国語の記述答案の「抽象化」は、サピックスのテスト(マンスリーテスト、組分けテスト、サピックスオープン)、また、難関校の入試問題(御三家中や駒東など)で求められます。
今回の記事では、記述問題の「抽象化」のポイントを書いてみたいと思います。
そもそも、「抽象化」とは何か?
そもそも、「抽象化」とは何なのか? という話から始めたいと思います。既にご存知の方は、この項目は読み飛ばしてください。
たとえば、以下のような文章があったとしましょう。
主人公の女子Aは、付き合いの長い友達Bを「一番の親友」だと思っている。しかし、ある日、Bが他のクラスメイトに「私は親友は特にいないかな~」と言っているのを聞いてしまう。そのとき、心の内側に波が立ったような気持ちになったのだった。
そして、【心の内側に小さな波が立ったような気持ち】に傍線が引いてあり、【このときの主人公Aの気持ちを答えなさい。】というテスト問題(字数制限なし)があったとします。
この回答を全く抽象化せずに書くと、以下のようになります。
* Bが他のクラスメイトに、「私は親友は特にいないかな」と言っているのを聞いて、心の内側が波立つ気持ち。
実際には、多くの子は塾の先生に、「『心情語』を使って記述しなさい」と習っているはずなので、「気持ち」の部分を変えて、次のような形で書くでしょう。
* Bが他のクラスメイトに、「私は親友は特にいないかな」と言っているのを聞いて、ショックを受ける気持ち。
そして、これを完全に「抽象化」すると、以下のような内容になります。(「対比」の観点も含まれますが)
* 主人公はBのことを一番の親友だと思っていたが、Bはそう思っていないのではないかと気づき、ショックを受ける気持ち。
「抽象化」とは、本文中の言葉をいくつか書きぬいて、組み合わせるのではなく、「要するに、この設問の答えはどういうことか?」と考え、自分の言葉でまとめるということなのです。
抽象化の必要があるテストとは?
【入試】学校によって、記述問題の採点基準は違う
抽象化の必要がある学校の代表格は、冒頭に書いた御三家中&駒東(駒場東邦)。これらの難関校が「抽象化」を求めるのには、(1) 受験生の論理的思考力や表現力が見たい。/ (2) そのため、抽象化して書かないと、答えとして成立しないような問題を出している。というバックボーンがあります。
その他の学校は、設問によって、抽象化が求められたり、求められなかったりといった形です。記述問題の採点基準は、各学校によって違います。ですので、学校側の「このくらい書ければ合格水準」という基準を掴むことも大切になります。
どうやって採点基準を知るか? についてですが、まず塾で「志望校別特訓」がある学校であれば、その講座を通して知るのが一番いいでしょう。また、学校によっては、公式ホームページや学校説明会で、細かい採点基準を公表していることもあります。鷗友学園や吉女(吉祥女子)がその一例です。その場合、公式のアナウンスをしっかりと確認しておくことも大切です。
そういった基準がない学校であれば、私が家庭教師で指導する場合、その学校の問題レベルや、平均点から採点基準を推測します。たとえば、「この問題は難しいのに、平均点は高め。ということは、採点基準はゆるいかな」というような感じです。また、四谷偏差値50以下の学校は、抽象化の必要はなく、本文のキーワードを組み合わせれば、点数がもらえることがほとんどのはずです。
なお、声の教育社の赤本(過去問本)の記述答案は、たまにあてにならないこともあるので注意したいです。(それでも、『四〇大塚 過去問データベース』の解答例よりはまだ良いと思うのですが。あ、言っちゃったw)声の教育社の答案には、「たとえ合格者でも、こんな答案が書けるわけないでしょ!」という、いかにも大人が書いたような仰々しいものもあります。無理に寄せようと躍起になる必要はありません。
【塾テスト】サピックスは抽象化重視。四谷大塚はキーワード重視
抽象化する必要のある塾についてです。まず、サピックスは抽象化したほうが高く得点が加算されます。そもそものコンセプトが御三家合格を目的とした塾だからだと考えます。
四谷大塚、日能研のテストについては、むしろ、本文中の言葉を書きぬいて組み合わせたほうが、部分点が多くもらえる傾向にあります。私見ですが、サピと違ってAI採点であるということが、大きく影響しているように感じます。(特定のキーワードがあるかないか? をベースに採点している)私も生徒の答案を見て、「え! なんで、これだけの内容が書けているのに、こんなに減点されるの?」と思うことは多数。
こうなってしまうと、生徒によっては記述を書くモチベーションが下がったり、強引に模範解答に寄せようとして、本質から外れた考え方をしてしまったりすることもあります。ですので、私の場合、「実際の受験なら〇になるよ」とか「サピなら、もっと部分点をくれるだろうね」など、客観的な目線からわかることを伝えてフォローしています。
少し話が逸れますが、中学受験マンガ『二月の勝者』で、黒木先生が、前田花恋さんの記述問題の質問対応をしているシーンに違和感を覚えました。
黒木と話し終えた花恋さんは、「そっか! 記述問題って無理に自分の言葉で書かなくても、本文中の言葉を使えばいいんだ」と言っています。桜蔭中志望で、普段からサピックス系のテストを受けている小6生の発言としては、「???」と感じてしまいます。しかも、黒木もサピックスをモデルにした塾、フェニックスの出身なわけで、私としては「この人、どういう問題で、どんな意図でそんなこと教えてるんだろう( ^ω^)・・・」と思ってしまいました(笑)。
(※ 7/29追記:よくよく考えてみたのですが、「強引に自分の言葉で書こうとした結果、筆者の意図するニュアンスとズレてしまう」ということはありますね。そういうときに、「部分的に」本文中の言葉を使うのはアリです。黒木先生、安易にdisってすみません!w)
「抽象化」を得意にするトレーニング
それでは、抽象化ができるようになるには、具体的にはどのような対策をとればいいのでしょうか?
