中学受験の家庭教師 鳥山と申します。
「中学受験では、親は子どもに勉強(問題)を教えてはいけない」という一般論をよく耳にします。今回の記事では、この言説について私見を語りたいと思います。
「時と場合」によっては、親は教えるべき
「中学受験では、親は子どもに勉強(問題)を教えてもいいのか?」という問いに対して、私は「時と場合によっては、教えるべきだ(教えてもいい)」と考えます。
親御様が教えるべき(教えてもいい)シチュエーションは、2つあります。
(1) 集団塾で教わった内容を、子どもがほとんど理解・記憶できていない場合
(2) 子どもが、自分から親御様に質問をしてきた場合
(1) 集団塾で教わった内容を、子どもがほとんど理解・記憶できていない場合、そのままの状態にしておけば、積み残しが発生してしまうので、親御様が家で教えるしかありません。
特定科目や、特定単元において、授業だけでは理解できなくなる事態は、誰でも起こりうることです。(例:算数の「比」の単元が、どうしてもわからない 等)
そういった場合は、親御様が教えてあげれば持ち直すと思うので、ぜひフォローをしてあげてください。
しかし、塾の授業を理解・記憶できていない度合いや頻度によっては、むしろ「転塾」を考えたほうがいいでしょう。
たとえば、何か月間も、塾で習ったことが、子どもの頭の中に「何も残っていない」のであれば、そもそものところ、塾のレベルが合っていないといえます。
その状態だと、親御様が子どもを受験まで、ずっと教え続けなければいけなくなり、心労がすさまじいし、「塾に通っている意味は何なんだ?」という話になってしまいます。根本的なところ(通っている塾)を見直してみてください。
(2) 「子どもが、自分から親御様に質問をしてきた」場合についても、親御様が教えてあげて大丈夫です。
理由は後述しますが、「親が教える」行為自体は悪くはなく、「子どもとして、大きく困っているわけでもないのに、親のほうから教えこむ」行為が、良い結果を生まないだけです。
ですので、子どもから自発的に質問にしに来た場合は、親御様なりに答えてあげればOKです。
ちなみに、厳密には「教える」カテゴリーには入りませんが、漢字の練習を手伝うといった、「単純暗記」についても、親御様がどんどんフォローしてあげて問題ないと思います。
基本的には、教えることを推奨しない理由
先述のパターンに当てはまらなければ、原則として、「親が子どもに勉強(問題)を教える」ことは推奨しません。
その理由は、2つあります。
1:子どもの勉強の吸収が悪くなるから
まず1つ目は、「勉強の吸収が悪くなるから」です。
中学受験においては、塾でしっかりと授業を聞き、なるべく理解して帰って来るのが、一番大切なことです。
たとえば、社会科。授業中に集中して先生の話を聞けば、ある程度、キーワードは覚えられます。帰宅後は、暗記の抜け漏れをチェックして、応用問題に入ればいい。そうすれば、家でゼロベースからインプットする必要はないわけです。
もちろん、「聞く力」「理解力」「記憶力」の多寡は人それぞれなので、皆が皆、上記のようなことができるわけではないですし、「やれ」と言いたいわけでもありません。
ただ、出来る限り、授業内容を吸収する意識を持つことは大事だという具体例として挙げました。
帰宅した後、塾ともう一度同じ内容を、親御様が教えることが常態化している場合、子どもは「どうせ、家でまた同じ内容をやるし」「親が教えてくれるからいいや」と思うようになって、授業に集中しなくなってしまいます。
そうなると、親御様の教える負担も大きくなって、学習時間がむやみに増えていく、という負のスパイラルが起こり始めます。
また、テストで点数が取れなかったとき、子どもが伴走者である親御様のせいにし始める。すなわち、受験が完全に他人事になってしまうリスクもあります。
お子様の成績が真ん中~それより少し下くらい であれば、「塾にはついていけている」状態です。
つまり、子どもとしては、勉強に大きく困ってはいないのですから、本来であれば、「親のほうから教えこむ」必要性はないわけです。
親御様としては、良かれと思って勉強を教えても、本末転倒な結果になることもあるのでご注意ください。
2:「頭で考えられない子」を作る危険性があるから
2つ目に、「良い形で問題を教えられる親御様は、少ないから」という点が挙げられます。
婉曲的な表現を取りましたが、もう少しはっきり述べますね。親御様が自分の受験のときの感覚で、子どもに勉強を教えると、「頭で考えられない子」を作ってしまう危険性があります。
決して、親御様を責めているわけではありません。シンプルに世代の違いが大きいのです。
