『二月の勝者』に欠けているリアリティ。中学受験で必要な「親の力」

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中学受験されるご家庭であれば、多くの方が読んだことがあるであろう『二月の勝者』。

実際に中学受験の講師の目から見ても、エピソードやキャラクターにはかなりのリアリティを感じます。「こういう親御様ってよくいるよな~」とか「このキャラは、前に教えていた生徒に似ているな」とか、「自分もこの先生みたいなこと、言った経験あるわ・・・」とか、新刊が出るたびに、いつも感心すること然りです。

しかしながら、80%くらいはリアルだなと思いつつも、20%くらい「ん???」と感じる部分があります。(柳楽優弥みたいなイケメン校長なんて存在しないとか、そういう細かい部分は置いておきますw)

中でも一番「リアルとかけ離れているな」と感じるのは、「親の家庭学習への関わり」という、ここ数年の中学受験における重大要素が全く描かれていないという点です。

激戦化する中受では、学習のカスタマイズが重要

著名な家庭教師の先生が書かれた『中学受験は親が9割』という本がありますよね。さすがに9割は言い過ぎな気がしますが、私も、中受において、6割は「親の力」が大切になると断言できます。

ですが、『二月の勝者』は、塾の授業&生徒の努力(あとは能力)だけで、成果が出るかのように描かれている。私の感じる違和感はここにあります。

ここ数年、中学入試が激戦化しています。今の偏差値50と、8年前(※)の偏差値50を比較すると、「取りづらさ」がかなり変わってきています。今のほうが断然難しいです。

競争が激化しているのは、(1) 中学受験生の人口が増えている(2) サピックスの塾生数 ≒ 優秀生の層が増えている(3) インターネットが発達し、勉強のノウハウや受験情報が入手しやすくなった(4) 母親の高学歴化(5) 親が子どもの勉強を手伝うようになった、といったことが主な理由でしょうか。(他にもありますが)

(※ 8年前と比較したのは、2014年が中学受験人口の底の年だったからです。 データ参考元:「2022年の首都圏の私立・国立中学受験者数は過去最多の51,100名、受験率も過去最高の17.30%に!(首都圏模試センター)」

子どもらしくがむしゃらに頑張れば、テストで結果が出る、というのが昔の中学受験だとすれば、あれこれ細かく誤答の分析をして、単元に戻って復習して、あるやり方で成果が出なければ別の方法を・・・と、お子さん個々人の状況にカスタマイズした学習が必要になっているのが、今の中学受験です。

そして、そんなことは、子供が自分一人で、いきなり出来るはずありませんから、親御様が上手に関わった場合と、そうでない場合とで、差が開いてしまうというのが現状なのです。

ちなみに、「家庭学習をカスタマイズしてみたが、上手くいかない部分があるので見直したい」とか、「あと一歩子供を伸ばすヒントがほしい」とか、「そもそもプロじゃなければ指導できない分野を任せたい(記述指導や添削など)」とか、親御様が色々考えて、家庭学習に関わったうえでも解決できない問題が出てきたとき、家庭教師や個別指導の力を借りると、良い効果が発揮できます。

「家庭教師/個別指導塾に全てお任せ」は、親御様の気持ち的には楽ですが、よほど受験生本人が精神的に成熟していて、能力が高くない限り、いわゆるジャイアントキリング的な、大きな成績変化は起こりづらいのです。

(具体的には、どう子どもの勉強に関わればいいのか、どのように家庭教師や個別指導塾を使えばいいのか、という点については、今後記事として書いていきます)

二月の勝者「加藤匠くん」にリアリティを出すなら

話を『二月の勝者』に戻します。私から見て、「加藤匠くん」というキャラクターには現実味が感じられませんなぜなら、彼のような子が成績を伸ばすには、それこそ「親の力」が必要だからです。
以下に詳しく書きます。

・ 小6の最初の段階で、3クラス編成で、一番下のクラス(四谷Aコースくらい)だと、それまでに積み残したものが多い。
 また、 細かい学習手法(たとえば、社会の基本事項の暗記であれば、自分に合った暗記方法を知っておく。また、忘れたものをどのタイミングで、何を使って思い出すか、といった学習ルーティン)が身に着けられていない。よって、 勉強量を増やしても、砂上の楼閣となりやすい。

・ それでも能力が高いタイプであれば、一人でも勉強はできる。
  しかし、本当に能力が高い子は、勉強していなくても真ん中のクラスくらいにはいる。 ということは、加藤くんの能力は高いわけではない。

・ この状態だと、周囲の大人の手助けが無ければ、そもそも宿題にも手が付けられないことも多い。(しょっちゅう詰まってしまうから)

ダメ出ししすぎてかわいそうになってきましたが、まあ漫画のキャラクターですので・・・。

決して、加藤くんのような子が「成績が伸びない」と言いたいわけではありません。しかし、本人の自覚だけで、あれだけ爆伸びして、さらに海城中が射程圏内に入っている(そして、おそらく合格という展開になりそう)って、非現実的だなと感じてしまうのです。

加藤くんの成績爆上げエピソードに、めっちゃリアリティを出すのであれば、「親が仕事を辞めて、付きっきりで伴走する」という設定にするしかありません。

父親が辞めたということにして、島津パパとの対比で描いても面白かったように思います。

教え上手で、子供を巧みに導き、モチベーション管理もできるスーパーパパ。佐藤ママの父親バージョンとして、「加藤パパ」とかネーミングも上手くハマったように思うのは私だけでしょうか?


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