本の感想『中学受験 算数専門プロ家庭教師・熊野孝哉が提言する難関校合格への62の戦略』

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『中学受験 算数専門プロ家庭教師・熊野孝哉が提言する難関校合格への62の戦略』熊野孝哉(著)

算数専門の家庭教師 熊野孝哉先生のご著書です。開成中合格率79%、女子最難関中(桜蔭、豊島岡、女子学院)合格率84%といった高い合格率を維持されています。

この本の良いところは、熊野先生がお持ちの豊富なデータ(生徒の成績や入試結果)を分析し、そこから考えられる推論や、難関校合格へのハウツーを書いている点です。

家庭教師は、自分の指導経験から「おそらく、〇〇の勉強をすれば、△△になるだろう」といった話をすることが多いのですが、そういう曖昧な話を「数値」を根拠に、具体的に説明しているところが、唯一無二の本だと感じます。

また個人的に、面白い本とそうでない本との違いとして、「意外性の有無」という基準が挙げられるのですが、『62の戦略』は意外性も感じられる内容で、興味深く読み進めることができました。

以下に、自分が興味深く読んだページの、小見出しを挙げてみます。

「マンスリーテスト対策を行わない理由」
「難関校入試は運の影響を受ける」
「難関校の合格可能性は初期段階でも予測できる」
「『頑張っている』という感覚に注意する」
「合格するために『見栄えの良い答案』は必要ない」
「親の役目は『監督』ではなく『管理者』」
「的確な釈明をできる受験生は勝負強い」

出典『中学受験 算数専門プロ家庭教師・熊野孝哉が提言する難関校合格への62の戦略』熊野孝哉/YELL出版

この項目だけ見ても、「えっ、そうだったの?」「それって、どういうこと?」と感じるものはあるのではないでしょうか?

そこで、熊野先生の戦略のいくつかと、それに対する私の感想・意見をみなさんにご紹介します。

(※ ちなみに、この本でいう「難関校」とは、男女御三家、筑駒、灘、駒東、栄光、早稲田、海城、豊島岡、渋幕、渋渋のことですので、ご留意ください)

【難関校入試は運の影響を受ける】

【難関校入試は運の影響を受ける】という章では、2020年に、熊野先生が指導して、開成中学を受験した5名の生徒の「科目別の得意・不得意」と「合否結果」が挙げられています。

さて、開成中学は、「算数が受験結果に大きな影響を与える」ことで有名ですね。

この本の出版年は2021年なので、熊野先生は、2016~2019年の合格者平均点と受験者平均点の差を挙げて、上記を説明していますが、[国語:6.9点、理科:4.4点、社会:5.0点]なのに対して、[算数:13.6点]と点差が大きいことがわかります。そのため、開成中は「算数の実力は高いが、国語と理科は不安がある」という子が受かる可能性が高いのです。

しかし、2020年は、合格者平均点と受験者平均点の得点差が[国語と理科:計17.1点]だったのに対し、[算数:10.9点]だったので、「算数は不安だが、国語と理科の実力が高い2名」「3科目すべての実力が高い1名」の子が合格したそうです。

しかし、同じ5名が1年前(2019年)の入試を受けていれば、合否結果は入れ替わった可能性は十分にあります。

それゆえ、「難関校入試は、合格するだけの実力があっても、運の影響を受ける」といえる、という話でした。

ただ【難関校入試は運の影響を受ける】とだけ言われても、多くの方は「え? 大事なのは努力でしょう?」と感じて、理解できないかもしれません。しかし、ここまで具体的な数値と、実際の合否結果を照らし合わせて挙げられると、ご納得いただけるのではないでしょうか。

【学校別模試は、『勝負強さ』を鍛える最高の手段】

これは私見ですが、難関校の受験に挑むためには、実力はもちろんのこと、メンタルも非常に大事になります。

中堅校であれば、ぱっと見ただけで「あ、これ知ってる」と、反射的に答えが出せる問題も多いのですが、難関校の場合、じっくり設問と向き合って、考えなければならないことが多い。

そういう問題に対して、何か不安や気になることがある状態で取り組んだとしても、頭がフル回転しないので、「メンタルは非常に大事」といえるのです。

私の考え方と論拠は少し違うのかもしれませんが、熊野先生も【学校別模試は、『勝負強さ』を鍛える最高の手段】という章において、受験生が「勝負強さ」を鍛えることの重要性についてはお話しされていました。

【早い時期に失敗への免疫をつける】

9月以降、多くの親御様は、目の前のテスト結果に翻弄されることが多くなると思います。

たとえば、「学校別模試」の成績が出た際、国語の偏差値が良くて、算数の偏差値が悪かったとします。その際、「国語は大丈夫そうだ」「算数はダメなんだ。何か対策を打たないと!!」というように、結果をそっくりそのまま捉えてしまう。

もちろん、その考え方が完全に間違っているわけではありませんが、捉え方として、少し「雑」といえるのです。

熊野先生は、【早い時期に失敗への免疫をつける】という項目で、「学校別模試」について、次のように述べられています。

通常模試では多少ミスが出ても極端に成績が下がることは少ないのですが、学校別模試は通常模試と違って受験者の実力が拮抗しているため、少しのミスで大きく順位や偏差値を落とすことになります。[中略]

