こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。
先日、中学受験マンガ『二月の勝者』の感想をきっかけに、「塾業界の裏話」について書いたところ、想像以上に反響がありました。
今回はその続編として、こんな疑問に正面から向き合ってみたいと思います。
「『下位クラスはお客さん』って本当?」
「上位クラスは『デキる先生』、下位クラスは『そうでない先生』が担当するの?」
そこで、この記事では、大手集団塾に勤めたことがある筆者が、「噂の真相」を語ります。
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基本的には、「マウント」で使われる言葉
「下位クラスはお客さん」というフレーズは、『二月の勝者』で黒木校長が、新人の佐倉先生に、
「Rクラス(下位クラス)の生徒は、お客さんだから、一生懸命にならなくていいですよ」
と発言したことで有名になりました。
ただ、『二月の勝者』が発表される以前から、インターエデュ(受験掲示板)では、この言葉をよく見かけた記憶があります。
「下位クラスはお客さん」という言葉は、スラングとして以下の意味で使われているようです。
- 「下位生は、塾に大金を払っているが、対価としてのサービスを得られていない」
- 「下位生に対しては、塾が手厚く面倒を見てくれない」
「下位クラスはお客さん」という言葉は、親御様の不安、戸惑い、苛立ちが、ねじれた形で表現されたフレーズだと考えます。
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多くの場合、「下位クラスはお客さん」という言葉は、子どもが下位クラスに「いない」親御様が、強い不安を解消するために使っているように思います。
「下位クラスはお客さん!!(うちの子は、下位クラスじゃないから、先生に目をかけてもらってるはず! だから、大丈夫・・・多分・・・)」
・・・といったようにです。
「できない子に冷たい」って本当? 現場講師の実感
では、塾講師視点でのお話をしましょう。
大手集団塾に勤めていたとき、「下位クラスはお客さん」という言葉は、実際に職場では聞いたことがありません。
とはいえ、一人一人の先生に、心の内を聞いて回ったわけではないので、「そんなことは、本当に思っていない」という人もいれば、「内心はその通りだと思っているが、口に出しては言わない」という人もいるのではないか、と推測します。
個人的な感覚ですが、割合としては、前者のほうが多いとは思います。
さて、「下位クラスはお客さん」という言葉の意味を、改めて確認しましょう。
- 「下位生は、塾に大金を払っているが、対価としてのサービスを得られていない」
- 「下位生に対しては、塾が手厚く面倒を見てくれない」
(1)の「サービス」とは、ほとんどのご家庭にとって「成績向上」を指します。
これについては、塾の対応がどうこうというよりも、適性として、下位生は「成績向上」というサービスをなかなか享受しづらいと思います。
ネット上の中学受験界隈では、「塾って、できないことをできるようにしてくれる場所でしょ?」という発言が見られます。
しかし、中学受験の塾は、「補習塾」ではありません。
確かに「補習塾」は、小学校の授業では定着できなかった内容を、できるようにしてくれる塾です。
一方、中学受験の塾は「進学塾」。入試に対応したハイレベルなカリキュラムや教材を提供する場所なのです。
ありていに言えば、中学受験の塾は、「小学校の勉強では満足できないから、もっと難しいことをやりたい子のニーズに即した場所」であり、本来は、「できないことを、できるようにする場所」ではないのです。
塾のカリキュラムにせよ、授業形態にせよ、そもそも「できないことを、できるようにする」ことを目的としたシステムにはなっていないのです。
自分も含め、現場の講師たちは、下位クラスを指導する際、挺身してがんばってはいましたが、構造的な限界はあります。
私たち塾講師が、親御様の期待される「大金を支払った上での、対価としてのサービス」が提供できていたかといえば、必ずしもそうではなかったと思います。
再テスト・補習は、「善意」でしかない
(2)「下位生に対しては、塾が手厚く面倒を見てくれない」について。私のいた集団塾では、概ね面倒を見ていた、と思います。
たとえば授業外でも、小テストの再テストや、補習などをしていました。
ただ、上位の子は「打てば響く」ので、補習の意味は大きい。
しかし、下位の子に対しては、本当に申し訳ないのですが、はっきり言って「このサービス残業に、何の意味があるのだろう・・・」と感じてしまうことはありました。
そう。再テストや補習は、「サービス残業」なんです。
他にも雑務が色々ある中で、先生たちが自己判断と厚意でやっているものでしかありません。
だから、中には一切やらない先生もいたのですが、それはそれで仕方がないと思います。
親御様が「塾が、手厚く面倒を見てくれない」と感じることがあれば、そういう背景事情があるとは知っておいていただいたほうがいいでしょう。
くわえて、先生たちが身を挺して、「サービス」として、何かをやったとしても、「全然、成績が上がっていない」「もっと、塾でこうしてほしい」とおっしゃる保護者様もいました。
だから、「下のクラスは、絶対に担当したくない」、「上位クラスしか担当したくない」と明言する先生もいた。
そういう先生は、『二月の勝者』の黒木先生のように、内心は「下位クラスは、お客さんだな」と思っていたかもしれません。
(企業人ですので、そんなことを口に出したら、始末書を書くことになりかねないので、口にするわけがありませんが・・・)
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「上にデキる先生、下にハズレ講師」は本当か?
