二月の勝者に見るメンタルの重要性。花恋の不安は超リアル。元塾講師が語る

つれづれコラム

こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。

昨年完結して久しい、中学受験マンガ『二月の勝者』。

15巻(1月入試開始くらい)で読むのを放置していたのですが、この間、最後まで目を通したので、元 集団塾講師の視点から、2回に分けて、感想を語ります。

漫画に登場する生徒や親御様、塾で巻き起こるエピソードは、業界人の目から見てもすごくリアル。作者の高瀬志帆氏は、本当によく取材されていると感心します。

この記事では、『二月の勝者』の各シーンの感想を、私の指導経験と照らし合わせながら、つらつらと語りたいと思います。

今回はコラムみたいなもので、いつものようなお役立ち記事ではないのでご注意を。塾業界の裏話的なことが知りたい方は、興味深く読めるかもしれません。

受験期の「桜花ゼミナール」の雰囲気は超リアル

1月受験が始まって、2/1、2、3、4・・・と受験が続いていく中での「桜花ゼミナール」の講師室の雰囲気ですが、自分が最初に働いた塾は、まさにあんな様子でした。

今はなき、入試応援(校門前激励)の文化

マンガ内では、入試応援(校門前激励)で、誰がどこに行くかを分担していましたね。

懐かしいです。2021年度入試から、コロナをきっかけに、入試応援の文化はなくなりました。

そもそも入試応援については、コロナ以前から、「塾の営業(宣伝)でしかない」と批判的な意見があったのですが、個人的には悪いものではなかった、と考えます。

確かに、有名難関中学の校門前では、大手塾が、自塾の名前が入った横断幕を広げることがあって、その行為は批判されても仕方ないでしょう。巨大横断幕の誇示が、「子どもにもたらすメリット」は、何もないからです。

しかし、担当の先生が、生徒に声かけするのは別物です。

まだ幼い小学生にとっては、緊張でいっぱいの中で、「見知った顔」の人と話すことで、平常心に戻る効果が確かにあるのです。その点が、成熟した子が挑む高校受験や大学受験と、中学受験との大きな違いでもあります。

さて、私のときは、「入試応援(校門前激励)」は、誰がどこに行くかという割り振りは、明確な意図をもって決めていました。

国語(私)と、算数の担当講師が、誰を応援しに行くのかが軸になります。生徒と接している時間が一番長いからです。

『二月の勝者』でもそうでしたが、2/3以降は、「トリアージ」的な考え方が大事です。2月校の合格が取れていない or 合格はしているが、思うような結果が出ていない「ピンチ」の子の元に、算国担当が行っていました。

しかし、他にも応援したい生徒はたくさんいる。

その場合、受付で多くの生徒と接している事務員さんや、普段は担当外でも、代講や質問対応で「この生徒と話したことがある」という先生を募って、応援に行ってもらっていました。

一番下のクラスの生徒のところに、普段は担当していない校長に行ってもらったときは、「なんで、ここにいるの!?」とめちゃくちゃ喜んでくれましたね。その子は合格しましたよ。

不合格になったら、塾に行く

作中の「桜花ゼミナール」では、入試に落ちた生徒を呼んで、一緒に復習している様子が見られました。

私の塾でも、入試が終わったら、たいていの子は校舎に呼ぶようにしていました。

生徒の個性や状況によりけりではありますが、不合格になった場合、家で勉強するのではなく、塾に行ったほうがいいと思います。

1回目の入試が残念な結果 → 先生と一緒に復習をして、「もっと取れたじゃん!」と気持ちを盛り上げてもらう → 2回目に挑む 

という流れを塾の先生につくってもらったほうがいいからです。

ご家庭でその流れをつくるのは、なかなか難しいと思います。(詳しくは、以下の記事に書きました)

自分がいた集団塾は四大塾のうちの一つで、そこの入試対応は、「ちゃんとしていた」と思います。

入試期間中は、学生講師であっても、受験生を受け持っている場合は、必ず、結果連絡待ちや生徒のフォローに来ていました。

次に、私が働いたのは個別指導塾。そこも、みなさんが名前を知っているであろう有名どころではあるのですが、そもそも、入試期間に校舎に来ない講師が多数。

家庭教師になってからも、2/1以降の合格発表がガンガン来る時間に体験授業を入れたり、あるいは、旅行に行ったりしている同業者がいると知って、自分の今までの常識は常識ではなかったのだと、心底驚きました。

家庭教師の場合は、フリーランス(個人事業主)ですので、どのような仕事のやり方をしようが、その先生の勝手です。私がとやかく言うことではありません。

しかし、この記事を読んでいる親御様に対して伝えられるのは、全ての先生が、入試期間中に「桜花ゼミナール」の講師たちのように、生徒のフォローに全力を尽くしているかというと、そうではない、という事実です。

