塾無しで難関校は無理? 中学受験の家庭教師が「ゆる受験」について語る

中学受験「あるある」な話題について

大変お待たせいたしました。定期的なブログ更新を再開いたします。

今回の記事では、「ゆる中学受験(ゆる受験)」という考え方について、元集団塾講師、現家庭教師の立場から語ってみたいと思います。

「ゆる受験」の定義

「ゆる中学受験」といっても、受験関係者や保護者によって、捉え方は様々なようですが、まずは定義から確認してみましょう。

「ゆる中学受験」は、「進学個別 桜学舎」の塾長 亀山卓郎先生が提唱した考え方です。亀山先生のブログやYouTubeを見ると、「ゆる中学受験」の定義とは、以下であると説明されています。

1.「首都圏模試偏差値60以下」の学校を、志望校とする。

2.勉強の期間は、原則として2年間

3.1の学校の入試で求められる、基礎的な問題を定着させることに重きを置く。

首都圏模試偏差値58~60の学校は、桜美林、かえつ有明、駒込、埼玉栄、サレジアン国際世田谷、淑徳巣鴨、順天、多摩大目黒、桐蔭学園、獨協、日大豊山、日本大学、目黒日大、京華、カリタス女子、昭和女子大 等です。 【2024年9月現在】

(※ 外部リンク:「首都圏模試センター『偏差値一覧』」

サピックス、早稲アカ、四谷大塚、日能研の教材やテストには、難関校受験を想定した、発展的な問題・高度な読解力を要求する問題も多々含まれます。そのため、カリキュラムを定着させるのに3年間かかるのですが、「ゆる受験」の場合は、基礎問題のみに取り組むため、受験勉強の期間は短くなります。

また、家庭の目的を理解した上で、基本問題の定着をメインに指導してくれる先生に頼る必要があるので、桜学舎のような個人の先生が運営する塾や、家庭教師を利用しながら学習を進めることになるでしょう。

塾や家庭教師の先生の中には、「ゆる受験」の定義を理解した上で、それを良しと考えない人もいらっしゃるようです。ですが、ご家庭それぞれの価値観に過ぎませんし、私は否定する理由は何もないと考えます。実際、過去には「ゆる受験」の子を指導した経験もあります。

それに、私としても、子どもの才覚や、競争向きな性格か否か? という点、精神的な成熟度が伴っていないのに、みんなに一律でハイレベルな学習を課して、高い成績を目指させる風潮に疑問は感じています。

同時に、「中学・高校を私立一貫校で過ごす」こと自体に、大きなメリットがあると考えているため、「基本的な問題だけ固めて、目指せる学校を目指そう」という考え方にも、賛同できるのです。

ですが、「ゆる受験」には注意点がいくつかあります。

「ゆる受験」の注意点

「ゆる受験」でも、それなりに負荷はかかる

たくさんの小学生を教えてきた経験から言えることなのですが、小学校でまったり過ごしてきた普通の子にとって、「首都圏模試偏差値60」を取るための勉強は、それなりに大変だと思います。

そして、親御様の方も、勉強や工夫は必須で、たとえば、中学受験に関する知識を得たり、子どもが前向きに勉強できるための環境づくりをしたりしていくことは大切です。

要するに、「ゆる受験」するにしても、「ときには、受験生本人が、苦労や苦痛を感じることもある」、「塾や家庭教師に、全て任せておけばOKということではない」ということは伝えさせていただきたいのです。

ただ、みんなと一律で高い次元を目指すよりかは、親子共にかかる精神的・時間的負荷は少なくなるということなのですね。全くなくなるわけではありません。

難関校を目指すなら、「ゆるく」は無理

もう一つ、絶対にお伝えしておきたいのは、個別指導主体で、基礎的な内容を固めるだけで到達できるのは、あくまで「首都圏模試偏差値60」までである、という点です。

それ以上の学校を目指すのであれば、発展内容まで取り組み、学習量もぐんと増やし、模試も(首都模試とは別の)ハイレベルなものを受ける必要があります。

亀山先生もブログに書いていらっしゃいますが、それらを与えてくれるのは、「超有名塾」です。サピックス、早稲アカ、四谷大塚、日能研 等のことを指すと考えられます。

(※ 外部リンク:「進学個別 桜学舎『首都圏模試偏差値60はユルすぎるのか?』」

また、首都圏模試偏差値60より、さらに上の学校を目指すのであれば、他者との競争心や、「つらい・わからないことがあっても、何とか授業についていこう」といったマインドセットも大事になって、これらもハイレベルな集団塾でないと、中々身につきません。こういった場を提供してくれる、超有名塾の役割は大きいです。

