2024年度 中学入試総括 2 - 「小学生は受験直前まで伸びる」はウソなのか?

中学受験「あるある」な話題について

2024年の中学入試を通して、感じたことを書く記事の第二弾です。今回は、「小学生は、入試直前まで伸びる」という一般論について語ります。この言説はよく耳にしますが、そもそもたった1ヶ月程度で伸びるのか? と疑問を持つ読者様もいるでしょう。

(※ 関連記事はこちら。『2024年度 中学入試総括 1 - 中学受験はメンタルが9割。直前期は最悪を想定すべし』 )

ジャイアントキリングの条件とは?

結論から言うと、小学生が「入試直前に伸びる」ことはありません。理屈で考えればわかることですが、学力は、[環境 × 本人の才能 × 何百日・何千時間という学習]の積み重ねの上に成り立つものです。

さらに偏差値というものは、たとえ自分の学力が伸びていたとしても、周囲が先を走っていれば、一向に差がつかず、数値としては変化のないものになります。その差がたった1~2ヶ月間で埋まるかといえば、当然そんなわけはないのです。

ただ、その一方で、塾講師や家庭教師の仕事をしていると、入試において、いわゆる、ジャイアントキリング(←この言葉はあまり好きでないですが、便宜的に使いました)が起こったり、「なんか・・・この子伸びてるな?」と感じたりしたことはあります。

この現象は一体何なのか? それは、いざ入試本番が近くなって追い込まれたときに、その子が本来持っている良いところが出てきた、いうことなのだと思います。

伸びた(=今までできなかったことが、いきなりできるようになる)というよりも、そもそも、実は既にできていたんだけど、何らかの要因で日々のテストでは実力が発揮できていなかった、あるいは、安定感がなかったということですね。

たとえば、解法が頭に入っており、考え方も素晴らしいが、ケアレスミスが多く、正答までたどり着かない。あるいは、テストの復習の際、間違えた問題を特にヒント無く、ささっと解きなおせる()。これらは、小学生あるあるだと思います。

どちらのパターンも、実力が足りないが故の誤答というわけではないんですよね。要するに、本人の心がけと集中力次第で改善される問題なのですが、それが上手くいっていないだけです。

だから、入試当日に子どもの気持ちが真剣モードに切り替わるとか、1月入試や志望校の1回目の入試などで失敗をして、ショック療法で今まで気を付けられなかったことに、気を付けられるようになる等すれば、合格点には到達します。

『テストの復習の際、間違えた問題を特にヒント無く、ささっと解きなおせる(が、実際の試験中は誤答している)』・・・これは、本人の「注意力不足」で間違えているわけではない場合もあります。たとえば、試験問題が求める処理スピードと、本人のスピードが合っていない。そういった別の原因が引き起こしている場合もありますのでご注意ください)

「本当に実力不足」なのか? 「実は既にできている」のか?

みなさんが気になるのは、お子様が「本当に実力不足」なのか? 「実は既にできている」のか? その違いの見極め方だと思います。

その見極めの観点の一つは、やはり「今までの成績」になりますね。実力は、上振れしたときの成績に現れることもあるのです。

たとえば、4科偏差値の推移が56→63→58であれば、入試当日に63の実力を発揮して、63の学校に受かる可能性はあります。下ブレしても56は取れているのも大きいですね。逆に、ずっと4科偏差値53未満だった子が、63の学校に受かることはまず無いでしょう。

あと、入試が近づく or 当日に気持ちが切り替わり、色々なことを気を付けられるようになるのは、大体は男の子です。また、凹凸のある子(発達特性的な意味で)も日々のテストの結果にブレが多くなるので、最後の勝負の時まで、良い意味でどう転ぶかわかりません。

