【社会】サウジアラビア発の異能バトル漫画『沙竜の子 ダーリ』が面白い!文化背景を読み取る

EXPO 2025 大阪・関西万博 サウジアラビア館お土産『紗竜の子ダーリ』『マンガアラビア・キッズ」 「社会」の指導・学習法

こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。

8月28日~29日に、EXPO 2025 大阪・関西万博に行ってきました。

その際、サウジアラビアパビリオンで、『沙竜の子 ダーリ』という少年漫画の単行本を買いました。

『ダーリ』は、『マンガアラビア・キッズ』という、サウジアラビア&アラブ界初の漫画雑誌で連載しています。

日本の漫画の影響を受けたストーリー・演出でありつつ、サウジアラビア特有の文化・生活もうかがえる、興味深い作品です。

この記事では、『ダーリ』における「日本の漫画との類似性」「サウジアラビア漫画としての独自性」にスポットを当てて、内容を紹介します。


【※ 中学受験生の親御様へ】

この記事を参考に、社会科(地理・歴史)の勉強において、「比較文化」という観点で知識整理していただくと、学習が捗ると思います。

テキストで学習しても、「サウジアラビア=イスラム教の国」で終わってしまう知識。もう一段階、深めるにはどうすればいいのか?

そういった「学習のヒント」が得られると思います。ぜひ、伴走のご参考になさってください。

『沙竜の子 ダーリ』レビュー

『沙竜の子 ダーリ』あらすじ

ダーリは「異能」の持ち主。ピンチのときには、「トカゲ」のようなツメ・シッポが生えてきて、超人的な力を発揮することができる。

小学校のクラスメイト・タラールを助けるため、隠していた力を使ったダーリ。

正体はバレてしまったが、それをきっかけにタラールと仲良しに。その後、2人は色々な事件・出来事に巻き込まれる。

「日本の漫画」の影響を感じる、設定・演出

『ダーリ』は、日本でもよくある「異能バトルもの」の少年漫画です。

設定は、「ジャンプ+」アプリで連載されている『チェンソーマン』という漫画に近いと思います。

『チェンソーマン』は、デンジという少年が「チェンソーの悪魔」の力を手に入れることで、他の悪魔を倒していくというお話。

デンジはチェンソー、ダーリはトカゲの異能力持ちですが、完全に変身するわけではなく、どちらも身体が部分的に変化する点も似ていますよね。


演出も、日本の漫画の影響を受けているようです。

冒頭から突如、「謎の男」がダーリを追い詰めて、「負けを認めろ」「お前には何もできやしない」と言い放つシリアスシーンから作品が始まります。

(出典:『沙竜の子 ダーリ』)

よくある演出ですが、やっぱりこういうのがあると、先の展開が気になりますねー。

その後「過去の回想」として、ダーリが学校に転入するシーンにうつり、友人・タラールらとの学園ドタバタストーリーが、1巻にわたって展開されます。

ジャンプの漫画は、初期は「異能もちの主人公が、コメディ調な日常ストーリー」をくり広げ、 連載が進むにつれて、「シリアスなバトルの連続」になることがあります。(『家庭教師ヒットマンREBORN!』などが良い例)

『ダーリ』も1巻はドタバタ劇でしたが、ご多分に漏れず、だんだんシリアスになっていくんでしょうか? 

この漫画は、1巻のみしか万博で買えない(他はどこでも買えない)ので、お話の続きはわからずじまいです・・・悲しい。

この他にも、日本の漫画っぽいシーンを紹介しましょう。


◆ 先生に異能力がバレた!? ・・・と思ったらバレてませんでしたー!

(画像出典:『沙竜の子 ダーリ』)

◆ 何か考えている様子を「数式」で表現するのも「あるある」。

(画像出典:『沙竜の子 ダーリ』)

◆ ダーリとタラールの仲を、暗い表情で見つめるクラスメイト・サミー。「ヤンデレ」というやつですな。

(画像出典:『沙竜の子 ダーリ』)

『沙竜の子 ダーリ』から伺える、サウジアラビア文化

さて、ここからは『ダーリ』から伺えるサウジアラビア文化の話に入ります。

作中においては、持ち物、食べ物、学校の様子など、サウジアラビアならではの生活様式がたくさん伺えて興味深いです。

中でも、私が注目したのは「ダーリが入学試験を受けるシーン」

面接官に「国歌は暗記しておるのかね?」と聞かれて、ダーリは、汗をダラダラ流して「えっ・・・はい・・・」と答えます。

(画像出典:『沙竜の子 ダーリ』)

サウジアラビアは「絶対王政」の国。面接官の質問も、国王への忠誠心を試しているのでしょう。

しかしダーリの「汗だく」の様子からは、「本当は、国歌を暗記していない」ようにも見えます。(この後、歌わされることはなく、教室のシーンに切り替わる)

