前回の記事では、中学受験の国語においては、成績的にはハイレベルな生徒でも、大人からすると、実に意外なところでつまずいていることがある、というお話をしました。(※ この記事の前編はこちらです )
ありがちなつまずきの一つに、「文章を読んだ際に、頭の中でイメージ化(具体化)することができない」というものがあります。物語文において、登場人物が何人いるか、それぞれどんな属性(性別、年齢、職業など)であり、どんな見た目か、どんな表情をしているのかを、頭の中で思い浮かべられないのです。
今回の記事では、その話を一歩深めて、「抽象的な文章を具体化する力」について説明しましょう。
「前提知識をもとに、具体例を思い浮かべる力」とは?
中学受験の論説文(説明文)は、文章が抽象的ですので、前の記事で例として挙げた、算数の文章題や物語文とは、また違った難しさが出てきます。
では、子どもが理解できなくなりがちな、論説文の例を挙げてみましょう。
日本語には言葉が多い。それは、同じ物事を言うのに、いくつも言い方があるからだ。(中略)地位や職業による話し方の違いや、方言による話し方の違いもあり、日本語には言葉の数が多いということになる。
(出典:『国語〈1〉日本語の探検にでかけよう』 桐山久吉 汐文社)
この文章は大人なら理解するのは容易いですが、子どもによっては腹落ちしないことが多々あります。
なぜなら、以下のように「具体例」を頭に思い浮かべながら、読む必要があるからです。
【方言の話し方の違い】
標準語 だめ / 関西弁 あかん
標準語 いい / 関西弁 ええ
【地位や職業による話し方の違い(仮に「敬語」で考えてみる)】
する → いたす、なさる、される、します
こういったことを、自分でさっと思い浮かべて「ああ、確かに言葉が多いじゃん」とならないと、先の「日本語には言葉が多い。それは、同じ物事を言うのに、いくつも言い方があるからだ」という筆者の主張の意味がわからなくなってしまいます。
ここからわかるのは、国語の文章を理解するには、ある程度の「常識」を知っておいた上で、必要に応じて、頭の中で思い浮かべる作業が必要になるということです。
先述の「話し方の違い」の例は平易ではありますが、中学受験においては、科学、比較文化、自然と人間といった、普通に小学生として生きていたら知ることはないであろう難解なテーマが登場します。且つ、それについて、ある程度、常識がないと読めない文章も出題されるのが厄介です。
これに対応するには、問題演習の際、読解の型や問題の解き方を学んで、おしまい、とするのではなく、文章内に普遍的なテーマが含まれているのであれば、それを常識として理解させる、という作業を挟む必要があります。
家庭学習の際に気を付けるべきこと
ただ、この場合、指導者が「今回読んでいる文章のテーマは、入試頻出の◯◯だ。だから、ありがちな文章展開のパターンや、△△△、□□□という言葉の意味を教えておこう」と、ピンとこないと、教えづらいものがあります。
つまり、様々な入試問題に精通していないと、そんなことには気づかないので、ご家庭だけで指導するのは難しいかもしれません。
そういう意味では、『小6のサピックス Aテキスト』(毎週、テーマ別に分類されている)は、ご家庭でも扱いやすいと思います。
『予習シリーズ』も、小5 下巻からテーマ別になってはいますが、受験指導のプロでない限り(つまり保護者様が扱うには)、子どもに伝えるべきポイントが掴みづらい印象です。(今秋から改訂されるので、内容が良くなっている可能性はありますが)
また、国語で必要な常識は、理科と社会の学習を前提としていることもあります。
たとえば、以前小4の子の国語を指導していたとき、読解の文章で「湿度」の話題が出てきたのですが、その子は理社を全く学習していなかったので、そもそも湿度という概念を知らず、ちんぷんかんぷんでした。
諸事情で入試科目を国算2科目に絞る場合でも、何かしらの理社の学習(※)は続けることが必要です。そうしないと、国語におけるイメージを思い浮かべる力の欠如に繋がってしまいます。
(※ 理社学習の例:『学校の教科書』、『小学生新聞』、『時事問題集(大手塾が出版している市販のもので可)』を読んでみる等)
そして、ただ知識をつけてもらうだけではなく、文章題の解説の際には、適宜、具体例を思い起こさせるような問いかけをすることが最重要です。先の話し方の文章の例でいうと、「方言ってどんなものがあるっけ?」「地位による話し方の違いってなんだろうね」といった問いかけをして、子どもの頭の動かし方を変えていきます。
イメージ化のヒントとなる「具体例」を読み取れているか?
よく、「具体例は大事ではないので読み流そう」という読解の方法論を耳にします。言いたいことの意味は理解できるのですが、具体例を読み流してしまうと、文章に書かれていることがわからなくなりがちなので注意したいです。
そもそも具体例とは、抽象例(筆者の言いたいこと)を、具体的に示した文章ということになります。だから、抽象例を読んで意味不明に感じるのであれば、理解の拠り所を具体例に求めるべきです。
(人生において、)選ぶというと、前に進むイメージばかりがクローズアップされがちですが、実はこれにともなう大切な力があります。それは、引き返す力です。【抽象例】
たとえば、何かを選んだ後にいろいろなことがわかってきて、間違った、と思うことがあるでしょう。そのときは、すぐに引き返すことです。そうすれば、後悔は半分で済みます。【具体例】
(出典:『10代から考える生き方選び』竹信三恵子 岩波書店)
抽象例と具体例を比べたとき、具体例の方が頭にイメージが浮かびやすくはないでしょうか? ですので、むしろ子どもの状況によっては、「筆者の言いたいことの意味がわからなかったら、具体例を読んでみよう」と声をかけた方が良いです。
小学生はスポンジのように何でも吸収し、言われたことを前のめりに実行し続ける傾向にあります。その子の状況を見極めず、不用意に「具体例は読み流そう」と声かけしてしまうと、延々と具体例を読み流してしまい、文章の言っている意味がわからなかった、といった結果につながりかねません。
このブログで一貫して言い続けていることではありますが、生徒の個性や状況にあった指導をすべきだ、ということを改めて主張したいです。
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