暗記じゃない中学受験社会:武蔵中は「物事のウラオモテを見抜く力」で勝つ(2023年 入試問題解説)

「社会」の指導・学習法

暗記科目といわれる社会科。実は、難関校の入試問題ほど、問題を解く際に細かい知識暗記は必要としない傾向にあります。

そこで、「暗記じゃない入試問題」の代表格である、筑駒中麻布中武蔵中の実際の問題を通して、各学校で求められている力を解説。家庭において、入試対策として何ができるか?、類似問題を出す学校はどこか? も合わせてお伝えします。

第三弾は、武蔵中学校です。

(※ 第一弾:筑波大学駒場中学校はこちら / 第二弾:麻布中学校はこちら

武蔵中の社会(2023年)

武蔵の合格の決め手は、暗記力ではなく、広く社会的な事柄への興味と、物事の裏表を見抜く力(陰陽を考える力)であると筆者は考えます。実際に、2023年度の問題を通して、そのことを紐解いてみます。

問題例と考え方

【問題例:その1】

問6:永井荷風が指摘していることは、近年の気候の傾向の変化によってあらためて都市における大きな問題となっています。その問題について説明しなさい。

武蔵中学校(2023年)

【考え方】
本文から「永井荷風が指摘していること」とは何かを読み取ります。そうすると、「戦後の市街地のさらなる拡大に伴い、かつては清流であった水流が下水道に転用された。大雨の後は、下水の流れているドブ川が氾濫を起こして、大きな被害も出ている」ということがわかります。

ですので、解答を考える際の方向性は【市街地を拡大したために起こったデメリット × 近年の気候の変化】ということになります。近年の気候の変化といえば、地球温暖化に伴う大型台風の発生や、ゲリラ豪雨が思いつきます。

以下のような解答例が書けます。

地球温暖化によって、大型台風が発生するようになった。しかし、東京や、都心に近い神奈川の一部地域においては、人口過多のため、川の間際の低地のエリアにも住宅を大量に造成している。2019年の台風では、街に下水があふれかえるなどの深刻な被害が出た。東京一極集中の状態を改善することが急務となるだろう。

設問文では、「説明しなさい」とだけ、抽象的な指示がなされているので、何をどう書くかもポイントとなります。アバウトな話を書くのではなく、実例をなるべく詳しく書き、そのうえで、考えうる解決策まで書けると良いでしょう。

【問題例:その2】

問7:都市部に人口が集中することにより、経済的・社会的負担が発生している事例を、「大規模な上下水道の整備が必要となる」以外に考えて、どのような負担があるかを含めて説明しなさい。

武蔵中学校(2023年)

経済的・社会的負担が発生している事例」という条件を踏まえながら、解答例を考えます。

事例としては、「ヒートアイランド現象」が挙げられる。都市部に人口が集中し、緑地が開発され、アスファルトの道路が作られ、自動車や建物から排熱が増加し、気温が下がりにくくなるという現象である。熱中症のような健康被害や、生態系の変化といった社会的負担がある。また、保水機能を持つ道路を舗装する、ビルの屋上を緑化する、といった解決策があるが、コストはかかる。

「経済的・社会的負担」という条件がこの問題を難しくしています。「経済的負担」の事例が思いつかない受験生は多そうです。また、あってはならないことですが、そもそもこの条件を読み飛ばしたり、「経済的負担」の意味自体がわからなかったりしたらアウトです。

「社会的負担」という言葉は聞き慣れないのですが、おそらく「社会的費用」のことが言いたいのだと思います。この言葉を知っている受験生はほとんどいないでしょうし、別に知っている必要もありません(経済学の用語です)。何となく、語感から、「社会全体にとってのデメリットなんだろうなぁ」と捉えられれば、それでOKです。

武蔵中の社会で求められる力と、家庭で出来る対策

武蔵中の社会対策として、家庭で出来ることは何なのでしょうか?

