暗記じゃない中学受験社会:麻布中は「探求する力」「論理的推測力」で勝つ(2023年 入試問題解説)

「社会」の指導・学習法

暗記科目といわれる社会科。実は、難関校の入試問題ほど、問題を解く際に細かい知識暗記は必要としない傾向にあります。

そこで、「暗記じゃない入試問題」の代表格である、筑駒中麻布中武蔵中の実際の問題を通して、各学校で求められている力を解説。家庭において、入試対策として何ができるか?、類似問題を出す学校はどこか? も合わせてお伝えします。

第二弾は、麻布中学校です。

(※ 第一弾:筑波大学駒場中学校はこちら / 第三弾:武蔵中学校はこちら

麻布中の社会(2023年)

麻布の合格の決め手は、「なぜ?」を探求する力と、論理的推測力であると筆者は考えます。実際に、2023年度の問題を通して、そのことを紐解いてみます。

問題例と考え方

【問題例:その1】

大問1-問4 

税金は公共のものから利益を得られる人ほど多く負担するべきだという考え方がありますが、どの人がどれだけの利益を公共のものから得られているかを数字で示すことは難しく、実現していません。

一方で、収入を調べることはそれほど難しくないため、実際には以下に示した例のように税金を払う能力がある人ほど多く納めることになっています。

このような仕組みに対して賛成する意見も反対する意見もありますが、賛成する意見を二つ挙げなさい。

世帯A:夫、妻、子2人
・ 世帯年収 400万円(夫の年収 200万円、妻の年収 200万円)
・ 子ども2人は公立保育園に通っている。
・ 収入にかかる税を世帯全体で年間7万円納めている。


世帯B:夫、妻
・ 世帯年収 1200万円(夫の年収 600万円、妻の年収 600万円)
・ 週末は夫婦で市民体育館に行って運動をし、健康維持に役立てている。
・ 収入にかかる税を世帯全体で年間40万円納めている。

麻布中学校(2023年)社会

【考え方】
筑駒の記事でも書いたように、まず「この問題は、何の話をしているのか?」を考えてみます。そうすると、「累進課税制度」についての話題であることがわかります。

考え方1つめ:
設問で問われている「累進課税制度のメリット」に関しては、塾のテキストに書いてあります。たとえば、『予習シリーズ』では、次のような解説です。

(累進課税制度とは、)税を負担する能力に応じて課税することによって、負担を公平にし、所得の格差を調整するためのしくみです

四谷大塚『予習シリーズ(小6上)』

これを覚えていれば、答えの1つめとして、「各々の税金の支払い能力に応じた課税がなされるので、公平な税負担になるから」といった内容が書けます。

ただ、これだけでは足りない。麻布中の先生は、入試問題を通して、受験生の「暗記力」を図りたいわけではないと考えます。教科書に書いてあることをそのまま書くのは、結局は暗記した事柄のアウトプットにすぎません。

上記の解答だと、おそらく部分点は入るとは思いますが、高得点にはつながらないのではないか? と考えます(あくまで個人的な推測ですが)。詳しくは、次に書きます。

考え方2つめ:
先述の『予習シリーズ』の文章ですが、よくよく考えてみると、意味がわかりづらいです。まず、「なぜ、税の負担が公平になるといえるのか?」という疑問が浮かびます。

高所得者の課税金額が大きいのにもかかわらず、公平ってどういうこと? と思いますし、また、低所得者でも税負担が大きいと感じて、苦しんでいる人もいるわけです。

また、「『所得の格差の調整』としれっと書いてあるが、これは一体何なのか?」と感じます。

教科書を読んだとき、こういった違和感を持てるかどうか? が第一フェーズ。疑問をそのままにせず、先生に質問したり、調べたりしているか? が、第二フェーズとなります。そして最終的には、解答用紙に「自ら考えた」という痕跡を示す

これができていれば、多少は稚拙な解答(ツッコミどころの残る解答)でもいいのだと思います。記述で満点(〇)をもらう必要はありませんしね。

よって、二つ目の解として、「収入の低い人でも高い人と同等の公共サービスを受けられ、社会全体の底上げに繋がるから。」といった内容が書けます。

また、「そもそも貧しい人は支払える税金に限度があるため、公共サービスを一定の質に保つなら、累進課税にするしかないから。」も考えられます。

あとは、「自営業者に経費計上させることで、消費を促すことができて、景気の改善につながるから。」といった解答も考えられますが、これはさすがに自営業者の子どもでもない限りは思いつかない(そもそも、経費計上なんて知らない)ですね。

【問題例:その2】

問6:下線部エについて。近代的な上水道が、いち早く横浜で整備されたのはなぜでしょうか。その理由を二つ説明しなさい。

麻布中学校(2023年)社会

【考え方】
下線部エ近辺を読むと、水道事業が近代化したのは「明治時代」であることがわかります。さらに、問題文に「横浜」とあるので、「明治時代の横浜とは、どんな土地だったか?」を考えます。