例えば開成模試の算数でミスが重なると、1問の配点が大きいこともあり、簡単に(85点満点で)15~20点という大きな点数を失ってしまいます。そして、偏差値では10~15ほど下がる結果になります。[中略]

失敗に対する免疫がある受験生や親御さんであれば、そのような厳しい状況にも冷静に対処したり正しい判断を行うことができるのですが、免疫がない場合は焦りや不安が強くなったり、冷静でないが故に致命的な判断ミスをしてしまうことがあります。

出典『中学受験 算数専門プロ家庭教師・熊野孝哉が提言する難関校合格への62の戦略』熊野孝哉/YELL出版

要するに、「合格できる実力がついていたとしても、たった1回のテスト、しかも実力が拮抗している試験で、本領が発揮できるか否かは、また別だよね」ということです。

これは、一般的にもよく言われている話ではあるのですが、やはり数値を挙げて具体的に説明されていることと、親御様や受験生が陥りがちな感情を想定したうえで、自論を展開している点で、説得力があると感じました。

学校別模試に限らず、テストにおいては「あと、何問正解すれば、目標点(目標偏差値)だったのか?」を考えることは大事です。熊野先生がおっしゃるように、ほんの数問のミスがなければ、その目標に届いていた、という場合も多々あると思います。

親にとって「わかりやすい」部分だけ指摘していないか?

中学受験は特殊なので、小5・小6と進むにつれて、親御様も子どもが授業で何を勉強しているのか、よくわからなくなってしまう場合もあります。

そして、わからないことだらけの中で、「自分にとって、わかりやすい(目につく)」部分を不安に思い、子どもに指摘したくなることもあるでしょう。

お気持ちはよくわかるのですが、プロからすると、「そこは気にする必要ない。もっと別のことを追求すべき」と考えるわけです。親御様が表面的な指摘をし過ぎると、本質から遠ざかっていく場合もあるので、その点は、ご注意いただけるといいですね。

以下に、親御様が陥りがちな具体的なエラーについて書かれた章を紹介します。

【苦手分野の自己申告はあてにならない】

【苦手分野の自己申告はあてにならない】という章によると、熊野先生は、難関校を目指すご家庭から、「場合の数が苦手」と相談を受けることが多いそうです。

熊野先生は、授業内で実施した単元別問題演習の記録をとっており、過去に指導していた開成合格者12名の正答率と、相談があったご家庭の子どもの正答率を照らし合わせてみました。

すると、[前者は71%]なのに対して、[後者は85%]を超えている場合もあるとのこと。

なぜ、このような誤認識が起こるのか? それは、中学受験の「場合の数」は、高校数学に近い内容も多い、というのが理由に挙げられる、と熊野先生は述べています。

すなわち、親御様の高校時代と、小学生の子どもを比べて「うちの子は苦手だ」と認識してしまう、というこよですね。

これは「国語」においても、起こりがちな誤認識だと思います。

人生経験や活字に触れる経験を重ねて、言語能力も発達しきった18歳と、それが無い12歳では、文章の読める・読めないや、内容理解のしかたは全く違う。ですが、「ご自分の18歳のときの学習経験」と比較して、お子様の国語の現状を捉えている方は、非常に多いように見えます。

【合格するために、「見栄えの良い答案」は必要ない】

【合格するために、「見栄えの良い答案」は必要ない】というページでは、開成模試の算数で1位をとった子の答案が掲載されています。

これはパッと見、見栄えの良い答案ではありません。(字が乱雑で、全体的に曲がっている)

しかし、そうなるのは当然のこと。なぜなら、制限時間をフルに使えば、時間の余裕はなくなり、途中式を整然と描くことはできなくなるからです。そして、自分が何を考えたかがわかりやすい形で残せていれば良いので、むしろ「お手本」のような答案だ、と熊野先生は説明していました。

「国語」でも同じことがいえるでしょう。

昨今の中学受験の問題は長文化傾向にあるので、記述問題は急いで書きあげないと、制限時間に間に合わなくなる場合も多いはず。ですので、記述問題の字は「読めればOK」です。

書写のテストをしているわけではないので、美しい字を書いたところで、加点があるわけでもありません。あくまで、問われているのは、「問題の答えとして成立しているかどうか」という論理性です。(ただし、「漢字の問題」については、トメ・ハネ・ハライも見られることがあるので、丁寧に書きましょう)

まとめ:難関校合格へのベンチマークになる本

入試本番まで、あと4ヶ月半を切りましたので、受験生の親御様にとって、有意義であろう項目をピックアップして、ご紹介させていただきました。

なお、この本には、受験勉強が本格化する小5~小6生向けの戦略がメインですが、もっと低学年から目を通しておけば、親御様の心構えができると思います。

また、この本に書かれているハウツーを読んで、「うちの子は、この本に書いてあることなんてできない」と感じる方も多いでしょう。この本は、「難関校合格に受かる子は、ここまで『できる』ものなんだ」ということを、具体的に確認するための、良いベンチマークにもなると思います。忌憚なき意見を求めている方にはおすすめです。


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