親御様が受験生の頃、成績を上げるには「反復学習」「やり方の暗記」が有効でした。そのため、それで「成功」してきた方は、同じような方法をお子様にレクチャーしているのでしょう。(逆に、「失敗」してしまって、過去の後悔から、自分ができなかったことを、子どもにやらせている方もいると思いますが)
ですが、「問題の質・レベルが、親の世代とはまったく違う」「自分の時代のやり方は通用しづらい」ことは、ご理解いただく必要はあると思います。
じゃあ、どんな形で勉強を教えるのが理想なのか? と問われれば、以下のようなことが挙げられます。
・説明(教え込むこと)に価値はない。
・そうではなく、一緒に問題を解く。やってみせてあげる。
・「問題を解くとき、どこを見た?」「なぜそこを見たの?」と聞く。
要するに、「問題文を読む過程」や「思考過程」にフォーカスを当てるということです。
しかし、ご家庭でそれを実行するのは、非常に難しいと思います。
ですので、私見としては、冒頭の2つのシチュエーションを除いて、「親は、子どもに勉強(問題)を教えることは、推奨しない」という結論になります。
できれば、親はテスト・入試問題を解くべき
ここまで「親は勉強を教えなくていい」とお話ししましたが、一方で、私は「子どもが取り組んでいる問題の内容は、ぜひ理解していただきたい」と考えています。
「塾でやっているテスト」の内容だけではなく、「志望校の入試問題」も確認されたほうがいいです。
もっと理想を言うならば、問題を「眺める」だけではなく、実際に「解く」ことをしてみたほうが、親御様のためになると思います。
私が以前に所属していた大手集団塾では、新人講師には「とにかく入試問題を解け」という指導がなされていました。
新人講師とはいえ、皆、一定以上の学歴・学力はありますが、その中でも、問題を「眺めただけ」で、そのテストの勘所がわかってしまうような、教務的なセンスのある人は、50人に1人くらいでしょうか。
要するに、素人の場合、「簡単そうな問題に見えて、一から解いてみたら難しい」とか、「制限時間がキツキツである」とか、その辺りのことは、実際に解いてみないとわからない。
だから、「新人講師は、とにかく入試問題を解け」と言われるのです。
聞きかじりや想像だけで、不安になっていないか?
親御様にも同じことがいえます。
実際の問題を知らずに、「小5になると、テストが難しくなるらしい」とか、「今の社会の入試問題は、思考力問題が多いらしい」とか、聞きかじりや想像だけで、不安になっていませんでしょうか?
その状態で、子どもにアドバイスらしきものをすれば、無用ないさかいを生むし、新たな問題集などを始めれば、こじれることになってしまいます。
「小5からは難しくなる」といっても、具体的に何がどう難しくなるのでしょうか?
「思考力問題」って、実際にはどんな問題なのでしょうか? そもそも、お子さんの受験予定校では出題されるんですか?
本来は、実際のテストの内容がわかっていなければ、具体的な対策なんて考えられないはずです。また、不安で仕方なくても、自分の目で見て確かめてみたら、意外と「ああ、こんなもんか」となるかもしれませんよ。
特に、「塾無し受験」の方は、親御様が「入試問題」というゴールを理解することは必須になります。
そうしないと、本筋から外れた見当違いのことを、子どもに年単位でやらせる事態になりかねません。お子様のために、ご注意いただきたいところです。
学習に関わらない形の「伴走」もある
中には、「私はテスト/入試問題は解けません」という親御様もいると思います。
もちろん、それで良いんです。ただ、その状況であるならば、当然ながら、「学業において、親は見守りに徹するしかない」ということになります。
テストや入試の内容を理解できていない方が、子どもの学習において、「見守る」以上のことに踏み込めば、どうなってしまうのか? 答えは、言わずもがなです。
読者様の中にある、「子どもの勉強を手伝わなきゃ」という思いは、「他の母親もやってるから、自分もやらないと、『ダメ親』に見られる」といった感情に由来するものではないでしょうか?
「子どものため」と言いつつ、実際は「自分自身の不安を解消するため」にフォローをしていないでしょうか?
直接的に勉強のフォローをしなくても、親御様が子どもを支えられる手段はたくさんあります。
子どもの好きな料理を作って労ってあげるとか、何か子どもの興味を引くような理科的・社会的な話をしてあげるとか、そういったことも立派な「伴走」だと思います。
本当にわが子のためになることは何か? ぜひ考えてみてくださいね。
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