よくネットでは、「上位クラスには『デキる先生』があてがわれて、下位クラスは『そうではない先生』があてがわれる」という話を見ます。
これについて、うちの塾の場合はそうとは限りませんでした。
実際には、ビジネス的な意図や、先生自身の希望・性格・経験年数など、さまざまな事情によって配置が決まります。
先述したように、先生によっては下位クラスの担当を嫌がる場合もあって、それなのに、無理にやらせてしまうと、授業中に暴言を吐くなどして、退塾者が続出してしまうことも。
そうなると、企業としては苦しいので、基本的には先生の希望に合わせます。
一般企業では、部署の異動の際に、自分の希望が通らないことも多いと思いますが、塾講師のクラス配置の場合、校舎長の信頼さえ得られていれば、ある程度、希望は聞いてもらえます。
人材の入れ替わりが多く、万年、人手不足の業界ですので、数年も働いていれば、普通は最上位クラスを担当することになりますね。自分も、3年目から担当し始めました。
ちなみに、私がいた塾の場合、下位クラスでは、算数か国語のどちらかを、ベテラン or 役職者が担当することもよくありました。
塾生の人数を追い求める企業方針だったので、「1名でも退塾されると困る」のです。
ですので、早いうちに退塾の芽に気づけるベテランを配置する。
もしくは、「エライ先生が担当してくれてるしな・・・」と親御様の溜飲を下げるために、役職者が配置されていました。
一方で、デキる先生ほど、「教務力が、結果に反映されやすい」上位クラスに配置されることもあります。
「成果が出やすい場で、活躍してもらいたい」という企業的な意図にもかなうからです。
このように、人材配置には様々な狙いがからみます。ネットでよく言われているような単純な話ではありません。
まとめ
「下位クラスはお客さん」というフレーズについては、以下のことがいえます。
(1) 下位クラス「ではない」親御様が、自分の不安を解消するために言っている場合が多いのではないか。
(2) 中学受験の進学塾では、どうしても、「成績向上」という「サービス」が享受しにくい生徒が出てくる。
(3) 先生が手厚く面倒を見ても、親御様がそれを「サービス」として満足するとは限らない。
(4) 必ずしも、上位クラスを「デキる先生」が担当して、下位クラスは「そうではない先生」が担当するわけではない。
(5) 筆者の塾では、下位クラスを、ベテラン or 役職者の先生が担当することもよくあった。
「下位クラスはお客さん」という一言には、塾業界の構造と、親の願望・不安と、現場の葛藤が入り乱れています。
安易な言葉に安心したくなる気持ちも、怒りたくなる気持ちも、よくわかります。
しかし、親御様がその言葉の裏側を深く考えることができたなら、もう「お客さん」ではないのです。
このページ下部の【関連記事】では、他にも親御様の考えるヒントになりそうな、塾業界の裏話を紹介しています。よろしければ、ご覧ください。
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