今回の記事では、「中学受験において、大手個別指導塾って使える? 使えない?」という話題を、現場にいた立場から、赤裸々に語りたいと思います。
中受で大手個別指導塾、アリかナシかで言ったら・・・
私は以前、大手個別指導塾に勤めていました。個別指導と聞くと、学校についていけない子対象の補習塾のイメージも強いかと思います。が、私がいた塾は自ら「進学塾」を謳っており、校舎数を伸ばし、首都圏の多くの駅にその看板を掲げていました。
3年間勤め、複数の校舎や上司の交代も経験しているので、それなりに内部事情は知っています。(塾業界では3年も勤めたら古株)
そんな私が、冒頭の「中学受験において、大手個別指導塾って使える? 使えない?」という質問に答えるなら、「非常に使い方が限られる」と返すでしょう。
基本的には、質問対応してくれる自習室と割り切るべきです。先の目標を見据えた指導や、成績向上を妨げているものの根本的な改善、保護者様との連携、つまり、受験指導のプロの領域を期待することはできません。
私がそう考える理由として、実際に大手個別指導塾にいたときに経験したエピソードを挙げたいと思います。
個別指導塾エピソード1:カリキュラムの「お手本」が意味不明
「先の目標を見据えた指導」と書きましたが、それを求める親御様は多いのか、私の在籍していた大手個別指導塾では、半年に1回はカリキュラムを作成しなければいけないという決まりがありました。
その際、旗艦校舎(生徒数が多く、合格実績をけん引する校舎)の「プロ講師(社内で認定されており、他より授業料が高い)」と呼ばれる先生が書いた、カリキュラム(算数)をお手本にするよう言われました。
すなわち、塾を代表するような『非常に良い』カリキュラムということになります。少しフェイクは混ぜますが、以下に内容を記しますね。
・ 新小5。女子最難関中学志望
・ 小4 1月現在(小5生になる直前)の首都圏模試偏差値 :45
・ 半年後の首都圏模試の目標偏差値:60
・ 1年後の首都圏模試の目標偏差値:70
・他塾には通っておらず、個別一本。算数は、週1回の授業。
・使用テキストは『新演習』。『新演習』の目次順に、1週間に1回の単元が書き並べられており、夏休みには「比」などの重要単元を反復予定。
まず、当ブログを読む意識の高い読者様なら、「なぜ最難関中を志望しているのに、首都圏模試を受けさせるの?」とつっこまれるでしょう。首都模試は、問題や母集団のレベルが高くないので、難関校を受けるのであれば、合格判定や偏差値が全くあてになりません。
現段階での本人のレベルを考慮して、首都模試を受けさせるとしても、小5の試験は年間通して5回しかない。よって、テストという真剣勝負の場数を踏めず、鍛え上げる機会が減る / ご家庭、講師共々、実力把握が遅れがちになる、という怖さがあるのです。
が、そういったリスクに対して、どう対処するか書かれていないのが気になります。並行して、四谷大塚のテストを受ける、といった記述は一切ありませんでした。
そして何よりも、首都圏模試偏差値45の子が、半年で偏差値15、1年間でも25も伸びるのか? という疑問があります。「どんな指導で伸ばすのか?」を知りたいのですが、カリキュラムを読んでも全くわかりません。
また逆に、担当される先生が「この子には、○○というハードルがあるので、伸びない可能性もある。そのために、こういう対策をします」といった、個別の対策を考えられているのか知りたくなりますが、それも書いていない。
たしかに、夏休みには重要単元を繰り返す旨は書かれていましたが、何を目的として、具体的にどんな対策をしようとしているのかが見えてきません。一般的に難しいとされている新出単元(「比」など)を反復したら、それだけで成績が伸びるのか? という疑問がわきます。
ちなみに、小4 1月(小5生になる直前)の首都模試で偏差値45だと、小4の段階で積み残しがあったり、根本的な計算力に難があったり、そこが大きな障害になることも多いと思うのですが・・・。
要するに、担当講師が子ども個人と向き合ってることが全く伝わってこないし、先の見通しも甘すぎる、という点がこのカリキュラムの大きな問題点です。
個別指導塾エピソード2:生徒の明らかなごまかしに、ベテラン講師が気づかない
先に書いたのとは別の子のエピソードを。こちらもフェイクは混ぜます。男子最難関 K成中を目指す小6生(四谷偏差値45)がいました。彼は10月に第一志望校の過去問演習を始めました。
「この成績でK成を受けるのか」と、感じる読者様も多いと思います。大手個別指導塾では、こういう受験パターンはよくあるのです。私も思うところはありますが、今回の本題とはズレるので、その点は触れないでおきます。
さて、私はグループ授業(理社は、集団授業をするシステムとなっていた)で、その子の社会指導をしていたので、答案をチェックしてみました。すると、どの科目も受験者平均~合格者平均点を超えている ×2年間分( ^ω^)・・・。その子の実力を考えれば、「答え写しているよね」とすぐにわかりました。これではその子のためになりません。
しかし、大問題なのは、算数・国語・社会の個別指導の先生(計3人)が誰も違和感を抱いておらず、2週間の間、普通に授業内で過去問解説をしていた点です。
そのなかには、「プロ講師」の方や、年配のベテラン講師もいました。どんな気持ちで授業していたのでしょうか?
