小4で学力は決まる?決まらない? 親の「焦り」を利用する言葉にご注意を【中学受験】

中学受験「あるある」お悩みを解決

こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。

「小4で学力は決まる。その後、成績は上がらない」

SNSで何度もバズっているこの言説。耳にしたことはありませんか?

実際、親御様から「やっぱり、本当なんでしょうか?」と相談されたこともあります。

確かに、小5以降、伸び悩む子もいる。しかし私は、あえてこう言いたいのです。

「小4で『すべて』が決まる、なんてことは絶対にない」と。

教育現場で日々、子どもたちと向き合っている立場から、この言説を批判的に考察してみたいと思います。

はじめに:「小4で学力が決まる」は本当か?

塾講師時代の経験も含めると、今までに私は500人以上の生徒を指導してきました。

私の指導経験から、「小4で成績が決まる。それ以降は上がらない」という言説に対しては、「そうとは限らない」と言い切れます。

最初は順調でも、問題の難化についていけなくなる場合もあれば、逆に、急に勉強にハマってグンと伸びる子もいる。

具体的に、小5以降の流れは、大きく以下の3つのパターンに分けられると思います。

(1)  小5〜小6で成績が下がる子

小4までは良い成績でも、小5~小6で下がる子も多いです。これには、明確な理由があります。

小4までの学習内容は、「暗記」「パターン認識」で解ける問題が多いのです。

読む力(=テキストや問題文を咀嚼する力)や、深い理解は問われません。

小4までの勉強は、「問題文に『A』と書いてあったら、『A→B』の手順をやる」ことで正答できてしまうのです。

そのため、小4までは親御様が子どもを管理しまくって、模試の過去問をやらせまくるなど、「丸暗記型」の学習をさせれば、高得点が出ます。

一方、小5以降は、「読む力」「考える力」「処理スピード」など、小4までとは別の要素が必要になるため、同じやり方では点数が出なくなります。

しかし、小4までの「成功体験」があるので、勉強のやり方を改善することができず、ズルズルといってしまう・・・のは、よくあるパターンだと思います。

このパターンに当てはまるご自覚がある場合、次の(2)のパターンに移行できるようにする必要があるでしょう。

(2) 小5から成績が伸びていく子

これは、(1)とは真逆で、親御様が成績を上げようとしてゴリゴリの管理をせずに、見守っていたパターンです。

この状況で、本人の元々持つ能力が伴った場合、あるいは、ご家庭として、読む力・語彙力といった土台を育てていた場合、むしろ、小5後半あたりから偏差値が伸び始めます。

こういう子は、問題の「難化」に対応できるし、(1)の子たちの点数が下がるのに伴って、相対的に、(2)型の子どもの偏差値は上がっていきます。

特に男子に多いのですが、精神的に成熟してくれば、自分から勉強し出すこともあります。このように「勉強が自分事」になれば、偏差値5~10は一気に伸びます。

(2)型に導くためには、「頭の使い方」を良くしていくことが大事で、当ブログではそういった話題をメインに記事を書いております。

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(3)  小4のまま変わらない子

もちろん噂通り、「変化なし」のケースもあります。

特に小4時点で成績がふるわない場合、立て直しは容易ではありません。

土台(読む力、語彙力など)に課題がある場合、それを良くしていくのには時間と労力を要します。

小5以降は、通常のカリキュラム学習と、「土台の充実」を両立させるのは難しくなるため、現実的には厳しい面があるのが正直なところです。

それでも、もし「今は結果が出ないけれど、このままでは終わらせたくない」とご家庭が腹をくくり、根本的な学び直しに本気で取り組むなら、全く望みがないわけではありません。

実際に、「目の前のテストで点を取る」ことよりも「考える力や、語彙・常識を増やす」ことに一時的に集中する選択をした結果、小6で下克上を果たした例もあります。

(※ ただし、時間・環境づくり・親御様の覚悟が必要です)

なぜ、「小4で決まる」という噂が広まるのか?

10~12歳の3年間は、良くも悪くも変化が激しい時期です。

その時期は人間にとっての「発達の過程」でしかなく、そんなに単純に能力が固定されるはずがないのです。

このように少し考えてみれば、「小4で成績が決まる」という噂は、「全員に当てはまるはずがない」「言い過ぎだ」とわかる話ではあります。

それなのに、なぜ噂が拡散されるのでしょうか?

親御様の心が安定すれば、子どもも安心して勉強ができるようになり、学力が伸びていきます。 

妙な話に惑わされず、良い受験勉強が続けられるようにするためにも、ここで「噂が拡散される背景にある、親御様の心理について考えてみましょう。

噂にすがってしまう親の心理とは?