武蔵中の学校説明会に行くと、過去の入試問題における採点基準や、実際の受験生の解答例が掲載された冊子がもらえます。それらは、必ず親子で確認しておきましょう。その冊子と、サピックスや早稲アカNNの『武蔵オープン模試』を見るに、何かしら書けていれば、概ね部分点は与えているようです。ですが、もちろん精度の高い記述答案を目指さなければ、合格は無いわけです。

それでは、精度の高い答案を書くにはどうすればいいのでしょうか? まず、社会的な事象に幅広く興味を持つことが必要になります。

そうなると、多くの方が「小学生新聞を取ろう」という発想になると思います。そして、最近では「小学生新聞では、(知識として)足りないから、日経新聞など大人の新聞も読ませよう」という風潮も見られます。しかし、個人的な意見としては、別に小学生新聞でも十分だと感じます。というか、足りる・足りていないの問題ではありません。

大切なのは、情報をどう受け取るか?です。新聞の内容を理解するのは当然として、情報の批判的な受け取り方を身に着けているかどうか、が重要なのです。

例年、武蔵の社会は、(子ども視点から見たときに)良いこと、あるいは、当たり前に存在するものに対して、問題点を考えさせる、という特徴があります。そこで求められるのは、多角面から物事を見る力や、物事の陰陽を考える力=すなわち、「批判的思考力」なのだ、と考えます。

たとえば、新聞を読むときにも、「このニュースはプラス面ばかり報道されているけど、なぜなんだろう? マイナス面は無いのかな」と考えることが大切です。そういった思考習慣が出来てくれば、自分たちが当たり前に住んでいる東京・神奈川の、便利で都会的な生活に潜む罠(問6)についても、普段から思いを巡らすようになるし、そういった情報に目がいきやすくなります。

また、麻布中の記事にも書きましたが、塾のテキストに書かれている内容に違和感を持ってほしいです。たとえば、昨年(2022年)、巷で非常に話題になった「政教分離の原則」が典型例なのですが、公民のテキストは割とタテマエで書かれており、実態とは食い違っていることも多いです。それを鵜呑みにせず、「あれ、現実と違っている? おかしいな?」と思えるかどうか? そもそも、そう思えるだけの前提知識があるか? 先生や親といった大人に質問できるか? そして、大人が子どもの疑問に誠実に回答できるか? がポイントになります。

与えられた勉強を真面目にこなしてさえいればいい、というスタンスの子(とご家庭)は適応しづらいのが、武蔵中の社会問題といえるでしょう。

子どもが「なぜ?」を大切にして、思考できるようになるには、「自分の疑問や考えは否定されず、受け止めてもらえるものだ」という経験と安心感が絶対に必要だということも、ぜひ覚えておいていただきたいです。

大人がコンテンツを一方的に与え続けるのではなく、子どもの自発性を待つ。また、子どもの持つ純粋な疑問や考えを大切にし、きちんと対話をする。そういったご家庭の質も問われる入試である、と私は考えています。

「批判的思考」について

さて、ここからは、余談になりますが、この「批判的思考」については、麻布や武蔵を受けずとも持っておきたい力です。

現実問題として、目先の中学受験で得点するには、あまり使うことはない力かもしれません。なぜなら、多くの女子校や中堅校の社会の入試問題は、結局のところ、暗記がものを言うことが多いからです。クイズみたいに固有名詞を答えさせて、あ、漢字で書けないの? はいアウト。みたいな世界です。歴史の整序問題にしろ、「年号なんて、たくさん覚えなくても、因果関係がわかっていれば整序できる」という方向性で取り組んでいたら、とても制限時間内には間に合わない。だったら、年号を覚えた方がスピーディーで確実なわけです。

目先の入試で中堅校に合格するには、それなりの手段を取るしかありません。ですが、「批判的思考」は、中学受験の先の学習にフル活用できる。また、生きていく上でも必ず必要な力です。ですので、カリキュラム学習をすすめつつも、物事の陰陽を考える。そんな習慣は多くの子につけてほしい、と願っています。

武蔵中に似た傾向の学校

論述問題が多く、細かい社会科の知識を必要としないという意味では、「麻布中」に似ています。ただ、麻布はある程度一定の解があるのに対して、武蔵は答えが複数にわたるような作りの問題も多く、実は毛色は違います。

ですが、家庭学習のポイントは、武蔵も麻布も同じだと考えます。お子さんが武蔵を志望しているのであれば、ぜひ以下の麻布の記事もご覧ください。


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