暗記じゃない中学受験社会:筑駒中は「読解力」で勝つ(2023年 入試問題解説)

「社会」の指導・学習法

暗記科目といわれる社会科。実は、難関校の入試問題ほど、問題を解く際に細かい知識暗記は必要としない傾向にあります。

そこで、「暗記じゃない入試問題」の代表格である、筑駒中麻布中武蔵中の実際の問題を通して、各学校で求められている力を解説。家庭において、入試対策として何ができるか?、類似問題を出す学校はどこか? も合わせてお伝えします。

第一弾は、筑波大学附属駒場中学校(筑駒)です。

(※ 第二弾:麻布中学校はこちら / 第三弾:武蔵中学校はこちら

筑駒中の社会(2023年)

筑駒の合格の決め手は、暗記力ではなく、読解力であると筆者は考えます。実際に、2023年度の問題を通して、そのことを紐解いてみます。

問題例と考え方

【問題例:その1】

大問1-5 毒ガスの製造場所にDの島が選ばれた理由と考えられることとして正しいものを、つぎのアからオまでの中から二つ選び、その記号を書きなさい。
 

ア 対馬海流がぶつかる場所で流れが速く、漁船が簡単に近づけないから。
イ サンゴ礁からなる洞窟が多いため、毒ガスを隠す場所が多くあったから。
ウ 本土から比較的近いため、物資の運搬が容易であったから。
エ 気候が安定しており、安全性の確保に役立ったから。
オ 火山島であるため、毒ガスの原料である硫黄の生産量が多かったから。

筑波大学附属駒場中学校(2023年)社会

【考え方】
まず、Dの島=広島県の大久野島であることをリード文から確認する。

ア:広島なので「対馬海流」は関係ない・・・×
イ:日本の「サンゴ礁域」といえば琉球諸島・・・×
オ:「火山島」に毒ガスの製造場所を作ったらヤバイでしょ・・・×
ウ&エ:特に理屈としておかしな点は見られない・・・〇

「大久野島」について、塾で学習することはありません。よって、ア&イに関しては、「広島県」に整合している内容なのか否かを考えます。いずれも小4で習う知識で正誤判断が可能です。

オは「大久野島が火山島かどうかなんて知らんがな」という感じなので、「選択肢が、設問の答えとして成立しているか否か?」という発想が必要になります。常識的に考えれば(←国語の選択肢問題でこの考え方はNGですが、社会の選択肢問題はむしろ大事です)、火山島に毒ガスの製造所をつくるなんて危険すぎる、とわかります。ですが、毒ガスの原料は硫黄というのは事実なので、そこだけ見て、〇としてしまった受験生もいるのかもしれません。

ちなみに現在の大久野島は、野生のうさぎが大量に生息する地として有名なようです。私は、今検索して知りましたw

【問題例:その2】

大問2-5 公共図書館への指定管理者制度の導入についてのべた文として正しいものを、つぎのアからオまでの中から二つ選び、その記号を書きなさい。

ア 多様化する市民の要望に対して効果的・効率的にこたえられるサービスの実現をねらいの一つとしている。
イ 施設を所有する権利を民間事業者にゆずり渡す対価として、自治体が売却の利益を得ることをねらいの一つとしている。
ウ 民間事業者に投資してサービスを向上させるために巨額の費用が必要になるため、財政にゆとりのある自治体を中心に導入が進んでいる。
エ 民間企業が指定管理者になった場合、入管や資料の閲覧に対して利用者から料金を徴収することで利益を確保することになる。
オ 短期的な目標や効率性を最優先にした運営がなされた場合、経験豊富な職員が人員削減に合ったり、文化的な価値のある資料収集の継続性が失われたりすることが心配されている。

筑波大学附属駒場中学校(2023年)社会

【考え方】
イ:リード文を読むと、「指定管理者制度」とは「公共施設の管理・運営を民間事業者に代行させること」だとわかる。それなのに、「ゆずり渡す」のはおかしい・・・×
ウ:リード文を読むと、指定管理者制度を導入した地方自治体の例として「佐賀県武雄市」が挙げられている。失礼な言い方にはなるが、財政にゆとりは無さそう・・・×
エ:イと同じく、「入館や資料の閲覧に対して利用者から料金を徴収する」時点で、公共図書館の運営内容とは食い違ってしまっている・・・×
ア&オ:特に理屈としておかしな点は見られない・・・〇