そうすると、「江戸末期に開港した影響で人口が増え、上水道の需要が高まったから。」という解答が書けるはず。ちなみに、四谷大塚過去問データベースの解答例は、「外国人居留地がつくられ、町の人口が急激に増えたから」となっています。

もう一つ、理由を考えなければいけません。この手の問題を考えるときに、使えるのが、対比で考えてみるという方法です。

たとえば、他にも人口が多いはずの「東京」と比べたときに、何故「横浜」をいち早く整備する必要があったのか? 違いは何であるのか? また、「下水道」ではなく、「上水道」ということは、真水が必要なわけで、それは何故なのか? といったように考えてみます。

そうすると、「停泊する船舶への給水に真水が必要だから。」といった答えや、四谷大塚の解答例「海をうめたてた土地なので、井戸に塩分がふくまれるから。」という答えが思い浮かびます。

ただ、一つ目の人口関連の理由は書きたいところですが、二つ目の船舶やら土地の塩分やらを考え出すのは少し難しいかな、とは感じました。

麻布中の社会で求められる力と、家庭で出来る対策

麻布中の社会対策として、家庭で出来ることは何なのでしょうか?

「なぜ?」を大事にする学習

まず、問4(累進課税制度の問題)から分かるように、普段から「なぜ?」と疑問を持って、学習をしている必要があります。このことは、広く一般論として社会科の学習で大事なこととして知られています。

ですが、よくよく考えてみると、「なぜ?」を大事にする学習とは、いったい何なのでしょうか? 

これに関しては、陥りがちな罠があります。大人(指導者や親)が、「なぜ?」が大事ということで、歴史の因果関係などを熱心に解説する。そして、子どもがその話を真面目に聞く。子どもに「説明してみて」というと、説明したことをしっかりそのまま返してくるので一安心。と思いきや、実際には麻布型の問題は全然解けない=解説された内容を、全く自分のものにできていない、というパターンです。

要するに、子どもに自発的な行動がなく、「なぜ?」について、受け身で教えてもらっている状態であるのが問題点です。真面目に聞いてはいるが、頭が動いていない。

解決策としては、子どもに「なぜなんだろうね?」と問いかけ、じっくり考えさせる時間を取ることです。あるいは、大人も一緒に考えてみる。疑問に思ったことに対して、イチから調べる姿勢を見せるのも良いと思います。

たとえば、テキストの読み方一つにしても、大人が「『所得の格差の調整』ってしれっと書いてあるけど、これって、そもそも何やねん!」みたいなツッコミをいれながら読むと、子どもとしても「ああ、確かにおかしいな」と思うものです。

仮に大人が知っていることだったとしても、一から十まで全部説明してしまうのはNGです。誰かの話や授業を聞いて、子どもが「わかりやすい」と連呼している状況は、実は非常に危険です。とにかく、子供自身が考える時間を増やすことがポイントです。

「論理的推測力」を伸ばす学習

問6(横浜の上水道)のような問題については、限られた情報から、自然に考えられる答えを導き出す力、すなわち、論理的推測力が必要です。ですが、単なる知識のインプット←→アウトプットではなく、思考そのものが大切になるわけで、そのような力が伸びてくるまでに時間はかかります。

よって、個人的な意見ですが、麻布を目指すのであれば、小6の頭には、問6のような思考力問題に取り組み始めた方がいい、と考えます。

この記事の最後に、麻布に傾向が類似した学校を挙げていますので、それらの過去問からいくつか抜粋して取り組むのも一つの手段です。たくさん問題数をこなす必要はなく、一週間あたり30分だけ時間を作って解いてみるのをおすすめします。

※ 5/15追記:良い市販教材を発見しました! 過去問ではなく、↓のテキストに取り組むのも良いでしょう。
『中学入試 知識だけでは解けない思考力問題集 社会』 旺文社 (編集), 吉川厚 (監修)

この手の問題は、子どもが解けなかったときに、大人がどうヒントを出して、どうやって答えへと誘導するか? も肝要です。先述の【考え方】にも書いたように、設問文やリード文の読み方、ヒントの拾い方、対比を想定した考え方、が大事になります。

「小5までに何をすればいいの?」という件について。受験学年になる前は、ちょっとしたゲームで遊ぶと良いでしょう。長くなるので、別記事に書きました。

麻布中に似た傾向の学校

「駒場東邦(駒東)」「栄光学園」「海城」「鴎友学園」「渋谷教育学園渋谷(渋渋)」「渋谷教育学園幕張(渋幕)」で似たような記述問題が出ます。

いずれの学校も、麻布よりは少し簡単です。問6タイプの問題が多いですね。麻布の問題文はヒントが少ないですが、上記の学校群はヒントが多い(図版がいくつか載っている 等)といった特徴があります。

また毎年、麻布の一番最後の問題は、現代社会の諸問題について、知っていることや解決策を書け、という設問になっているのですが、それと類似の問題を出しているのは、「武蔵」となります。(「浅野」でも、2020年までは出ていました)

家庭学習のポイントは、麻布も武蔵も同じだと考えます。お子さんが麻布を志望しているのであれば、ぜひ以下の武蔵の記事もご覧ください。


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