本の感想『中学受験生を見守る最強メンタル!』

中学受験関連の書籍レビュー

こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。

あるとき、ご相談にいらしたお母様が、こんなふうにおっしゃいました。

「本人のためを思ってるはずなのに、最近いつも怒ってばかりなんです・・・」

子どもにとってベストなサポートをしたい。でも、どうすればいいのだろうか? そんな迷いを抱える親御様に読んでいただきたい本があります。

今回の記事では、『中学受験生を見守る最強メンタル!』 おおたとしまさ(著) の感想を書きます。

著者:おおたとしまさ氏について

著者のおおたとしまさ氏は、中学受験界隈ではおなじみの教育系ライターの方です。

以前、当ブログでは、同著者の作品である『勇者たちの中学受験』という本のレビューを書きました。(記事は、このページ下部の【関連記事】にまとめておきます)

『勇者たちの中学受験』では、取材をもとに、3つのご家庭の中学受験を描いています。

受験勉強が続く中での親子の葛藤や、合格間違いなしだった学校に、悉く不合格になる経緯など、生々しい部分まで書いた本です。

「光」の側面ばかりがフォーカスされる中学受験界において、「陰」をありのままに描写している。

私としては、『勇者たちの中学受験』は、読み手の親御様に、中受や子どもへの向き合い方を振り返ってもらう契機になる良い本だと感じています。

しかし作中には、実際の塾名を挙げての暴露的な内容が書かれており、ネット上ではその部分ばかりが注目されていました。

そういう「炎上」的な反応が出ることは、おおた氏や出版社の狙いだったのであろう、と推測します。

ただ、思慮深い親御様でないと、ショッキングな内容ばかりが頭に残ってしまい、本の内容をもとに建設的な思考は巡らしづらかったのではないでしょうか。

おおた氏の導きが「考えるヒント」になる

一方、今回、レビューする『中学受験生を見守る最強メンタル!』は、「12人の中学受験生のお母様のお悩みに、おおた氏がこたえる」という構成の本です。

まあまあ突っ込んだ会話をしていますが、『勇者たち……』のように、刺激的な内容ではないので、多くの読者は冷静に読めると思います。

また、各インタビュー(相談)の後には、「こういう迷いがあるときは、このように考えてみたらいかがでしょう?」というように、読者に向けた「思考のポイント」がまとめてあります。

つまり、読者が「自分が抱えている問題に対して、自分で考えるための導線」を引いてくれているのです。

『勇者たち……』のように、「材料だけあげるから、あとは自分で考えてちょーだいね!」という突き放したつくりにはなっておらず、非常に親切です。

(※ 『勇者』のジャンルは「ルポ」で、『最強メンタル』は「実用書」なので、本のつくりの違いは大きい)

中学受験生の親御様に、よくあるお悩みが満載

自分も、塾講師や家庭教師として、この本に載っている悩みは、すべて一度は受けたことがあります。

中でも、以下のようなお悩み・ご希望はよく聞きます。

「早慶くらいには行ってほしい」(あるいは、『偏差値50以上の私立中高一貫校』など)

「今の塾より、もっといい塾があるような気がする」

「ママ友や先輩ママは、〇〇しているけれど、自分も〇〇すべきなのか」

「子どもは、もっと勉強に対して主体性を持ってほしい」

このブログ経由で、ご縁があって、定期的に私の授業を受けていただいているご家庭から、この手のご質問やご希望はあまり聞きません。

しかし、知人からのご紹介などで、「一見さん」の親御様に対応することになった場合、よくこの本にあるような質問・相談を受けるんですね。

話を伺ううちに感じるのは、
・「そもそも、問題点はそこ(相談内容)ではない」
・「ご自身のお考えの整理ができていらっしゃらない」

ということです。

おおた氏は、かつて心理カウンセラーの資格を持っていたそうです。本作では、以下のように述べています。

心理カウンセラーって、原則的にアドバイスはしないんです。モヤモヤを晴らす答えは、必ず相談者自身の中にあるんです。それを一緒に見つけるお手伝いをするだけなんです。(中略)

相談者の話をよく聴いて、相談者自身も無自覚な思い込みや心の癖に気づいてもらうための質問をしていくことで、いつのまにか相談者自身の視野が広がり、今まで見えていなかった解決策に気づいてもらえます。

出典:『中学受験生を見守る最強メンタル!』おおたとしまさ 光文社 

「問題をきちんと述べられれば、半分は解決したようなものだ」とは、発明家、社会哲学家であるチャールズ・ケタリングの言葉です。

親御様が精神的に不安定だと、子どもも不安になってしまい、結果的に成績も下がります。しかし、問題を俯瞰的視野でとらえることで、心の霧は晴れていくのです。

この本は、悩める方々の「考えるヒント」になると思います

中学受験に潜む「内なる魔物」とは何か?

本の中で、中学受験生の親御様 「Oさん」は、おおた氏との話を通して、以下のように述べています。

「今お話していて、もう一つ聞こうと思っていたことの道筋が見えた気がします。

自分から宿題をやろうとしない息子に対して何かいい方法ありますかって聞こうと思ってたけど、私が自分の価値観の中に彼を押し込めたいだけだったんだなって気づきました。」

出典:『中学受験生を見守る最強メンタル!』おおたとしまさ 光文社 

Oさんが気づきを得たのは、おおた氏が、具体的なアドバイスをしたからではありません。

「選択肢を増やしたくて、中学受験を目指す中で、いつのまにか選択肢を狭めていないか?」

「親御様はスポーツで結果が出ないことに悩んでいらっしゃるが、今までは息子さんが良い成果を出すことによって、プライドといった『報酬』を得ていた。

じゃあ、息子さんに負けた選手は、スポーツをやっていた意味はなかったのか?」

おおた氏が、上記のように、問いかけをしていく中で、Oさん自身が自分自身を振り返り、「無自覚な思い込み」や「心のクセ」に気づいています。

これとは反対のやり取りとして、「Wさん」とおおた氏の以下のような会話があります。

おおた「人生の目標設定ってなかなかできないじゃないですか。そもそも中学受験が人生の一部だとするのなら、スポーツやビジネスのようにわかりやすい結果が出ておしまいみたいな単純なものじゃないのかもしれないですね」

W「そうなった時に、本人に納得させて勉強させる方法とか、こうしたいって気づかせる方法ってあるんですか?」

おおた「お母さんの話を端的にまとめると、子どもに主体性を持ってほしいっていう話なんですけど、成績を盛り返すためにやらなきゃいけないっていうのは、本当の主体性なんでしょうか。

お母さんの現状認識と子どもに求めているものが、ズレちゃっているのかなって思ったんですね。」

出典:『中学受験生を見守る最強メンタル!』おおたとしまさ 光文社

「うちの子は自走しないんです」「自走するようにするにはどうしたら?」、この言葉は、多くの親御様が抱くお悩みの代表格です。かつて私も、何度となく同じ相談を受けました。

でも、考えてみてください。

「誰かが自走させる」というのは、論理的に矛盾しています。自走とは、自ら考え、選び、動くこと。誰かがそれをさせる時点で、もはや自走とはいえないのです。

つまり、「自走しない」ことが本質的な悩みなのではなく、「そうあってほしい」という親の理想や、知らず知らずのうちに抱えた焦りや不安、そういった「無意識の声」が、本当の課題なのかもしれません。

本書では、それを「内なる魔物」と名付けています。ぜひ、ご自身の中にもあるかもしれないその存在に、静かに目を向けてみていただきたいです。


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