実は、ここに面白さがあると思うのです。

サウジアラビアでは、出版物にはすべて「検閲」が入り、国王や王族を批判する内容は許されません。

すなわち『ダーリ』にも検閲は入っているはずなのですが、上記のシーンは見逃されています。

推察するに、ダーリが「僕は国歌を暗記していません(歌えるか自信がありません)」と、はっきり言っているわけではないので、「どうとでも取れる表現」として検閲をすり抜けたのではないでしょうか。

ダーリの作者はクリエイターとして、「何かしらの意図」をもって、ギリギリ許される表現を探ったようにも見えるのです。


このような「表現の地雷原」をくぐりぬけるような描写は、他にもあります。

たとえば、以下のコマ。みなさんは違和感にお気づきでしょうか?

(画像出典:『沙竜の子 ダーリ』)

よく見ると、モブ(通行人)の女の子が「丈の短いスカート」を履いているんですね。(※ 黒い「ヒジャブ」を着ている女性の真後ろにいる子ども)

ご存知のとおり、サウジアラビアにおいて、女性は「肌を見せない」ものです。

たとえば、『マンガアラビア・キッズ』に連載されている、魔法少女もの漫画『ダナとペタルの戦士たち』

主人公・ダナの服装は、変身前「長袖+ロングスカート」。変身後は「ロンググローブ+スパッツ」というように、完全に肌を隠す恰好です。

(画像出典:『ダナとペタルの戦士たち』)

しかし、『ダーリ』には「ミニスカート」の子がいる。たった1~2コマの小さな「モブ」なので、こちらも検閲をすり抜けた(?)のだと思います。

「作者は、どういうつもりでこのコマを描いたんだろう?」と考察してみると、すごく楽しいですね。

『マンガアラビア・キッズ』と「ビジョン2030」

さて『ダーリ』が連載されている『マンガアラビア・キッズ』は、サウジアラビアとアラブ世界初の漫画雑誌です。

『マンガアラビア・キッズ』が創刊された背景には、2016年にムハンマド皇太子のもとで発表された、経済・社会改革構想(「ビジョン2030」)の影響があると考えられます。

近年サウジでは、映画館、プロレスの興行、エンターテインメントショー、コンサートなど、今まで禁じられていた娯楽が、次々と解禁されていっています。

また、女性に課せられた制約も取り除かれつつあります。「車の運転」も解禁されました。

先ほど触れた『ダナとペタルの戦士たち』でも、ダナのお姉さんが車を運転するシーンが見られます。

(画像出典:『ダナとペタルの戦士たち』)

保守的だった「イスラム規範」が、緩和されつつあるのです。

今回の大阪・関西万博のサウジパビリオンでも、「DJプレイ」が行われるなど、ポップカルチャー色の強い展示が見られました。

サウジは非常に裕福な国ではありますが、産業の種類は少なく、「石油依存を脱却したい」という思いがあるようです。

そういった背景から「娯楽」「観光誘致」に力を入れているようで、大阪・関西万博で気合が入っていた理由もよくわかりました。

超巨大スケールの「リヤド万博」も、2030年に開催予定。

さらに今後は、世界で大人気の漫画『ドラゴンボール』のテーマパークも、リヤドから車で40分の場所に建設されるなど、外国人観光客を呼び込みたいという、強い考えが伺えます。


※ サウジアラビアの改革については、以下の外部リンクを参考にして記述しました。
「公益財団法人 日本国際問題研究所『脱石油依存とサウジアラビアの外交政策』近藤重人

まとめ

保守的なイスラム国家の中で、サブカルチャーを通じて、何をどこまで「表現」できるのか?

『沙竜の子 ダーリ』という、一見ポップな漫画の背後には、サウジアラビアの制度・文化・価値観がにじんでいました。

作品としての面白さと、文化資料としての面白さ、その両方を併せ持つ良作といえるでしょう。

中学受験生は、こうした作品をきっかけとして、

「なぜ、服装に規制があるのか?」
「国王を批判できない国では、どのように『表現』が成立するのか?」

といった文化的・政治的な背景まで学ぶことができます。

社会科において重要なのは、知識をただ覚えることではなく、「背景」や「他国との比較」を通して、自分なりの視点を育てていくこと。

そうした意味で『ダーリ』は、まさに「教材以上の教材」といえるかもしれません。


※『沙竜の子 ダーリ』は 2025年9月現在、大阪・関西万博のサウジアラビアパビリオンで「第1巻のみ」販売されています(一般書店では未流通)。

もし万博に行かれる予定があれば、ぜひチェックしてみてください。


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