記述問題に取り組み、指導者にきちんと添削してもらう
まず抽象化には「慣れ」も大切です。普段から訓練していなければ、いきなり出来るようにならないものです。
サピックスの場合は、小4から、クラスに限らず全員が『Bテキスト』という記述オンリーの教材を通して抽象化の訓練を積みます。そもそもの演習量があるから、慣れていてガンガン抽象化できる、というのも確かなのです。(四谷大塚にも『最難関問題集』がありますが、使用しているクラスは限られていますね。)
また、四谷大塚、早稲アカ、日能研では、先生が個別に生徒の記述添削をせず、〇か×か△なのかは生徒自身の裁量に任せていることが多いように思います。もちろん、先生によっては、しっかり見てくださることもありますが、サピと比べたとき、全体としては「講師の添削は少ない」印象です。すなわち、四谷、早稲アカ、日能研生が本格的な抽象化の訓練をするのは、小6からとなるはずです。
早稲アカでは、小6 4月に『NNオープン模試』(学校別対策講座の入室テスト)があります。記述問題が多いNN校のテストは、サピックスを知っている人間からすると、「え、こんなに平均点低いの?(こんなに書けないものなの?)」と思うことは請け合いです。サピできちんとトレーニングを積んでる子がNNのテストを受けたら、一学期中はぶち抜けることでしょう。ただし、他のみんなもNNで特訓するので、二学期以降に徐々に追いついてきます。ですので、早稲アカの方も過度に心配される必要はありません。
日常会話において、「つまり」でまとめる習慣をつける
上記に書いたように、サピではない塾の子は、小6まではどうしても抽象化のトレーニングが少なめになります。では、小4~5の間にどのように対策するかについてですが、日常生活において、言葉を言い換える習慣をつけるといいと思います。
たとえば、親が「今日、放課後は何をしたの?」と聞いてみる。そうすると、抽象化慣れしていない子どもは「Aくんと会って、まず公園に行って、キャッチボールをして、そのあとBくんが来て、30分後にCくんが・・・」とダラダラ話し出すはずです。その際、「つまり、今日は何をしたってこと?」と聞いてあげる。そうすると、子どもによっては「Aくん、Bくん、Cくんと公園でキャッチボールをして遊んだ」とまとめて言うと思います。
もし、まとめて言えなかったら、「つまり、みんなで公園でキャッチボールをして遊んだ、っていうことだよね?」と親がまとめ方を示してしまいましょう。子どもはそれを聞いて、「ああ、こういう風に表現すればいいのか」と覚えていきます。その繰り返しです。
模範解答を確認し、自分の答案と見比べたり、本文のどこを言い換えたのかを考えたりする
テキストで記述問題に取り組む際、抽象化しようとして「これ、どんな言葉でまとめりゃいいんだ・・・」と上手くいかないこともあるでしょう。そういうときには、なるべく自分自身で考える時間を作ってほしいですが、頭をひねってもわからないなら、模範解答を見ましょう。
その際の確認ポイントは、(1) 自分の答案と模範解答はどう違うか、(2) 自分が悩んだポイントを模範解答はどのように表現しているか、(3) 本文のどの部分をどのように言い換えているか、です。ただ「模範解答を見よう」と子どもに言うと、本当に見て終わりになることがままあるので、着眼点を示してあげることが肝要ですね。文字を書き写すと頭に入るという子は、模範解答を書き写すことも大切です。
選択肢問題に出てきた言葉を使うようにする
サピックス系のテストや、御三家の国語問題は、設問同士につながりがあることが多いです。どういうことかというと、たとえば・・・
・ 問6の選択肢問題で、[人物Aの気持ち]を選ばせる。
・ 問8の記述問題で、[人物A&人物Bの気持ち]の対比を書かせる。
といった形になっている。問8で人物Aについて記述する際に、問6の選択肢で使われているフレーズを使うと楽になるわけです。ただし、問6を正解していなければ使えない手法ではありますね。
小6生は、入試まであと261日! ここまでに書いた内容が、少しでもお子さんの参考になれば幸いです。
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