中学受験家庭教師が、佐藤ママの功罪を斬る『「灘→東大理III」の3兄弟を育てた母の秀才の育て方 』

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『「灘→東大理III」の3兄弟を育てた母の秀才の育て方 』 佐藤亮子

中学受験におけるお母様たちのカリスマ、佐藤亮子氏(以下、佐藤ママ)の本です。今までも、佐藤ママの取材記事などは読んできたのですが、著書を一読したのは初めてでした。以下に、中学受験 家庭教師の立場から、佐藤ママのいいところ、疑問を感じるところを挙げてみたいと思います。

佐藤ママのいいところ

子どもの個性にあった教育を模索している

佐藤ママは、育児書・教育書・ノウハウ本を色々と読んだうえで、「一人ひとりの人生はオリジナルです。本のとおりにやってもうまくはいきません。我が家の中でさえ、子ども4人全員性格も考え方も違うわけです」という結論を出しています。

たとえば、長男くんは記憶力がいい。次男くんは100与えたものを100吸収するタイプではないので、300与えて100取らせていた。三男くんは理解はゆっくりだったが、英語で何度も同じ単語を調べていくうちに、周辺の単語や熟語も目に入り、教養となっていった、などなど。お子さんによる記憶力の違いをよく理解されています。

学習において、その子の能力のみならず、性格的なものも考えながら、フィットすることを与えていくのが大切、という佐藤ママの考え方には、私も納得する限りです。

ともすると、中学受験の伴走をしていると、「偏差値60の子は、〇〇という勉強法をしているらしいから、自分の子にもやらせれば成績上がるはず」とか、「親の自分にとって、△△というやり方は理解しやすいから、子どもも△△でやらせればいいに決まっている」といったパターンに陥りがちですが、そこにハマらず、子どもと徹底的に向き合っているのはすごい、と言えます。

言葉によって思考力がつくことを理解しており、絵本の読み聞かせを重視している

自分の指導経験上、どの科目においても、「正しいやり方で問題演習をさせているはずなのに、思うように伸びていかない」というときは、語彙力、文章理解力、及びそれに追随する思考力が足りていないことが多いです。そして、このブログでは何度かお伝えしていることですが、そういった土台の力」は、塾の勉強であまり伸ばすことはできず、ご家族のお子さんとの関わり方に大きくかかっています。

佐藤ママは、
「幼稚な言葉からは、幼稚な思考しか生まれません。自分の考えを言語化できるということは思考を整理できるということ、自分の思っていることを人に伝えられるということです」

という信念のもと、幼児期に絵本を1万冊読ませたそうです。それによって、日本の文化や考え方にたくさん触れさせ、子どもの心に根付かせることができたとのこと。しかし、1万冊読み聞かせなんて、そう簡単にできることではありません。そりゃ、お子さん賢くなりますわ・・・、というのが素直な感想です。

確固たる教育信念があり、他人のことを気にしている様子が無い

この方、今まで散々ネット上でたたかれてきています。そして、おそらく子どもを育てていく中で、周囲のママ友からも「佐藤ママって、教育熱心なのはいいけれど、ちょっとやりすぎよね(笑)」とか陰で言われていたことも、何となく推測されます。(後述の「疑問点」の項にも書きますが、私も「やりすぎ」を感じるのは確かなのですが)

ですが、ご本人は、そういう批判をほとんど気にされている様子が無くて、我が道を行っています。私の指導経験上も、自分がいいと思うことを貫き、迷いがなく、笑顔の多い親御様のお子さんの受験は、上手くいく傾向が強いので、なるほど、という感想です。つまり、「他人を気にしない(他人と比べない)」というのがポイントなのです。

「自分の子を他人と比べて、叱ってはいけない」というのは、今や中受ママ界のセオリーとはなってはいますが、実際にそれを完遂できているご家庭は少ないのではないでしょうか。仮に叱ることはなくても、テストごとに偏差値で右往左往していたら、結局は他人と比べていることになってしまいます。でも、佐藤ママはそれは無かったはずなので、とても強い方だな、と感じました。

佐藤ママに関する疑問点

自身の発言の影響力を考えられているのか?

佐藤ママは、「子どもが点数を取れないのは、子どもが努力していないのが悪いのではなくて、子どもを努力させられていない親の工夫が足りないと考えてください」と語っています。私としても、幼い子どもに勉強の全責任を押し付けるよりかは、素晴らしい考え方だとは思いますが・・・。

Kindleには自分と同じ本を読んだ人たちが、マーカーを引いた箇所がわかる、という機能があって、先述の一文には多くの方が線を引いていることがわかりました。

実は、自分はこの現象には問題があると考えています。佐藤ママ由来の「子どもの成績を伸ばすのは、親の責任である」という教育理念が、強迫観念」のようになって、親御さんの間に伝播してしまっており、多くの方々を苦しめているように見えるからです(もちろん、佐藤ママ自身は、苦しませようなんて意図していないと思うのですが)。親御様が子どもに、なかなか自走をさせられない理由も、多くはこの心理にあるのだと思います。

ママ友やSNSといった人間関係の中で、「他の親もがんばっているから、自分も同じようにがんばらなきゃ」「子どもの管理もできないような、ダメ親には見られたくない」「上を見ればキリはないが、“最低限“レベルの学校(あるいは、塾のクラス)に入れた親として見られたい」という感情が生まれるのかもしれません。

そして、「純粋に子どもを思う愛情」も内在しているのではないでしょうか。たとえば、テストや受験結果について、我が子が他人からヒソヒソ言われるのなんて、不憫で耐えられない。だから、佐藤ママが言うように、親の自分が何とかできるのなら、何とかしてあげたい・・・。

私が言えるのは、「テストや受験の結果なんて、親御様が全てをどうこうできるわけないじゃないですか」の一言に尽きますね。もっと肩の力を抜いていただいて良いと思います。

話が逸れましたが、佐藤ママとしては、シンプルに自分の信念を語っているだけなんでしょうけれど、「子どもの教育結果は、親の責任」と絶対に守らねばならない宗教の教義のように捉えて、苦しんでいる方がいる。そして、私の観測の範囲内では、そういう親御様は結構多い。その事実に対して、佐藤ママご本人は、どう考えているんだろう? という点が気になります。

進路選択において、子どもの意志はあったのか?

佐藤ママの教育理念や子どもに対する接し方には、私も同意できる部分がある一方、灘中も理三も、子どもたちが本当に行きたかったのかどうかはよくわからない点が、非常に気になっています。息子さんがFacebookで「母には感謝している」と発言しているソースもあって、外野がとやかく言うことではないのかもしれませんが、まあ、こんな話→(外部サイトへのリンク)もあります。

こういう違和感って、実はみなさん持っていらっしゃるのではないでしょうか? 佐藤ママがテレビに出たとき、SNSを検索してみると、幼児教育や中受に関係ない人たちは、彼女に対して割と辛辣な感想を述べている。しかし、中受の親御さんで佐藤ママを悪く言う人を見たことありません。これは、言わないというより、「言えない」からなんじゃないかな、と思っています。


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