塾の合格実績を信じるな。「受験者を増やして勝つ」リアルな実態【中学受験 塾講師の裏話1】

中学受験「あるある」お悩みを解決

こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。

塾ごと(あるいは、塾の校舎ごと)の「難関校合格者数の比較」の話題は、常に注目を集めていますよね。親御様として気になるお気持ちもよくわかります。

しかし、合格者数は、「その塾・校舎の教務力」の指標として、本当に機能しているのでしょうか?

こんな声も聞きます。

「塾の先生に、しつこく1月入試や午後校をすすめられた。塾の合格実績を水増ししたいだけじゃないの?」

本記事では、大手集団塾で実際に働いてきた筆者が、この「噂の真相」についてお話しします。

そのうえで、「合格実績に振り回されないために、親御様として持つべき視点」もお伝えしていきます。

1月校をすすめるのは子のため? それとも「塾の都合」?

塾の先生に、しつこく1月入試午後校をすすめられた。塾の合格実績を水増ししたいだけじゃないの?

まず、上記の噂についてですが、現場の経験から、「9割方はそうではない」と答えられます。

私が以前いた塾は、強烈に合格者数を追い求める塾で、合格実績を各講師の査定に反映することも、完全にシステム化されていました。

たとえば、「K中=3ポイント」というように、学校ごとにポイントが決められていて、その累積が本部から見た、校舎全体の評価になる。

その後、現場の講師に対しては、校舎長から各ポイントにどれだけ貢献したかを評価するという形をとっていました。

そして、ここからが読者様にとっては有益な情報になると思うのですが、ポイントが入る学校は、「偏差値60以上」の学校に限られていました。

また、偏差値60でもポイント加算がされない学校もありました。明確な理由はわかりませんが、おそらく「ブランド価値」の有無で、決めているのではないかと思います。

よって、皮肉な話にはなりますが、2/1の午後校で「ポイント」が入る学校はほぼありません。1月入試も、灘中や渋幕といった、ごく一部の学校に絞られます。

そういう「超難関校」をすすめられていないのであれば、「しつこく、1月入試午後校をすすめられた」場合、以下の理由だと思ってください。

純粋に、プロの目から見て、親御様が組んだ受験スケジュールがリスキーだと判断し、子どものためを思ってすすめている

先述した通り、私が働いていた集団塾は、4大塾の中でも、最も合格実績獲得に熱心な塾でした。

かつて、私はライターの仕事をしていたのですが、その際に、他の3つの塾の先生にも取材をしたことがあります。

色々と話を聞きましたが、合格者数を伸ばす「内部の圧」は、うちがダントツだと感じましたね(笑)。

一番厳しい塾でも、偏差値60以上しか査定に反映しないということは、他塾も大体同じか、もっとゆるい

すなわち、大手であれば、どの塾でもビジネス的理由から、1月受験・午後校をすすめることはないのではないかと思うのです。

だから、親御様向けに言える結論としては、「受験プランに関しては、何百人、何千人の生徒を見てきた、塾の先生のアドバイスにしっかり耳を傾けましょう」ということになります。

合格実績は「作れる」。知られざる志望校誘導の現場

先ほどは、受験校選定について、塾の「光」の側面を書きました。ですが、もちろん「影」もあります。

先ほど、「自塾は、難関校の合格実績を強烈に追い求めていた」と書きましたね。

実は年度初めには、校舎ごとに「K中:3名、A中:2名・・・」というように、超難関校の目標というか、ノルマ的なものが決められていたのです。

ここで、読者のみなさんにも考えてみていただきたいのですが、「K中:3名」と言われたところで、そもそも、K中を志望している生徒が、校舎に1名しかいなかったら、どうすればいいのでしょう?