「特に何の違和感もなくやっていた」のか、「実は違和感はあったが、面倒だからスルーした」のか、「実は違和感はあったが、その子が解答を写すなんて、するはずないと思った」のか、今となってはわかりません。
前者二つは論外として、最後の一つは一見優しく見えますが、生徒に対するアンテナが低く、子どもという生き物への理解が無さすぎます。学生講師ならまだしも、塾が自信を持って高額の授業料を設定しているプロ講師や、年配のベテラン講師なのに、です。
そもそも、この子に限らず、過去問演習を小学生任せにするべきではない、というのが私の意見です。解答を写す以外にも、50分間の制限時間を「勝手に60分間にする」とか、「最初30分間やったら、いったん合間に休憩して、残りの20分間に取り組む」とか、悪気もなくフツーにやります。
塾で過去問演習の監督ができないのであれば、ご家庭に協力を仰げばいいと思うのですが、「家庭との連携」という発想が無い講師、またご家庭への連絡の手間を省こうとする傾向の上司(※)が多かったです。
(※ 基本的にヒラの講師は、直接ご家庭とやり取りできないので、上司にご家庭への連絡をお願いしなければいけないことになっている。(←このシステム自体どうかと思う))
ちなみに、このエピソードのときの校舎長は良い先生だったので、生徒の高得点への違和感についても話が通じて、非常に助かりました。そこからは、生徒本人に自分の実力と向き合ってもらい、努力してもらいました・・・。
大手個別指導塾の「カモ」にならないようにするには
大手個別指導塾の一番の問題点は、講師が育っていかない環境であることといえます。中学受験について無知な講師、生徒へのアンテナが低い講師に対して、指導できるだけの人材がいないのです。
というか、指導する人がいないどころか、そもそも、謎カリキュラム(テキストの目次を書き写しただけのカリキュラム)が、塾全体のお手本になっちゃっていますし・・・。
一方で、「カリキュラムをちゃんと出してくれたから大丈夫」「過去問も全てお任せと言ってくれたから大丈夫」と思うだけで、カリキュラム内容を精査しない / 言われた言葉の意味を深く考えない親御様にも責任はあると考えます。
大変失礼な言い方にはなりますが、中学受験について、無知、無思考だと、大手個別指導塾の良いカモになってしまうのです。
親御様の思考が浅いがゆえに、個別塾の先生の「成績を上げるために、たくさん授業を追加しましょう!」という極めて雑な提案(言ってしまえば、営業文句)が簡単に通ってしまう。そんなシーンをよく見てきました。
逆にいうと、そのあたりは営業する側もわかっていて、「うるさそうな親(=自分より中受の知識がありそう / 日頃から子どもの勉強をきっちり見てそうな親)」には、大量の授業コマをゴリ押ししないのも事実なんですね。
個人的には、どんな親御様にも、受験における正しい知識や考え方を提供するのが、本来の塾の役割だと思っています。ですが、それは私の理想論でしかなく、唱えたところで、大手個別指導塾の体質は変わりません。せめて、このブログの読者様は気をつけていただきたいです。
大手個別指導塾は、「質問対応つき自習室」として使おう
それでは、どのように大手個別指導塾を使えばよいのでしょうか? まず大前提として、よほど特別な理由がない限りは、個別指導塾一本で中学受験するのは避けるべきです。
個別指導塾だけで受験するデメリットは、講師の質の問題だけではありません。「集団塾と違って他人との競争がないため、どうしても勉強の詰めが甘くなる」「授業時間が少ないため、演習量が確保しづらい」などなど、挙げるとキリがないのです。
大手個別指導塾を使うなら、大手集団塾に通いながらの補習がベストでしょう。具体的には、以下の使い方ができます。
1.わからない問題を質問するのに使う。
2.演習量を増やすために使う。
(特に、一人じゃなかなか勉強に取りかかれないタイプの子には有効。この場合、塾任せにせず、保護者様がやるべきコンテンツの指示を逐一出すのが無難)
いずれかの使い方と割り切りましょう。
成績向上を妨げているものの根本的な改善や、先々を見据えた指導にはあまり期待せず、すぐに質問対応してくれて、コピーなんかもしてもらえる自習室代わりくらいに考える。(「自習室にしては高額すぎない?」というツッコミが入りそうですが・・・)
逆にそういう考え方なら、子どもの状況によっては使う手はありでしょう。特にサピックス生なんかは、塾の先生に質問するだけで一苦労ですし、自習室もないですしね。そして、ここまで書くと、大手個別指導塾の合格実績のからくりもなんとなくおわかりいただけるかと思います。