中学受験のプロ家庭教師が考える「高校受験のメリットとデメリット」

中学受験「あるある」な話題について

下記の「高校受験リベンジ」の記事がよく読まれているようです。

高校受験リベンジは、高受のシステムやメリット・デメリットを調べ、子どもの個性や気持ちをふまえた上で(←ここが最重要)、検討することが大切です。それが無いままスタートしますと、子どもがつらい思いをしますし、親御様としても「こんなはずではなかった」という展開になってしまうこともあります。

読者様に受験や進路について考える際の色々なヒントを提示したいと思い、今回は「高校受験」のメリットとデメリットを取り上げることにしました

※ 一部項目の加筆修正をしました。(2024/05/18)

筆者の高校受験指導歴

このブログは中学受験をテーマとしており、筆者は現在、中学受験の家庭教師として活動していますが、過去には塾講師として、高校受験の指導経験もあります。(東京都)

個人の先生が運営する個別指導塾で1年間(いわゆる「町の補習塾」)、大手集団塾で5年間(中学受験部と高校受験部があり、どちらも担当していました)、大手個別指導塾で1年間(会社には3年間勤めましたが、高校受験生は最初の1年しか持ちませんでした)、不登校の子、学習にかなりの困難を抱えた子、高校受験リベンジの子、早慶付属校に合格した子まで、幅広く見てきました。

最後に高校受験生を送り出したのは、ちょうど4年前になるので、若干ブランクはあるのですが、中受と違って、変化の少ない世界ですから、まだギリギリ語れる資格はあるかな、と。

高校受験のメリット

まずは、高校受験のメリットをあげていきます。

親御様が伴走する必要がない

中学受験の場合、「そもそも、なぜ中学受験をするのか?」という理由や意義を、受験生本人がわかっていないことが多いはずです。

小学校1~2年生のときは、放課後ずっと遊んでいたのに、急に塾に行かされて、点数で競争させられる。「小学校のクラスには、塾に通っていない子もいるのに、なぜこんな思いをしなければいけないのか?」、こういう思いを心のどこかで抱いている子も多いのではないでしょうか。

中学受験は本来はやらなくてもいいものにも関わらず、それを親御様の誘導で始めているわけです。何事においても、始めたことには責任が伴います。ですので、個人的な考えではありますが、小学生の間は、親御様がある程度の「伴走」をしてあげることは、子どもに対する義理なのではないかと思っています。

中学受験は、同年代における成熟の早い層&優秀層の中での戦いなので、当然、やっている内容は難しいです。

そのため、勉強が上手く進まないときの学習フォローに関しては、親御様が具体的な策を考えてあげる必要があるでしょう。子どもが学習に前向きになれないときのメンタルケアに関しても、親御様が真剣に考えることが大切だと考えます。

また、大人がホンネで論理的に中学受験の有用性を語ってあげることも肝要なのですが、子どもは大人と違って人生経験が浅く、先のことを想像できないので、どれだけ言葉を尽くしても、わかってもらえない、ということもよくあります。

一方、中学生にもなれば、まだ起こっていないことに対する想像力が身に着きます。

学校では「定期テスト」が実施され、本人もだいぶ大人になっている。「今やっている勉強は、将来、何につながるのか?」ということを考えたり、自分が置かれた立場や、社会的システムを客観的に理解したりする良い機会となるのが高校受験です。

多くの子にとっては、「勉強したほうが、生きていくのにお得なんだな~」と、損得が理解できるようになるのは、高校受験の年齢(中学生)からだと感じています。

高校受験からは「本人の自己責任」として、親御様は伴走はしなくて大丈夫です。

中学受験と比べれば、高校受験の学習内容はかなりスローペースで簡単(※ 開成・早慶・国立・都立トップ校を目指す場合を除く)です。また、小学校の学習内容とかけ離れたことをやる中学受験と違って、高校受験は、中学校で習ったことがそのまま入試で問われますから、そういう意味でも親御様のフォローはほぼいらないと思います。

もちろん、親御様が入試制度に関する知識を得たり、子どものメンタルケアをしてあげたりすることは大切ですが、中学受験と比べれば、比較にならないほど手間はかからないですし、かける必要もないでしょう。

