【中学受験】サピックスの国語・社会はなぜ難しい?転塾に悩むご家庭へ

「社会」の指導・学習法

こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。

「サピックスに通っているけれど、ついていけていない気がする」
「今の塾では伸びないのでは? サピックスに転塾したいが迷っている」

こうした相談を受けることが増えています。

サピックスの国語・社会は、表面的に演習を重ねるだけでは理解しきれない内容が多いです。

そのため、「具体的に、何がどう難しいのか?」を正しく知ることが大切です。

この記事では、サピックスが難しいといわれる「本当の理由」と、転塾を検討する際に知っておきたい要素をお話しします。

サピックスの難易度に関する「誤解」

サピックスが難しい理由を説明する前に、まずは、親御様の間でよくある「サピックスの難易度に対する誤解」について語りたいと思います。

(1) 「サピで難しい問題をたくさん解けば、自然と難しいことができるようになるんですよね?」

そうではありません。

たとえば、小学校の教科書すら苦労しながら読む子が、『東大受験レベルの問題集』を表面的に繰り返したところで、できるようになるわけではないですね。

すなわち、難しい問題を解くには、「理解力」という大前提が必要なのです(詳しくは後述します)。

(2) 「サピックス以外の塾も、同じくらい難しいと聞きました」

確かに「四谷大塚」の国語では、部分的にサピックスよりも難しい問題を見かけます。

しかし、それは「小学生が知るはずもない専門用語が多く、読みにくい」読解問題が、「たまに」出題されるだけです。

平均的に見ると、やはりサピックスのほうが圧倒的に難易度は高いと思います。「頭を使うタイプ」の問題が多いのです。

ちなみに社会は、圧倒的にサピックスが難しいのが実情です(詳細は後述します)。

「サピックスが求めている力」とは?

先ほど、サピックスについて、以下の話をしました。

・ 「難しい内容」に取り組む前の「前提」として身に着けておかなければいけないことがある。

・ それは、「理解力」である。

では、「理解力」とは何でしょうか? 細分化すると、以下の力が考えられます。

(1) 読解力

国語の得点力という意味ではなく、「文章の内容を咀嚼し、言いたいことを理解する力」です。

たとえば、サピックスの社会テキストを見るとわかりやすいのですが、ひたすら文章・文章・文章・・・が続きます。

『図鑑』のようにさらっと眺めて、さらっと理解することができません。

要するに、長い文章を「つまり、どういうことだろう?」などと、思考しながら読むことが求められるわけです。

もちろん、私から見ても、非常に優れた教材です。

しかし、内容を理解するには「高度な読解力がついていることが大前提」であることを、知っておいていただいたほうがいいでしょう。

中には、問題やテキストにくり返し触れるだけでも、慣れて理解できるようになってくる子もいます。

しかし、読解力が不足していると、文章を眺めても、「何を言ってるんだろう?」「よくわからない」状態が続いてしまいます。

(2) 聞く力

聞く力とは、「話の流れの中で、重要なポイントを拾う力」のことを指します。

サピックスのテキストは、ひたすら文章が続く構成です。そのため、授業でも一度に大量の情報を理解・吸収する必要があります。

そして、それを1時間~1時間30分の授業で解説するので、当然、先生も早口気味になります。

私も、約10年前まで他の集団塾で講師をしていましたが、教壇に立って「多数に向かって」話しているとき、その内容を「自分に言われていること」として聞き取るのを苦手とする生徒がいました。(このことは、講師間の研修でもよく話題になりました)

そして、家庭教師指導をするようになって、新たに気づいたことがあります。

それは小4~小5くらいだと、目の前で1:1で話しかけているのに、こちらの言ったことや指示が聞き取れていない子もいるということです。

何が言いたいかというと、その状態で集団塾の講義に参加すると、先生の言った内容が聞き取れないうちに、どんどん話が進んで、授業がよくわからなくなってしまう、ということです。

サピックス生の授業ノートを見るに、もちろん、クラスによって扱う知識量は変えてあるようです。

よって、下のクラスになるほど、先生もゆっくりめに話してくださっているのだとは思います。

ただし、裏を返せば「多くの内容を授業内では扱えていない」わけで、扱わなかった内容を定着させる負荷は、「ご家庭が負う」ことになります。

(3) 応用力

この力については、「社会」で説明するのがわかりやすいと思います。

さきほど、四谷大塚とサピックスを比較したとき、「社会は圧倒的にサピックスのほうが難しい」と述べました。

なぜ難しいかといえば、テストで「複数の知識」を組み合わせて解かなければいけない問題が多いからです。

実際に、サピックス「2023年4月マンスリーテスト(小5)」の例を見てみましょう。


Ⅱの地図中Bの国でもっとも信者の数が多い宗教について説明した文としてもっともふさわしいものを、次のア〜エから1つ選び、記号で答えなさい。

ア 1日5回、聖地メッカに向かって礼拝をする。

イ インドのシャカにより、今から2500年ほど前に開かれた。

ウ カーストと呼ばれる身分制度が敷かれ、それに基づき職業が決められる。

エ 世界でもっとも信者の多い宗教で、日曜日には各地の教会で礼拝が行われる。


【上記問題を解くために、必要な知識・判断】

  • 「正距方位図法」で描かれた地図の読み取り
  • (※ 普段よく見る「メルカトル図法」とは異なるため、読み取りづらい)
  • 地図上のBが「サウジアラビア」であると判断する
  • サウジアラビアで盛んな宗教は「イスラム教」だと知っている
  • イスラム教の「特徴」まで知っている

