こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。
中学受験生やその親御様に向けて、読書におすすめの本を紹介する企画。
第8弾は、『びりっかすの神様』岡田 淳(著) です。
『びりっかすの神様』概要
どんな小学生におすすめか?
・ 出版社が推奨する対象年齢は、小学校中学年~
・ ガチガチのファンタジーより、「日常の中の不思議要素」が好きな子
・「自分は勉強が得意ではない」と思っている子
本文の難しさ
文庫版:185ページ、単行本版:164ページ
ひらがなが多く、漢字は全てにルビがふられている。イラストもたくさん挿入されるので、かなり読みやすい。ファンタジーではあるのだが、舞台は小学校の教室であるため、物語の設定を理解するのも容易いはず。
読書慣れしていない子は、「小さい文字」を嫌がるので、『文庫版」ではなく、大きいサイズの『単行本版』を読むのが◎。
本の概要(あらすじ)
主人公の木下 始が転校したクラスは、何でも順位付けをする教室だった。 国語、算数、体育、読書、そうじ、忘れ物の回数など何でも競わされる。
一番最後尾の「びり」の席に座らされた始は、「羽の生えた小さな男」が教室を飛んでいるのを目撃する。そして、「びりっかす」と名付けたその男と、始の不思議な交流が始まるのだった。
『びりっかすの神様』感想
私が「児童書の天才」だと思っている岡田 淳さんの本です。完成度が高く、面白くて、心に残る作品をたくさん生み出す作家さんです。
20年ほど前、『ハリーポッター』『ナルニア国』『ダレン・シャン』など児童書の映画化ブームがありましたが、岡田さんの本が映画化されなかったのが今でも「解せん・・・!」と思っています(笑)。
さて、今回紹介する『びりっかすの神様』は、「何でも順位づけされる教室」が舞台。
成績で席順が決まる進学塾はありますが、「学校」でそれを行うのは珍しく、奇妙な印象を受けます。
どこか虚無感が漂いながらも、陰鬱ではない異質な世界観。冒頭から、ストーリーに一気にひきこまれます。
(※ 以下、ストーリの結末部には触れていませんが、ネタバレはありますのでご注意ください)
そんな異質な教室内に、羽の生えた小さな謎の男が飛んでいる。主人公の始以外の周りの子は誰も気づいていません。
妖精といえば、普通はティンカーベルのようなかわいい女の子ですが、なぜか男は中年にも見えるような容姿で、しかもくたびれた姿をしています。それがまた摩訶不思議で、読者の好奇心をくすぐるのです。
(男の風貌は、実はラストシーンにつながる重要な伏線なのですが、ここではネタ明かししないので、気になる方はぜひ読んでみてください)
始は、謎の男とテレパシーで会話をするようになります。「クラスでびり」を取ると、男の姿が見えるようになることがわかったため、男を「びりっかす」と名付けます。
始は勉強やスポーツはよくできるのですが、びりっかすと話したくて、わざと何でも最下位を取り始めます。そうこうしているうちに、隣の席の「みゆき」も最下位を取り、びりっかすと始と三人での交流が始まります。
ある日、ひょんなことから、他のクラスメイトとかけっこで競争することになった始。圧倒的な差をつけてゴールします。
始を「びりっかす」だと思っていたクラスメイトは仰天。この展開は最近でいう「なろう系」っぽくて、小学生は楽しめることでしょう。
競争を見ていた複数人に「なんで力を隠していたんだ!?」と問い詰められた始は、「びりっかす」の存在を打ち明けます。
その子たちも最下位を取り、仲間に加わり、また他の子にも存在が知られ、最下位を取り・・・と「びりっかす」を中心とした仲間の輪が広がります。
テレパシーで勉強を教え合えるので、教室内の「びり」のレベルが上がっていきます。漢字テスト10点中0点が「びり」の基準だったのが、2点、3点・・・と、どんどん上がっていきます。
・ 「秘密の仲間」になるためには「びり」を取るというネガティブな条件が必要であること。
・ 仲間が広がる中で、勉強を教え合い、苦手な子も徐々に得意になっていく様子。
・・・そんな「意外性」があるストーリー展開が魅力的です。
ここまでの私の感想だけ読むと、「努力否定のゆとり」的なテーマのように見えるかもしれませんが、そんな「浅い話」では終わらないのが、この物語の真に素晴らしいところです。
「がんばること」の意味を問いかける物語
実は物語の冒頭でわかるのですが、「始」は父親を過労死で失っています。始に母親は次のように伝えます。
そんなことではひとには勝てん、お父さんの口ぐせだったわ。(中略)
いそがしい、いそがしい、そういいながら、あのひとは走りつづけたんだわ。ひとよりまえを、もっとはやく、もっとはやくって。走りつづけて、走り続けて、ぱたってたおれた。そんな気がするわ。(中略)
もしもがんばるっていうことが、お父さんみたいに生きるっていうことだったら、……ひとに勝つことが、がんばるっていうことだったら、始、お母さんはあなたに、がんばってほしくなんかないのよ。『びりっかすの神様』岡田 淳/偕成社
いくら「びりっかす」が見たいからといって、有能な子どもがわざと最下位を取るのには抵抗がありそうなものですが、始は最初から一切抵抗がない。
始の「達観」は父親の死と、母親の言葉によって生まれたのです。
他にも考えさせられる場面は満載で、たとえば、みゆきが始を詰問するシーン。

「あんたわざとできないふりしてるでしょ」
「(そういう姿勢は)いっしょうけんめいなみんなを、ばかにしていることにならないの?」
勉強が苦手な征二が、テレパシーのおかげで点数が取れるようになってきたところで、疑問を話すシーン。

「それでも、(自分の得点は)5、6点だろ。 (できる友達の)俊也なんて、いっしょうけんめいやってるみたいに見えないのに、10点とれるじゃないか」
そして、多くの子どもたちがテレパシーで「びりっかす」と話が出来るようになっていく中で、教室内で「ある人物」が孤立していきます。
この本はきれいごとを言うわけでも、説教するわけでもありません。それでいて、作者の哲学が自然と胸にしみ込んできます。
「誰かに強いられた競争と、自分で選ぶ努力は、全く違うんだ」そういったメッセージが、物語の余韻とともに心に残りました。
子どもだけでなく、大人にも刺さる物語だと思います。ぜひ読んでみてください。
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