成熟度に学習結果が左右されることがない

高校受験には、本人の成熟度(「早生まれ」など)に成績が左右されないという良さがあります。

小6生と中1生は、接していると、同じようでいて結構な違いがあります(特に男子)。その違いが何かというと、「言葉が通じるか否か」です。

言葉を理解する力が発達すれば、先生が授業中に理詰めで説明したことが理解できるようになり、教科書も一人で読めるようになります。小学生段階(中学受験)で成績がいい子は、単純に成長が早かったから、それができているだけ。成績が良くない子は、その逆、という場合もあります。

しかし、中学生になると、各々の成長の差が少なくなり、フラットな状態に近づくので、純粋に能力と努力量だけで勝負できるのです。

中学生で幼い言動をする子もたくさんいますが、それはシンプルに、その子自身の才覚やパーソナリティの問題になってくると思います。(例:「勉強がわからない→楽しくない→宿題等もやらない」の過程が、他の人の目からは「幼く」見える)

「併願優遇」制度があり、チャレンジ受験がしやすい

中学受験では、当日のメンタルや体調不良によって、実力よりも下(=毎回の模試で、合格判定が80%出ていて、過去問の点数も取れていた)の学校に不合格になる場合もあります。ですが、高校受験の場合は、そういった事態はありません。

なぜなら、首都圏の私立高校の場合、「併願優遇」という制度があるからです。これは、学校の内申点、あるいは、模試の成績が一定以上であれば、合格を「ほぼ確約」してくれるというシステム。

一応、入試を受けに行く必要はありますが、過去問対策なんてしてなくて大丈夫ですし、落ちた子は見たことがありません。当日点は、「0点でなければ受かる」というのが通説です。

併願優遇で合格校を確実に一校取れるため、その他は全てチャレンジ校で埋めるという強気な受験スケジュールにできるのは、高校受験のメリットといえるでしょう。ただし、中学受験のように「午前受験・午後受験」の制度はないので、受験できる学校の総数に限りはあります。

高校受験のデメリット

次に、高校受験のデメリットをあげていきます。

実技4科目が不得意な子には不利

高校受験のデメリットとして、よく挙げられるのが内申点制度です。

まず初めにお伝えしておくと、主要5科目(国語、数学、英語、理科、社会)に関しては、私は7年間の指導を通して、巷で言われているような「学校の先生に、不当に低い内申点をつけられた」という事例を見たことはありません。内申点の付け方の基準は、学校の先生に聞けば教えてくれます。

そもそも、定期テストの点数が評定の基準に達していないのに、「『5』をくれないのはおかしい。厳しすぎる」などと生徒が騒いでいることが多い。あとは、提出物を先生の指示通りに出していないパターンですね。

しかし、その話は別としても、内申点システムは良いものではない、と思っています。

東京都立入試の場合、[当日の試験の点数+内申点]の兼ね合いで合否が出るのですが、実技4科目(美術、音楽、体育、技術家庭)の成績を「2倍」するというルールがあるので、実技が不得意な子はかなり不利です。

どれだけペーパーテストの点数が良くても、「絵が下手」「球技が下手」「歌が下手」などであれば、良い評価がつかないこともあります。

実技が明らかに下手なのに、「5」をあげるのはおかしいので、個人的には、成績の付け方としては理不尽だとは思いません。ですが、純粋な学力とは関係ない要素が、入試に持ち込まれることは、生徒によっては(※)、大きなデメリットになると考えます。

(※ 内申点、実技2倍、提出物を成績に加点するといった高校受験特有の制度は、下位層が進学するにあたっては、むしろメリットになります。中学受験と違って、高校受験は色々な家庭環境や学力の子が受験しますから、そういう意味で、このシステムは「悪」ではない、ということも述べておきます)

ただし、内申を一切使わずに、(1) 模試の併願優遇で抑え校を作り、私立中学を受ける。あるいは、(2) 併願優遇すら使わず、完全一発勝負で私立を受験する、という手段もあります。

