書き抜き問題は難しい? 四谷大塚テスト 国語の傾向と特徴を解説

「国語」の指導・学習法

中学受験生の親御様で、「この問題はカンタンなのに、なんで解けないんだろう?」「塾や家で教わっているはずのことが、テストではできないのはなぜ?」、このような疑問を感じたことがある方は多いことでしょう。

特に国語という教科においては、中学生や高校生は自分のつまずきを言語化できますが、小学生は完璧にはできません。実は小学生は、大人からすると、「えっ、そこ!?」と思うような意外なところで、つまずいているものです。

この記事では、2023年 四谷大塚 10月組分けテスト(小5)を例に挙げて、大人の視点からすると見落としがちな、「子どもが意外とつまずきやすいポイント」の一例を解説します。特に、現在の平均偏差値が40台~50台前半で、且つ毎回成績にムラがあるお子様の保護者様には参考になるかもしれません。

また、今回書く内容は、四谷大塚系テストが持つ「独特のクセ」についても分析できていると思うので、先述の偏差値に該当しない方も、四谷テスト生であれば、ぜひお読みいただければと思います。

2023年 10月 組分けテスト(小5) 大問3「物語文」

思わぬつまずきポイント1:リード文が長すぎて、人物関係が掴みづらい

国語の問題は、何百ページもある長編の物語文から、部分的に引用して作ることがあります。本来であれば、何十ページも読み進めながら少しずつ捉えていけば良い人物関係を、国語のテストの場合、一気に捉えなければいけないという難しさがあります。

出典:四谷大塚『2023年10月 組分けテスト』

上記は、2023年10月組分けテスト:物語文のリード文になるのですが、「私」「父」「ユルマズ怜来」「千凪」というキャラクターの背景が紹介されています。ここが「思わぬつまずきポイント」です。

登場人物がたくさん出てくるだけならまだしも、私は高校を中退しており、父は精神状態が悪く仕事をやめて、趣味はぬいぐるみ集めで、私はそんな父を恥ずかしいと感じていて、ユルマズ怜来と千凪の父はトルコ人で、ユルマズ怜来と千凪は兄弟で・・・と、ごちゃごちゃしているし、一般的な小5生にとっては、あまり身近とは言い難い設定がてんこもりです。

それでも、文章を読む地力や、読書経験がそれなりにある子であれば、特につまずくことなく、自然と頭の中で整理して読み進められると思います。しかし、そうでない子は、(1) そもそも、登場人物は誰がいるのか(2) その人はどういう背景を持つのか(3) 登場人物同士の関係性(親子、兄弟など)、これらがごちゃごちゃになってしまいます。

ごちゃごちゃを整理するためには、少女漫画の最初のページなどにあるような「人物相関図」を描いて見せてあげると良いでしょう。

※ 相関図の一例→  コミックナタリー『「シュガーアップル・フェアリーテイル」の人物相関図。』 

また、場面(場所や時間)が切り替わるごとに、人物は増えたり減ったりします。ですので、場面ごとに「今、ここには誰がいるの?」と質問してあげて、初出の登場人物には〇をつけさせることも大事です。子どもが一人で頭の中で整理できるようになるまで、これらの一連の作業を、繰り返し大人と一緒にやっていく必要があります。

実は、リード文が妙に長いというのは、四谷大塚系テスト特有のクセです。ちなみに、四谷テストでは、以下のように、いきなりキャラクターが複数名登場し、会話をし始める文章もよく見かけます。

【例】
「薫たちも、もっとがんばって、声出してよ!」
と、玲愛は言った。
「いや、俺らはじゅうぶん声出してるし・・・。そんなことより、サボってる梨花のことを気にしろよ」
「いや、私サボってないし」

(※ 実際に四谷大塚テストで出された文章ではなく、ブログ主の創作です)

この場合、口調や会話内容から、誰が何を話しているのかを、慎重に考えながら読む必要があり、それをしないと、これまた整理がつかなくなってしまいます。(私でも、読み始めて「あれ・・・?」となることは、結構あります。汗)

余談ですが、サピックス系の文章で、そういった意味での「やりづらさ」を感じたことはほとんどありません。サピの物語は長い文章を読む中で、人物関係を自然に理解できるような仕組みになっているからです。

一方の四谷大塚は、より平易なレベルにするために、文章全体を短くしようとしているからなのか(?)、リード文に人物紹介をぎゅうぎゅうに詰め込んだり、逆にあまり説明もないまま、唐突に複数名での会話が始まったりで、内容を理解しづらくなってしまっていることがあるように感じます。