一方、女の子で凹凸のない子は、普段の模試から、良くも悪くも精一杯の努力をしていることが多い。すなわち、番狂わせが起こりづらいです。

そして、プロ視点から見ると、こちらの質問への応答の仕方や、記述問題の書き方などでも実力の有無は見極められます(思考力があるか否かがわかる)。が、一般的な読者の方には判断は難しいとも思うので、その話題は省略させていただきます。

入試で実力を出せる子と、出せない子の違い

合格するだけのポテンシャルがあったとして、入試で実力を出せる子と、出せない子の違いには、ある程度のパターンが見られます。

キーワードは、「自走」

まず、入試で実力を出せるようにするには、本人が入試の直前期(できればその前から)、自分でさまざまなことを考えて、勉強の工夫を重ねることが肝要だと思います。

2024年の教え子は、過去問演習を重ねるにつれて、学校別の傾向分析をして、「あの頻出問題は取れそうだ」「部分点は半分くらい狙おう」などと考えて、どんどん自分で戦略を立ててくれたので、心強かったです。弱点のまとめノートを自分で作った子もいましたし、時間配分に関して「原則として一問あたり1分間、3行記述は4分間」などと自分で決めて取り組んでいる子もいました。

そういった自走(試行錯誤や工夫)が、最後の1ヶ月で良いので、出来るようになると本番に強くなると思います。

ちなみに、時間配分を細かく決めた子は御三家に合格しました。ですが、この文章を見て「御三家に受かった子がやってるのか。じゃあ、うちの子にも時間配分を決めて、問題解かせるようにしよう」と思った方がいらっしゃったら、大変申し訳ないですが考えが甘いです(笑)。

この手のことは、子どもが自分で考えるから意味があるのです。どんな時間配分が適しているかなんて、たとえ親であっても他人が完璧にわかることではないですし、本人が考えぬいて、試行錯誤するのが一番良いに決まっていますよね。

親御様が良かれと思って、先回り先回りして何かを用意してあげる行動は、言い方は厳しいですが、子どもの思考の機会を奪ってしまうことに繋がります。そうすると、入試本番で子どもが一人っきりになったとき、実力が発揮できなくなってしまうのです。

決して、親御様の伴走を否定しているわけではございません。現状起こっている問題(例:時間配分)について、子ども一人で考えさせるのではなく、「どうしようか?」と親子で対等に意見交換ができるならば、それは好ましいことだとも思います。

しかし、「子どもと一緒に時間配分を決めました」と言いつつも、実際は親御様が一方的に何かを言って押し付けるだけで、子どもの意見は全然聞いていない(子どもがなにか言おうとしても、最終的に「でも、私の考えのほうがいいでしょ」で押し通す)・・・というのは、あるあるだと思うので、ご注意くださいね。

やはり緊張は大敵。また、本人の性格的なものも

他に、実力を出せないパターンでありがちなのは、やはり本番での緊張です。自分も緊張を和らげるために、入試直前期は相当気を使います。具体的に何に気を付けているかについては、長くなるので、いずれ別記事に書く予定です。

ただ、一つ言っておきたいことがあります。それは、最近の小学生には「絶対受かるよ!」といった声かけは禁句である気がする、ということです。若い子はプレッシャーに弱くなっています。ですので、「ダメでもともと、当たって砕けろ」の雰囲気を作り上げる、あるいは模試と同じノリで何でもない感じで送り出すとか、そういう工夫が必要です。

受験生本人の性格的な怠惰で、実力が出せなかったというパターンもあるでしょう。そういう場合は、入試での痛い経験を次に活かしてもらうしかない、と考えます。

全人生の約4分の1の期間を勉強に費やしてきた、小さな子が挑む試験です。「受からなくても良い」なんて思っている子は、誰一人いないのではないでしょうか。怠惰になってしまったのも何かしら理由があるはずです。

時間が経った後、本人の中で「ああ、あれはまずかった」「もっと、あれをこうしておけばよかった」と何か心に思い浮かぶことがあるのであれば、それが何よりの学びになると思っております。


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