公共図書館の「指定管理者制度」についても、塾で習うことはほぼ無いでしょう。志望校別特訓などでは話題に挙がるかもしれませんが、元々知っているか知っていないかは、この問題が解けるかどうかには全く関係ありません。要するに、リード文を読んで「指定管理者制度」の定義や、実例を理解して、正誤の判断をすればOKです。社会というより、国語の問題ですね。

筑駒中の社会で求められる力と、家庭で出来る対策

筑駒の社会対策として、家庭で出来ることは何なのでしょうか?

まず大前提として、「なぜ?」を考えながら学習する / 図表やグラフと関連付けて知識を覚える / 横割りだけでなく、縦割りのカテゴライズでも概要を理解する(例:地域別の地理を勉強するだけでなく、「工業」という側面から全国各地を理解する)といった一般的にやるべきとされている学習はやっておきましょう。そのうえで、最終的には、文章の読み方が合否の決め手になる、と考えます。

上記に挙げた例(「リード文の内容を適切に読み取る」、「現状わかっている情報を整理して、正誤を考える」、「選択肢が設問の答えとして成立しているかを考える」)以外にも、設問文を読みながら、「この問題は、何の話をしているのか?」を考えることも大事です。

たとえば、大問1-4は「1954年当時、ビキニ環礁をふくむ海洋上では第五福竜丸だけでなく、多くの漁船が操業していた。これらの船が行っていた漁業についてのべた文として正しいものを、つぎのアからオまでの中から一つ選び、その記号を書きなさい」という問題ですが、まず初手として、「要するに、問われているのは『遠洋漁業』のことだ」と考える必要があります。

また、大問3からはグラフと問題文との照合が必要になります。大問3-5は「図Bの(a)~(e)の時期のできごとについてのべた文として正しいものを、つぎのアからキの中から一つずつ選び、その記号を書きなさい」とありますが、ここでもまずやるべきは、図Bの(a)~(e)が西暦何年頃、何時代なのかをそれぞれ読み取ること。

これらは文章を読める大人からすれば、当然の発想ですが、子どもの場合、意外と、このワンステップを飛ばしがちです。特に今までの学習を通して、「社会=覚えたことをクイズのようにアウトプットする科目だ」という意識が強くなりすぎてしまっていたり、ハイスピードで問題数を大量にこなすことに慣れてしまっていたりすると、この「問題を読む」という動作ができなくなってしまいます。

上記に思い当たることがあるご家庭は、意図的に問題演習の量や反復の回数を減らし、代わりにじっくりと文章を読んで、じっくりと問題を考える時間を作ってみてください。ポイントは「この問題、何を聞いているの?」と子どもに問いかけて、先述のワンステップを意図的に作り出してあげることです。

筑駒の社会を「難しい」と感じる子が多いのは、それだけ、小学生にとっては「読む」という動作が身についていないことの証左で、逆にしっかり読める子であれば、与しやすい問題がほとんどだと思います。人名や地名といった細やかな固有名詞を書かされることもほとんど無いですし、選択肢中に出てくる語句も、教科書の太字レベルの超基本事項で、マニアックな知識は必要ありません。ある意味、楽ちんとも感じるはずです。

筑駒中に似た傾向の学校

「女子学院」でも似たような選択肢問題が出ます。ただし、JGの場合はゴリゴリの暗記が必要とされる選択肢問題もあり、それらと筑駒型が混在している形です。

「渋谷教育学園渋谷(渋渋)」も、選択肢問題や空欄補充問題の考え方は、非常に筑駒に似ています。ただし、筑駒はたくさん文章を読ませますが、渋渋は文章量自体は少なくて、代わりに図版から読み取らなければならない問題が多いです。

【※ この記事の続編は以下です】


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