2023年 10月 組分けテスト(小5) 大問4「説明文」

思わぬつまずきポイント2:「書き抜き問題」で、時間が大幅に食われやすい

四谷大塚のテストは、書き抜き問題の割合が多いという特徴があります。今回の大問4でいえば、10問中 7問が書き抜きという配分です。「記述問題と比較すると、書き抜き問題は簡単なのではないか?」と考える保護者様もいらっしゃいますが、実は、書き抜き問題はやっかいな問題ともいえます。

その典型例が、2023年10月組分けテスト:大問4「説明文」の問3-1です。

傍線部③「特に雄の成鳥には先を急がねばならない理由があるという」とありますが、雄の成鳥はなぜリスクを冒してでも先を急いで日本に渡来するのですか。その理由を表す、「から」に続く二十七字の言葉を文章中から探し、はじめの三字をぬき出して答えなさい。

出典:四谷大塚『2023年10月 組分けテスト』

書き抜き問題の基本的な考え方ですが、(1) 「雄の成鳥の渡来」の話題が、本文のどこに書いてあったかを思い出す (2) どのような答えになるのかを記述問題のように考えてみる(3)  実際に本文に戻り、「から」につなげられるフレーズを探すといった形になります。(※ (2)はわからないなら、やらなくてもOKです)

この基準で探していくと、86行目「雄がリスクを冒してでも一刻でも早く帰還しようとするのは、婚活のためであり、雌を確保したい一心なのである。」という文にたどりつきます。設問の答えとしては、これで何の問題もないのですが、この箇所だと二十七字ではぬき出せないので、別の似た文章を探さなければいけません。他に無いかな・・・と探していくと、30行目「雄ツバメには、早く日本に戻って営巣場所を確保し、婚活を有利に進めたい思惑がありそうだ。」という文にあたります。

上記のように書くと簡単な作業には見えますが、国語が得意ではない子の場合、以下のように時間がかかります。

・そもそも、本文のどこに何が書いてあったか、を思い出すのに時間がかかる(もう一度、読み直さなければならない場合も)。

・答えらしき文章が見つかったとしても、今度は「~から」につなげられるフレーズとは何なのか? という点がパッとは出てこない。

・86行目は間違っている答えなのに、この文章内のどこかで上手くぬき出せないかと、何度もトライしてしまい、時間を食われる。

・やっと、86行目は正答ではないという判断ができても、新しい答えの候補を探すのにまた時間がかかる。

そして、ひとつの書き抜き問題に10分近くかけてしまい、残り時間が足りないことに気づいて、それ以外の問題はまともに考えることもできなかった。→大問全体で得点できず、総崩れ、というパターンはあるあるだと思います。

書き抜き問題にスムーズに対応するためには、先述の考え方(1)(2)(3)の手順がしっかり身につくまで、繰り返すことが大事です。そして、(1)を考えるためには、そもそも読んだ内容を覚えている必要があるので、精読力をつけることは必須です。

あとは「対症療法」にはなりますが、小5まででしたら、傍線部付近を探せば、書き抜き問題の答えは見つかることが多いので、テストでどうしても時間が間に合わないときは、傍線部付近でだけ答えを探して、見つからなければ飛ばして、次の問題に行く、というやり方をしても良いと思います。

ですが、小6のテストや偏差値55以上の入試問題になれば、そのような場あたり的な解き方は通用しないことが増えるので、あくまで「テスト中に時間が間に合わないとき」限定です。テスト復習時や、その他テキスト演習では、正攻法でしっかりと設問・本文の内容理解をしながら、解いていくことが大事です。

「書き抜き問題」について、親が知っておくべきこと

設問の答えとして成立している箇所を見つけられていても、字数が合わなければ×になってしまうのが、書き抜き問題のやっかいなところです。純粋な読解力(本文を理解し、設問に答える力)よりも、スピード感を持ってキーワードを探す力や、日本語の処理能力が求められます。

個人的な意見にはなりますが、テストにおいて、書き抜き問題が多すぎると、「文章の趣旨を理解する」という国語の本質からは逸れるように思います。一昔前は、早実(早稲田実業中)で、大量の書き抜き問題が出題されていたのですが、今はほとんどなくなり、代わりに記述問題が増えました。このように、入試傾向を変える学校も出てきています。

記述問題と比べて、書き抜き問題は採点するのに時間がかからない、という利点は一応ありますが、それはあくまで採点者側の都合であり、受験生のメリットになるかといえば、全くそうではないのです。書き抜きを減らし、代わりに記述問題を増やすとすれば、適切に採点できる人員をいかに確保するか、といったリソースの問題が出てくるので、作問している塾を責めるつもりはありません。ですが、保護者様においては、この記事に書いたような「やりづらさ」があるということは、知っておいていただいたほうが良いかと思います。


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コメント

  1. 匿名 より:

    他の記事でも「対処療法」と書いていますが、「対症療法」の誤りですよね?
    国語の先生なのでは??

  2. toriyama_chuuju より:

    ご指摘ありがとうございます! 直しておきます。

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