところは、普通の塾や家庭教師センターが「親の一般的な要望」として受け入れる言葉(「〇〇中学に行ってほしい」「偏差値〇〇は取ってほしい」)を、子どものためを思って、はっきり否定する場合もある点です。
では、親御様としては何をすれば、子どもが前向きに勉強に取り組めるか? といえば、この本には、「行動や努力の過程を誉める」という解決策が書かれています。
また、勉強をやって当然のものと見なすのではなく、「わが子は勉強してくれている」と親が言える家庭の子は合格する、という話題もありました。自分もこういった「子どもへの敬意」は大事だな、と常々考えています。(昔、自分のブログの記事でも書きました!)
行き詰まりの原因は、親子関係の距離感が9割
長谷川先生は、行き詰まる家庭について、「親と子が近づきすぎていることに、中学受験のトラブルの9割は起因しています」と述べています。
その具体的な解決策として、「たまにはお子さんのことを離れて、気分転換をしましょう。カラオケでも水泳でも、スイーツ食べ放題でもいい。とにかく『楽しみ』をお持ちください」と書かれていますが、これは行動として実行しやすく、おすすめです。
「ネコがいる家庭は受験に強い(検証中)」というページも興味深く読みました。自分が今まで家庭教師として指導したご家庭で、ネコを飼っている家が2件あったのですが、2件とも受験に強かったです。片方は、模試で取っていた平均偏差値より10高い学校に合格し、もう片方は、50%偏差値しか取れていなかった最難関中に合格しました。
ネコは、予測のつかないめちゃくちゃな動きをしますし(指導している最中、デスクの上に乗ってきて離れなくなったこともあるw)、動物ですから、当然そこら中に毛が舞うし、たまに粗相とかもします。
気まぐれな生き物は、元々おおらかな性格の方しか飼えません。そうなると、子どもに対しても完璧主義に陥らず、良い意味で「仕方ない」と寛大に構えられるようになるのではないかなー、と。ただ、たった2件の事例から、こんな分析をしてすみませんw
ちなみに、この本には書かれていないことですが、一般的に聞く「中学受験は、専業主婦の母親が圧倒的に有利(みっちり伴走できるから)」という言説については、個人的にはどうだろう・・・? と思います。
なぜなら、親子の距離感が近づきすぎてしまいがち、というデメリットを感じるからです。そういう場合は、親御様が趣味を見つけたり、ネコを飼ったり、「他」に目を向けてみると良いのかもしれませんね。
「超絶奇跡」Nくんのお話と、巷に溢れる受験情報について
他にも、ぜひみなさんに読んでほしいのは、長谷川先生が、中学受験~大学受験まで、指導した「Nくん」のエピソードです。まさに「超絶奇跡」の事例だと思います。
これを読むと、よく聞く「地頭」とかいうフレーズは、ろくに子どもと膝をつき合わせた経験もない半端者の同業者が、したり顔で広めたくだらない言葉だな、と思い知らされます。
このお話は、お子様の才能や努力の限界を感じている方には、本当におすすめです。大人から子どもへの接し方次第で、学習姿勢や、受験結果を良い方向にも、悪い方向にも変化させてしまう、非常にわかりやすい事例が挙げられています。
あと、エピローグで長谷川先生がお話しされていることは、私もこの一年くらいずーっと感じてきたことです。
巷にころがる受験系のほとんどの書籍やSNSなどは、受験のテクニックや情報ばかりで、「こうしないとダメ」「こうするのがお得」などといった、即物的な物言いが目立ちます。
出典『中学受験 奇跡を引き出す合格法則 予約殺到の東大卒スーパー家庭教師が教える』長谷川智也/講談社
できない子ができるようになる、しょぼくれている受験生やその家族がリアルに蘇生していく内面的メソッドが示されていません。どの本も、不安をあおり、一銭でも多く生徒やその家族からお金を搾り取ろうとするばかりです。こうしたほうが儲かるのはわかるのですが、それも狭い視野、近い未来だけの話に過ぎません。
もちろん、受験においては、具体的なテクニックも必要ですが、子どもの意志や、親のマインドといった大前提が改善しない限り、技術を実行したところで、上滑りになってしまうんです。
昨今インターネット上で、よく見かける「このテクニックさえ身に着ければ、誰でも偏差値60になります」みたいな責任感ない発信は、本当に無いわ・・・、と感じております。
だって、子どもの個性や抱えている困りごとって、人それぞれなんだから、一般化した方法論で、全員解決できるわけがないじゃないですか。
そういった物事の複雑性を無視した「断言型の言説」にはご注意ください。まあ、もうこのレベルになるとマルチ商法とかと同じ話法なので、信じてしまう受け手側の情報リテラシーにも、さすがに問題はあると思っていますが・・・。
情報があふれかえる世の中、このブログの感想記事も鵜呑みにせず、実際に本を読んでいただいて、ご自分で、内容をご判断いただくことも肝要だと感じております。読者様がご自分で考えたことや感じたことを、ぜひ大事にしてくださいね。
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