何かを「断言」されると、人は安心し、ラクな気持ちになります。

「小4で学力が決まる」と断言されれば、現在、小4で成績が良ければ「うちは、もう大丈夫」と思えます。

SNSには熱心な親御様が多く、子どもをびっちりと管理することで、成績を上げた方も多いです。

そういった方々にとっては、「小4までが勝負」という言葉は、自分の努力が正しかったことの「証明」として都合が良いのかもしれません。

一方で、うまくいっていない家庭も「今さらがんばっても仕方ない」「うちの子は地頭が・・・」などと、「割り切る材料」になり、むしろ、気持ちがラクになることさえあります。

「ラク」というのは、「考えなくていい。悩まなくていい。だから、ラク」ということです。

不安なときほど、人は複雑な事実について考えず、単純な言説に飛びつきやすくなるのです。

伴走で本当に大切なのは、「視座」である

もっと深堀りしてみましょう。

本気で伴走しようと思ったら、子どもの「導き方」が大切になります。

「中学受験は親が9割」と言われます。その言葉を、「子どものスケジュール管理や、問題のやらせ方が大事なのだ」と受け取るご家庭が多いです。

その受け止め方が完全に間違っているとはいいませんが、個人的には「親が9割」という言葉は、「親の視座が9割」なのだと考えます。

今までの指導経験上、様々な親御様と接してきましたが、良い受験ができるご家庭は、「視座」が違うのを観測しています。

そういうご家庭は、たとえば、子どもに対して、学習内容がなかなか定着しないとき、「なぜ、定着しないのか?」を突き詰めて考えられるのです。

しかし、突き詰めて考えていくと、現状が上手くいっていない原因が、大体は、親の自分にあるのではないか、と思い当たる。

たとえば・・・、

「幼少期に読み聞かせをしなかったのが、読解力のない原因かもしれない」

「低学年のとき、叱り飛ばしながら宿題をやらせてしまったから、勉強が嫌いになったのかも?」

この「自責的」な出発点から、「じゃあ、どうしよう?」と考えなければいけない。

それは、すごく大変で疲弊することです。

だから、中には「小4で学力は決まる」「地頭で全て決まる」という言説にすがりたくなってしまう方もいらっしゃるのだと思います。

冷静さを奪う「断言型言説」の怖さ

また、中学受験は、一般のご家庭にとっては「一度限り(多くても2~3回)」の経験であり、冷静になりづらいし、情報の取捨選択スキルも育ちづらい、と考えます。

中学受験が終わった親御様が、「なぜ、自分はあんなに怒ったり、焦燥感にかられたりしていたんだろう? 今は、まるで憑き物が落ちたようだ」とおっしゃることがあります。

要するに、人は余裕があるときは、物事を冷静に捉えることができるのです。

しかし、子どもの受験勉強に付き添っているときは、日々の課題や、毎週・毎月のテストといったスケジュールに追われてしまい、構造的に「立ち止まって考える」ことがしづらくなっています。

そういうときには、

「小4で成績は決まることもあれば、決まらない場合もある」という言葉よりも、

「小4で成績は決まる。その後は、絶対に上がることはない」のほうが、スッと入ってきやすいんですよね。

正しいけれど、解釈の余地がある言葉より、「断言」をしてもらったほうが、考えなくて良くてラクなので、信じたくなるのです。

冷静に考えれば底の浅い言説だとしても、堂々と自信ありげに断言されると、渦中にいる親御様の目には「力のある専門家の発言」としてうつりやすいのかもしれません。

私もこの業界に入りたてで、何もかもわかっておらず、慣れない業務に追われまくりだった頃は、「断言型」の偏った言説に対して、「そうなのか!」と無邪気に信じていました。

ただ、指導年数を重ねて、経験が増えていく中で、だんだん客観的な見方や思考ができるようになりました。

ネットを見ていて、「なぜ、ちょっと考えれば、『本当ではない』とわかる言説が広まるんだ・・・?」と思うこともよくあります。

でも、その「ちょっと考えてみる」が渦中にいる方にとっては、難しいんですよね。

おわりに:「小4で決まる」に振り回されないために

伴走をしていて疲れ、責任に押しつぶされそうになり、「小4で学力は決まる」(=「子どもの『出来』は元々決まっている」)と考えたくなるお気持ちはわかります。

しかし齢10歳にして、親御様にそう言い切られた子どもはどうなってしまうのでしょうか?

エジソンだって、「どうせ、この子はダメなんだろう」と決めつけられたら、発明するどころか、机に向かうことすらせずに終わったかもしれません。

受験を開始して終えるまで、親としての責任は伴います。逃げられません。受験勉強を開始したのは、子どもではなく、親御様のはずです。

ただし、その「責任」というのは、学習環境を整えたり、前向きになれるように声をかけたりすることです。

親御様に「テスト結果」はどうすることもできないのは事実です。

「成績が出ない=親のせい」ではないので、子どもへの関わり方に関して反省されたとしても、ご自分を責めすぎないでください。

「受験の伴走に親の責任は伴うが、成績や結果は親のせいではない」と捉えていただくことが大事だと思います。

受験が上手く行く家庭を見ていると、ある種の「ゆるさ」を持っているなと感じることも多いです。

真面目で「自分がなんとかせねば」と思っている方ほど、自力ではどうしようもないことにぶつかったときに、逆説的に「私は悪くない!」一辺倒になってしまうように思います。

不安・焦り・罪悪感などで苦しいことはよくわかります。この記事が、そんな皆さまの「冷静になるためのヒント」になれば幸いです。

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