中学受験の国語のテストは、小5の後半(二学期以降)、急に難しくなります。特にサピックスにそれが顕著です。
算数であれば、小5夏~後半にかけて「比」「割合」「立体図形」といかにも難しそうな単元が並ぶので、ご家庭としても多少は心構えができますが、国語の場合、なんの予告も無く、唐突に難易度が上がります。
しかも、国語は難しくなった要因が、ぱっと見ではわかりづらい教科なので、保護者様は「いきなり成績が下がった」という現象だけに振り回され、悩まれることが多いように思います。
そこで当ブログでは、小5後半、サピックスの国語テストで何が起こるのか? を解説します。今回の記事は、「物語文」についてです。
合わせて、サピ国語に振り回されないようにするには、塾としての設計(なぜ難しいテストを出すのか?)を知ることも大事です。具体的なアドバイスも含めて、この文章の後半で解説いたします。
(※ 説明文・論説文についての記事はこちら:『小5後半、サピックス国語の難易度上昇について(説明文・論説文の注意ポイント)』)
小5後半 サピックスの物語文とは
小5前半のマンスリーテストと、小5後半のマンスリーテストの文章内容(物語文)の内容を要約してみました。まずは、双方を読んでみて、どのような違いがあるか考えてみてください。
【サピ 小5前半のテスト文章(2023年 4月マンスリーテストより引用】
小学5年生の砂羽の両親は離婚しており、母親は、妹の佐奈だけを連れて出ていってしまった。現在、砂羽は父と暮らしている。そんなある日、父が心筋梗塞で倒れてしまう。
砂羽が病室にお見舞いに行くと、父は「実は離婚したとき、母親は砂羽のことも連れて行こうとしていた」と話す。それを聞いて、砂羽は、心の中に閉じ込めていたことを明かすことにした。妹の佐奈が水難事故にあった日のこと。「外に連れてって」と頼まれたのに、砂羽が断ったため、幼い妹はひとりで外出し、用水路に落ちたのだ。そのことが原因で、両親が離婚をし、母親は妹だけをつれていっていたと思い、砂羽はずっと心の中で苦しんでいた。
高森美由紀『助っ人マスター』フレーベル館
父は「お前には何の責任もない」「一人で悩んでつらかったよな」と話し、砂羽も「さびしくてしょうがなかった」と本心を吐き出し、泣いた。そうすると、不思議とうしろめたさや心のいたみはうすれてきた。
少しの時が経ち、手術室に向かう父に「今もさびしいままかい?」と聞かれた砂羽は、「父さんが元気になって帰ってくるから、さびしくない」と、はっきりと答えるのであった。
【サピ 小5後半のテスト文章(2021年 11月マンスリーテストより引用)】
生まれつき左手に障がいがある主人公。担任は、「つらい思いをすると良くないから」という理由で、主人公の親に体育の時間は見学するようにすすめる。それを両親は気づかいと受け取り、無邪気に喜ぶが、主人公は、先生の本音は障がい者に対する拒否であると捉え、体育を「自主的に欠席」し、公園で過ごすようになった。
公園に通ううちに、主人公は「秋山さん」という老人と仲良くなる。秋山さんは、これまでの人生について語ってくれた。生まれつき足に障がいがあり、子どもの頃は、ハンディキャップのある子が集まる学校に通っていたという。学校生活は非常に楽しいものだったが、やがて戦争が始まり、秋山さんたち障がい者は「役立たず」「ごくつぶし」と呼ばれるようになった。学童疎開の対象からも外されてしまう。
秋山さんは主人公に対して、公園のベンチの手すり部分を指し、こう言うのであった。
「梢(主人公)さん、この手すりのカーブを覚えておいてください。【中略】これは『曲がり木』といって、まっすぐではない枝なんだな。だから強い。簡単には折れない。【中略】私たちのように体のまっすぐではない者でも、こうして椅子の一部になり、椅子を椅子たらしめることができる。逆の言い方をすれば、曲がり木がなければ、人は椅子ひとつ完成させられない・・・」
小手毬るい「木を抱きしめて生きる」・『曲がり木たち』所収 原書房
サピックスの小5前半と、小5後半の国語の文章の違い
パターン認識で読めるか? 読めないかの違い
私は、二つの文章の違いは「パターン認識で読めるか? 読めないか?」にあると考えます。
小5前半の文章について。本来であれば、一般的な小学生にとって、離婚して母親が出ていく・・・という状況は身近ではなく、どういうことかイメージしづらいものです。
しかし、サピックス生の場合は、これまでの授業で「離婚」に関する物語文の数をこなしてきているので、状況を想像しやすいはず。また、全体を通しての心情変化【マイナスの気持ち→父親と会話する(本心を打ち明ける)→前向きになる】がお決まりの展開なので、パターン認識さえできてしまえば、問題は解けます。つまり、「塾の勉強にさえ慣れていれば何とかなる」文章です。
一方、小5後半の文章で描かれるのは、ハンディキャップを持つ主人公の心情の機微。戦争という背景。曲がり木という障がい者の「象徴」。秋山さんの切なる思い・・・、ある種の「大人の感覚」が求められます。これらはパターン認識で対応しづらく、小学5年生が真に理解するのは難しいことは、おわかりいただけるのではないでしょうか?