これら4つの知識を正しく理解して、やっと正解(やっと「3点」)にたどり着けます。

しかも、全ての知識を身に着けていたとしても、「問題文」や「選択肢」を読み取り間違えるケースもあるわけです。制限時間も、かなりカツカツです。

(※ 先の問題の「太字・赤字・赤丸」は私がつけ加えたものであり、実際はそれすらないので、問われている内容を見落としやすいのです)


一方、「四谷大塚」であれば、同じテーマでも、問題を以下のように「ゆるく」してくれます。

  • 地図上のBは「サウジアラビア」と明記されている
  • 地図を「メルカトル図法」にする
  • 1問あたり、1~2つだけの知識を問う(1問解くのに、たくさんの知識は不要)

サピックスは、こうした「ゆるさ」はほぼありません。

そのため、一問一答を少し暗記したくらいでは、テストで太刀打ちできないのが特徴です。

サピックスを選ぶ?続ける?迷ったときに

このブログを読んでいる方のほとんどは、小4~小6の既にどこかの塾に入塾し、本格的な受験勉強を始めている方でしょう。

ここで、「(1) サピへの転塾を考えているご家庭」「(2) サピに在籍中だが、『ついていけていないかも?』とお悩みのご家庭」の二つに向けて、それぞれアドバイスをいたします。

(1) サピへの転塾を考えている「他塾生」へ

サピックスに転塾する場合、四谷大塚でいえばSコース日能研でいえばTMクラスに在籍していて、「もっと刺激がほしい」という子が適していると思います。

サピックス偏差値は、四谷大塚偏差値から-7日能研偏差値から-10の値だとお考えください。

たとえば、日能研でギリギリMクラス(偏差値55)くらいだと、サピックスだと偏差値50を切ると思います。

(※ この偏差値換算は、受験業界では一般的な「目安」です。すべての生徒に当てはまるとは限りませんのでご注意ください)

すでにお話しした通り、「サピックスに入れば、自然と難しいことができるようになる」わけではありません。

勝手にできるようになった子がいるならば、元々「読解力」や「聞く力」が高かったのでしょう。

私個人の率直な意見としては、「『読解力』『聞く力』があるのなら、サピックスに通うのが一番良いに決まっている」と思っています。

しかし、非常に「人を選ぶ」塾であるのも確かです。その点を踏まえた上で、転塾を検討されたほうがいいですね。

(2) サピに在籍中だが、「ついていけていないかも?」とお悩みのご家庭へ

「サピについていけていない」の基準をどこに置くかが難しいのですが・・・、

(1) 4科目の平均偏差値が40を切っている。

(2) 国語の平均偏差値が35を切っている。
(※ この場合、他科目のテキストの理解も危うくなりやすい)

(3) (1)(2)に該当はしないが、当人が授業を理解していないので、親御様が時間をかけて必死に教えている。

いずれかに当てはまる場合は、転塾を考えたほうがいいかもしれません。なぜなら・・・、

授業をしっかり聞いて、ある程度は理解する → 宿題で曖昧な点を定着させる

上記が、通塾の基本だからです。

しかし、(1)(2)(3)のいずれかに当てはまる状態だと、授業が理解できていないか、あるいは、宿題が手につかない状態だと思うので、「塾に行っている意味はなんなんだ?」ということになってしまいます。

であれば、「読解力」「聞く力」「応用力」がそこまで要求されない塾に転塾するほうが、その子のためになるかもしれません。

ただし、志望校や時期によりけりだとも思います。

以前、私はサピックスAクラスの子を小6から指導したことがあります。

サピも校舎によっては、先生と生徒の距離が近く、お互い色々な話をするようです。表面的ではない信頼関係ができているように感じたので、転塾はすすめませんでした。

くわえて、第一志望校がサピ偏差値36~37だったので、無事に合格することができました。

ただし、二学期以降はサピの勉強はほぼスルーで、過去問対策や志望校対策をメインに取り組んでいます。

まとめ:迷ったときに思い出してほしいこと

他塾から、サピックスへ転塾するのか? 現在、在籍中で続けるのかどうか? 迷った際に大切なのは、「塾の設計」を理解することでしょう。

一番悲しいのは、親御様が「できないのは、子どもの努力が足りないからだ」という曲解をしてしまうことだと思います。

成績がふるわない子は、大人から見て、勉強を「やらない」ように見えても、実は「やれない」ことが多いのです。

昭和の言葉「やればできる」という考えが通用しづらいのは、実は、サピックスの授業を受けるための「前提として必要な力(読解力・聞く力・応用力)」がとても高度だからです。

そのことを知っていただくだけで、進む道は見えやすくなるはずです。


さて、サピックスでは5年生の二学期から、急に「国語」のハードルが上がる傾向があります。

このページ下部の【関連記事】にて、くわしい事例や対策をまとめています。こちらの記事もあわせてお読みください。


家庭教師の生徒さんを募集しております。(指導科目は国語・社会)
詳しくは以下の「筆者プロフィール」のページをご覧くださいませ。

https://kaitai.blog/2023/04/26/profile_2023426/

筆者メールアドレス
oosugi.genpaku@gmail.com


【関連記事】

TOP画像の著作権については、以下の通りです。
  立山のライチョウ © SHori  クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)