この場合、K中に合格する見込みはあるが、志望していない生徒に対して、「志望校を変えてもらう」しかないのです。このことを、私の塾では「誘導」と言っていました。

実際にあった「誘導」の事例を紹介しましょう。

とある学校(以下、「山田中」とします)に受かる実力があるのに、もっと下の学校を志望している生徒がいました。

その際は、山田中の志望校特訓の責任者が、わざわざ1時間くらいかけて、校舎までやってきて、本人と親御様とで三者面談をしたのです。

そこまでされれば、「じゃあ、山田中受けるか」ってなりますよね。

たとえば、「自由闊達な川井中から、真面目で固い山田中に変更」というように、校風が全く違う学校同士になってしまうと、さすがに「誘導」はできませんが、そうじゃなければ、まず通ります。

正直に言えば、若い頃は、このことを特に悪いと思ったことはありませんでした。なぜなら、自分自身も「誘導」に近いことをされた経験があって、でも、先生には感謝しているから。

難関中学受験の話とはレベルが違い過ぎるのですが、実は私は、高校を卒業したら専門学校に進学しようと考えていたのです。

しかし、高校の先生が、私に大学受験に関する適切な情報を与え、さらに、普通→特進へとクラスアップさせるなど、上手く気持ちを持ち上げたことが、受験勉強を開始したきっかけになっています。

だから、塾講師をしていたときは、「誘導」についても、特に悪いことだとは思っていませんでした。

ただ、時間が経って思うのは、あくまでそれは「自分にとっては良かった」だけで、他人にとっても良いとは限らないということ。

もちろん、「海野中から、山田中に志望校変更してよかった。高みを目指す経験ができた」と感じる生徒もいるはずですが、「やっぱり、海野中に行きたかったな」と感じる場合もあると思います。

特に、進学先で上手く行かなくなった場合は、間違いなく、そう思うことでしょう。でも、合格した後のことなんて、塾は知りません。

誘導のラインは意外と低いことも。『二月の勝者』はリアルだった

ちなみに、志望校別特訓の責任者が出てくるような、「強烈な誘導」は、さすがに「80%は受かる」見込みがある子にしか行われません。

校舎レベルだと、そこまで見込みがない子にも、「誘導」はされていました。

中学受験マンガ『二月の勝者』でも、黒木先生が、柴田まるみさんにJG、加藤匠くんに海城中の「誘導」をかけていましたよね。

(※ まるみさんは自らJGを志望しましたが、一度諦めようとしたときに、黒木先生が「彼女には受験してもらわないとまずい」と、あれこれテコ入れをしていた)

二人がそれらの学校に合格するかというと、成績を見た限りでは、「どちらかといえば、不合格の可能性のほうが高い」と思うのです。

しかし、桜花ゼミナールは塾生数が少ないので、難関校を受ける人数を増やさない限り、合格実績も出せないため、黒木先生は誘導したのだと思います。この辺りはリアルでした。

「合格者数が少ない塾」は本当にダメ? 数字に隠れた「良心」

2月の入試が終わった後、各塾では合格実績が発表されます。

「子どもの通っている塾の合格者数が、少なくて不安」という方がよくいらっしゃるのですが、「合格者数の多い・少ない」がどのようにして作られるかを、考えてみたほうがいいと思います。

特に、小規模・中規模の塾であれば、「ある中学校の志望者」自体が、そもそもいない・少ない場合もあるわけです。

たとえば、某S塾では500人受けたとしても、別の塾では100人しか受けていないようなこともあるはずです。どちらが良い合格実績になるかは、言うまでもないでしょう。

そこで、半ば強引に受験者数そのものを増やそうとする塾もあれば、「そんなことはすべきでない」と考える塾もあります。

後者のほうが良心的ですが、親御様から見える合格実績の数値は、「しょぼい」ものになっている場合もあるはずです。

同じ塾なのに、校舎ごとの実績が違うのはなぜ? 数字の背景を読み解く

また、冒頭に書いたように、「同じ塾でも校舎毎に、こんなに難関校の合格者数が違う!」という話もありますが、そもそも、小規模校舎と大規模校舎では、小6の母数自体が4倍~5倍も違うのです。

くわえて、小規模校舎は郊外に多いですが、郊外の受験生は、距離的に都心の難関校に通いづらいので、実力があっても近場の受験で済ませることもあります。

都心の方々と比較したとき、教育熱はそこまで高くなく、「上昇志向」を持ち合わせていない家庭も多いです。

私自身も東京市部出身で、地元近辺で指導をしていた時期もあるので、肌感として、その辺りはよくわかります。

「データの裏側」にあるものを見据えて、冷静に判断するようにしましょう。

個人的には、塾選びで大切なのは、合格実績よりも、「子どもとの相性」だと思っています。

中学受験は、親御様の複眼的思考が求められます。この記事も、思考判断の基準のうちの「一つ」としていただければ幸いです。


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