既に、準難関校(駒東など)以上の入試問題の文章レベルといえます。逆を言えば、目指す学校のレベルによっては、この文章を理解し、問題が解けるようになる必要はない、と割り切ることも大事です。
(とはいえ、人の生き方について考えさせられる素晴らしい内容です。だから、この文章を読むこと自体は、教養として大切なことだとは思っています。ただ、リミットのある受験勉強とそれとは、目的を切り分けて考えなければいけません)
ですので、復習の際にも、子どもの志望校や現状の国語力によって、扱う問題は見極める必要があります。一般的には「正答率〇〇%以上の問題を復習しよう」などと言われますが、理想をいえば、正答率は参考程度にとどめ、「今の実力ならここまでできるべきだ」、「志望校から逆算すると、今後はどの問題ができるようになるべきか?」という観点から、子どもの個性や状況にあった対応が取れるとベストです。
サピックスの国語授業を受ける上での心構え
しかし、なぜサピックスの国語はこのように難しいのでしょうか? その答えは、公式ホームページの、教科別指導方針「国語」を読むとわかります。
良質な文章をもとに豊かな感性と表現力を養う“国語”
サピックス 公式ホームページ
子どもたちは皆、わくわくする思いを胸に、世界に臨んでいます。国語の授業では、思わず引き込まれるような興味深い作品を皆で読んでいきます。読みながら子どもたちはさまざまな思いを胸に抱きます。その思いを講師が引き出します。意見がぶつかり合い、教室がにぎわうほど、作品への理解は深まり、そして思考力は力強く羽ばたいていくのです。他者の意見を取り込みながら自分の意見を練り上げる。さまざまな意見が飛び交う教室だからこそ、思考力の育成そして精神的成長の可能性が無限に開かれています。(後略)
仮に私のようなイチ家庭教師が、体験授業に行って、自分の指導方針として、上記内容を保護者様に話したら、「???(それで成績をどうやって伸ばすんですか・・・)」というお顔をされてしまいそうですね(笑)。この指導方針は、「サピだから」許容されている側面が大きいでしょう。
上記文章から、サピックスは[子どもは、大人が用意した文章に興味を持つものだ]、[国語指導においては、子どもの思考力や情緒を育んであげることが大切だ]と考えていることが伺えます。『中学受験 SAPIXの国語』杉山由美子 (著) という本を読むと、さらにサピの理念がよくわかります。
確かに、私も国語の講師として、サピが言っていること・目指していることは理解できるのです。しかし普通の子の場合、その前段階として、[言葉やテーマが難しいから、そもそも文章に興味が持てない/文章内容が理解できない]、[『問題を解くための読み方』を教わらない限りは、点数には繋がりづらい]といった問題が立ちふさがってきます。
[良文を与えれば、勝手に国語はできるようになる]というのがサピの理想なのだと思いますが、それで自然と伸びていくのは、言葉の土台がしっかりしている超ハイレベルな子だけなんですね。
サピにおいても、「理想じゃ子どもを伸ばせない」という現状認識があったうえで授業をされている先生も、たくさんいらっしゃいます。けれども、クラス替えが多い塾ですし、どんな先生に当たるかなんてわからない。よって、サピックスにお子さんを通わせているご家庭は、ここまでに書いたような塾の基本設計(理想主義的な考え方)を踏まえて、子どもの学習方針を考えることが大事だといえます。
たとえば、一年間の学習カリキュラムが書かれている冊子に記載された、「家庭学習では、〇〇が最優先」「△△は優先順位は一番下」という内容は、あくまで、塾生全体に向けた最大公約数のアナウンスなのです。お子様の現状を見た上での個別のアドバイスではないことを理解していただく必要があります(※)。
こういった場合も、わが子にとって必要なことは何か? を考えることが肝要です。一例にはなりますが、以下の「説明文・論説文」に関する記事に夏休みの学習についてのヒントを書きました。そちらもご参考にしていただけると良いと思います。
※ これに関しては、「サピが悪い」と言いたいわけではございません。集団塾で個別対応するなんて限界がありますから、どの塾でもサピと似たような対応にはなりますね。
【※ サピ小5後半の「説明文・論説文」に関する記事は以下です】
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