ちなみに、自分の教え子(合計100名くらい?)の中では、内申を使わずに、模試で併願優遇を作った子は、20名弱いました。

また、併願優遇を一切使わなかった子(私立完全一発勝負)は、4名のみです。

不登校により、内申がオール1になってしまったので、やむを得ず、私立一発勝負した子が1名。併願優遇が使える学校の中に「行きたい学校が無い」と判断し、一発勝負を選んだ子が3名。ちなみに、後者は全員、早慶付属高校に合格しました。そのくらいの志と学力があるからこそ、取れた選択といえます。

内申制度があると、学習が本質からずれやすい

内申点によって、生徒の勉強の質が悪くなる傾向があると感じることはありました。

一発勝負の入試では、合格点にたった1点でも届かなければ落ちます。しかし、高校受験で内申利用する場合、そういうシビアな認識はつきづらく、生徒の甘えも見られました。

たとえば、「内申『5』をくれないのはおかしい」という、先の発言もその一例なのです。「5」がもらえる基準が平均90点だとして、中間テストで82点、期末テストで90点取ったとしたら、平均は86点。4点足りないので、「5」がつかないのは当然です。

82点を取るべきではなかったし、取ってしまった段階で、期末では満点を目指さなければいけなかった。多くの中学校の定期テストは、パターン認識的な問題しか出ないので、そのくらいやろーよという感じです。

事実を見つめず、「先生の贔屓で内申がつかない」とか、そういった話にすり替えてしまう子もいました。保護者様の間でも「内申点の付け方って理不尽だよね」というなんとなくの雰囲気が漂っている。そのため、生徒が内申を言い訳にして、本質的なことから目を背けてしまうのです。

一方の中学受験では、内申を言い訳にできない分、どんな結果が出ても自己責任となるわけで、本当に過酷です。が、そういったシビアな試験を通して大きく成長を遂げる子もいます。

また、先ほどは、高校受験のメリットとして、併願優遇制度をあげましたが、逆に、合格校の確約がある分、いまいち勉強をやり抜けない生徒も多いと思います。

都立入試の場合も、内申点が出た段階で、ある程度は当日の合格が見えてくるため、中学受験のような緊張感のある一発勝負に比べれば、どこか「ぬるい」入試になりがちです。学習量はこなしていても、思考や戦略といったあと一歩が足りないように感じていました。自校作成校(トップ校)でもない限りは、そんな要素がなくても受かってしまうので・・・。

上位生にとっては、受験校(進学校)の選択肢が少ない

上位生にとっては、中学受験と比べて、高校受験は受験校の選択肢が少なくなります。以前は海城、本郷、豊島岡なども高校募集をしていたのですが、いずれも停止してしまいました。

高校受験で受けられる学校の一覧は、『【SAPIX 中学部】東京都 2023年度 高校偏差値一覧 国立・私立校(リセマム)を見てみてください。

早慶付属校を狙うなら選択肢は結構あるのですが(しかも、中学受験で超上位層が抜けている分、合格しやすい)、進学校の選択肢は多くはありません。「東大合格者数ランキング」上位の進学校となると、非常に数が限られますし、特に女子が受けられる学校は少ない中学受験もそうですが、高校受験でも国立と都立は、それぞれ1校しか受けられないことも、ご留意いただく必要があります。

中学受験のような「同偏差値帯の進学校 A校とB校とC校、校風が好きなのを選ぼう(ワクワク♪)」という選択の余地はなく、高校受験では、「私立 or 国立 or 都立」「偏差値」「自宅からの距離」で、受験校はほぼ絞られます。

まとめ

中学受験、高校受験、どちらにもメリットとデメリットがあります。大切なのは、私がここまでに書いたことや、その他ネットの情報、書籍等も参考にしていただいた上で、「わが子が、より良い勉強ができそうなのはどちらかか?」を、様々な観点からお考えいただくことだと思います。

また、現在すでに中学受験の学習を開始していて、それをやめて、高校受験にシフトするというのはある種のリスクを伴いますので、ご注意ください。

上記の記事にも書いたのですが、中学受験撤退のタイミングが遅い場合は、「小中通算で約5~6年間の受験勉強」となってしまうため、勉強が好きではない生徒にとっては、本当に倦み疲れてしまいます。集団塾では、そういう子を何人も見てきました。

本人のモチベーションが低いのであれば、この記事で書いたような高校受験のメリットも関係なくなってしまいますので、その点についてはご考慮いただければと思います。


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