ですので、受験生をお持ちの親御様は、入試本番が近づいたら、2/1以降、塾や家庭教師の先生が、どういう対応をしてくれるのかを確認しておいたほうがいいでしょう。

超優秀生の前田花恋が抱える不安

渋幕(っぽい学校。作中の名称忘れました。すみません)の入試のとき、超優秀生である前田花恋さんが、親や入試応援に来ていた先生と別れた後、少し不安そうに後ろを振り返るシーン。その後、花恋さんは渋幕をまさかの不合格になってしまいます。

この描写、めちゃくちゃリアルだなと思いました。

私の生徒に聞くと、「1月入試は『練習』って思ってたけど、やっぱり模試と入試では、雰囲気が全然違う」といいます。

模試も受験しているときは一人ですが、結果が出た後は、誰か(先生や親)と復習するものです。くわえて、悪い結果が出たとしても、実害はありません。(クラス落ちはありますが)

しかし、入試は結果が出てそれでおしまい。誰かと共に戦うわけでもなく、孤独な戦いです。

特に花恋さんの場合、渋幕が初戦な上、「自分はできる人間」という気負いもすごいので、プレッシャーは大きかったことでしょう。

ここで、私が集団塾に勤めていたとき、上長が話していたエピソードを紹介します。

以前、担当していた最上位クラスでは、御三家の合格者がたくさん出て、本部からも褒められた。しかし、自分としては大きな心残りがある。

入試直前の激励会のときのこと。生徒に目をつぶってもらって、「自分が第一志望校に受かると思う人は手を挙げて」と言ったら、ある生徒だけが、手を挙げなかった。

そして、その子は第一志望校に落ちてしまった。
あのとき、自分がその子に声をかけていたら、結果は違ったのかもしれない・・・。

それを聞いた私は、「いや、何も声かけなかったんかーい!」とは思いましたが。。。

まあ、上長が声をかけたところで、結果は変わらなかったかもしれません。

子どもがプレッシャーに弱い原因として、根深いもの(家庭で、「絶対〇〇中じゃなきゃダメ」「偏差値△△以下は行っても意味ない」と刷り込まれている 等)を抱えている場合が多々あります。

そういったものを、塾講師のたった数分の関わりでほぐせるかといえば、そうではありません。逆に「自分にはできる」と言ってしまうのは、現実が見えていないし、おこがましいとすらいえます。

しかし、たとえ自分が何もできないとしても、「充分な学力がある子でも、メンタルに強く影響を受けてしまう。そのサインを見逃してはいけない」ということは、私も強く心に刻んでいます。

佐倉先生は、塾講師に向いていないのか?

作中では、先生たちが生徒の合不合の報告を聞いて、喜んだり、落ち込んだりと悲喜こもごもの様子でした。

マンガだから誇張表現しているというわけではなく、自分がいた集団塾でも、あのくらいは騒いでいました。

あれから家庭教師になって5年が経ち、今も喜んだり、落ち込んだりはしますが、ここ2年くらいは、以前と比べると、そこまでアップダウンは無いです。(そもそも、以前が喜怒哀楽が激しすぎたともいえるが・・・)

指導経験が通算で10年以上になるので、正直、「慣れてしまった」感もありつつ、以前は、感情をわかちあえた仲間の先生がいたから、自分の感情も様々に湧きあがってきたんだと思っています。

『二月の勝者』では、主人公であり、新人講師の佐倉先生が、不合格通知を聞くたびに真っ青になったり、嘔吐したりしていて、先輩講師の桂先生から、「佐倉ちゃんは優しすぎるから、この仕事向かないかも」と言われていました。

でも、自分も若い頃は佐倉先生みたいに感情移入していましたし、周囲のもっと年上の先生も同じ感じでした。だから、桂先生の発言は全くピンとこない。

あと、仕事は実際に続けられたか否かという結果が重要であって、向いている・向いていないの判断は他人がするものではない。まあ、ストーリー展開の都合上、言わせたセリフなんだとは思いますが・・・。

私は吐いたことはないですが、2回ほど泣いたことはあります。

中でも、きつかったのは、中学受験でW大系列に落ちた生徒(他塾生)が、うちの塾に来てくれて、高校受験リベンジしたものの、またW大系列に落ちたときですかね・・・。

しかも、彼より成績の悪い子も含め、クラスの他の子は、全員K or Wに受かった。当時は、本当にとんでもないことをしてしまった気分になりました。

ただ、大学受験でW大に受かったと報告に来てくれたので、結果オーライでしたが。

ともあれ、年を取った今となってから振り返ると、若い先生は、佐倉先生みたいに感傷的なくらいのほうがいいと思います。

はじめにエモーショナルなものがないと、生徒のことや受験のことを考え抜けない。仕事が「作業」みたいになってしまって、中途半端になってしまうんです。

そういう意味では、逆に、経験が増えて慣れてきた場合も「作業」になってもおかしくないので、私もそうならないように気をつけたいと思います・・・。

さて、『二月の勝者』は、リアルでありつつも、やはり「マンガ」。ときに誇張や、現実とはちょっとズレた描写もあります。

次回は、そんな「いや、それはちょっと・・・」と思わずツッコミたくなった場面を取り上げて、指導現場から見た「違和感」をお話しする予定です。ご興味のある方は、また読みに来ていただければうれしいです。


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