もし、「ゆる受験」をお考えの方で、「子どもに、自分らしく勉強してほしい。大量の宿題とか競争とか、つらいことは避けさせたい」、「でも、難関校の合格を目指したい」という願いをお持ちの方がいらっしゃったら、それは二律背反する考え方であるとはお伝えしておきたいです。

少なくとも、私にはその二つを同時に叶える手段が考えつきません。

ごくまれに、集団塾無し&マイペース学習で、御三家といった難関校に合格する天才児もいますが、お子さんがそういうタイプかそうでないかは、2回も模試を受ければ成績にあらわれると思います。

子どものペースに合わせすぎるのは、本人のためにならない

普通の子が、中学受験を、本当の本当に本人ペースで「ゆるく」やるなら、合否結果は一切期待できないと思っていただいたほうがいいです。

私の個人的な価値観にはなりますが、「じゃあ、合否は気にせず、ダメもとで受験するだけしてみればいい」という「ゆる受験」希望の方の意見には、異を唱えさせていただきたいです。

なぜなら、12歳の子どもにとって「不合格」は、自分の存在が否定されたかのように感じて、本当にショックを受けるものだから。

受験本番までに、塾の競争で揉まれてきた子や、他の受験生と比較したときの自分の立ち位置を知っている子であれば、周囲の大人の態度や声かけしだいで、不合格になっても乗り越えられるものです。

しかし、「ゆるく」やっている子はそういった経験・観点がないので、不合格を通して、無意味な敗北感・劣等感だけ植え付けられて、中学入学後の勉強もがんばり抜けなくなってしまうこともあります。その点は、お子様のために重々ご注意いただいたほうが良いでしょう。

集団塾に通わない場合の注意点

塾がやってくれるはずのことを、親がやらなければならない

ちなみに、集団塾に通わない中学受験する場合、親御様には非常に高いレベルのリテラシーが求められます。

そもそも、なぜ皆がこぞって有名集団塾に通うかといえば、中学受験で出題される内容は、小学校の学習内容とかけ離れていて、問題が特殊すぎるからです。仮に親が問題を解けたとしても、子どもに再現可能な形で教えられるかというと、また別の話。

そのため、子どもを有名集団塾に通わせて、専門家の先生の指導を受けさせてあげることが現実的な判断になるわけです。(まあ、そこまで考えず、「みんなが通っているから」で何となく有名塾に通わせ始める方も多いですが・・・)

さらに、小学生は幼いので、勉強していてもダレるときが多々あります。しかし、塾が「みんなでがんばる場所」を設けることで、モチベーションの管理をしてくれているという側面もあります。

塾無し受験の場合、本来は塾が担ってくれるこれらの役割を、親御様が代わりに全部やらなければいけなくなるのです。

たとえば、塾に代わって、教材選定や問題の取捨選択も親がしなければならず、それをするためには、まずは志望校の過去問内容の理解が必要になります。すなわち、親御様にはある程度の「学力」が要求されるということです。

また、目まぐるしく変化する受験生の状況に対応するために、「複眼的思考力」「判断力」が求められますし、子どもの勉強が上手くいかなくても感情的にならないよう、「親子関係の良さ」「寛容性」「精神力」が必要なこともおわかりいただけるのではないでしょうか。

みんなが「王道」を選ぶのには意味がある

不謹慎な比喩かもしれませんが、志望校の受験を、「最終的にマシンガンを使って、戦争する」ことにたとえるとします。

集団塾の子は、4年生くらいから、少しずつ銃の扱い方を学んで、学年が進むにつれて、対人での実践訓練を始めて、そのうえで戦争に挑んでいる。

一方、塾無しの子は、戦争が開始するまで、ずっと自宅の庭でカカシを木刀で叩き続けている。親御様のリテラシーによっては、そのくらい明後日の方角に行ってしまうこともあります。

ですので、中学受験に挑むなら、まずは有名集団塾に通ってみるという選択肢を取ったほうがいいです。通ってみた後、何かしらの事情で辞めて、塾無し受験に切り替えるにしても、通塾した経験から、中学入試のレベル感やボリューム感がわかっているので、学習の方向性が、大きく外れることにはなりづらいと思います。

「個別指導塾だけで、中学受験するのはどうか?」というご質問について。校舎数がたくさんある大手個別指導塾については、「ゆる受験」を目的にするのであれば通って構わないと考えます。(ただし必ず、「1:1」で指導してくれるところを探しましょう)

ですが、首都圏模試偏差値60より上の学校を目指すのなら、実際に勤務していた経験から、おすすめはできません。詳しいことは、このページ下部の関連記事に書いてありますので、興味があればご覧ください。


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