こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。
中学受験生やその親御様に向けて、読書におすすめの本を紹介する企画。
第9弾は、『夏へのトンネル、さよならの出口』八目 迷(著) です。
『夏へのトンネル、さよならの出口』概要
どんな小学生におすすめか?
・ 少年少女の「冒険物」が好きな子
・ SFが好きな子
・ 恋愛ものが好きな子
・ アニメや漫画といったサブカルチャーが好きな子
本文の難しさ
小学館 ガガガ文庫:323ページ
いわゆる「ライトノベル」。セリフが多めで、マンガのように読める。文章で何でも説明されており、「行間を読む」ことが求められるような話ではないので読みやすい。
小5~小6には最適。ただし、文庫本で文字も小さいので、今まで、全く読書してこなかった子には向かないと思います。
本の概要(あらすじ)
主人公の高校生・塔野カオルは、近所で謎のトンネルを見つける。そのトンネルの中は、不思議な光景が広がっており、カオルは、5年前に死んだ妹・カレンのサンダルと、死んだインコ・キイの姿を目撃する。
カオルは、駅で女子高生たちが話していた「ウラシマトンネル」の噂を思い出す。そこに入れば、欲しいものが何でも手に入る代わりに、年を取ってしまうという。
カオルは、死んだ妹・カレンに会うために、ウラシマトンネルの謎を解くことを決意する。しかし、次にトンネルに入ったとき、中には転校生の花城あんずがいて・・・?
『夏へのトンネル、さよならの出口』感想
当ブログでは、「読書の入り口としての敷居の低さ」から、中学受験生に「ライトノベル」をおすすめしています。
以前は『夏を待つぼくらと、宇宙飛行士の白骨死体』というラノベのレビューも書きました。
さて、今回ご紹介する『夏へのトンネル、さよならの出口』。2022年に、アニメ映画化もされており、文句なしの面白い作品です。
いわゆる、ラノベにありがちな「萌えキャラ」は出てきません。「ライト文芸」といった体で、手軽に読める小説だと思います。
(※ 以下、作品の結末部に触れる「ネタバレ」がありますので、ご注意ください。)
異界への扉としてのトンネル。その「代償」とは?
まず、この本で特筆すべきは「SF要素」でしょうか。
「噂」に過ぎなかった不思議なトンネルが、突如、普通の高校生の目の前に現れる。なんとも、ロマンがあります。
実は「ウラシマトンネル」に入ると、噂に聞いたのとは違う「ある代償」が生じるのですが、その事実が発覚するときの描写に引きこまれました。
かつて、主人公のカオルは、血のつながらない父親、母親、妹のカレンと楽しく暮らしていました。
しかし、ある夏の日、カオルがカレンと一緒に虫取りにいった際、カレンが木から落ちて死んでしまいます。
ショックで母親は行方をくらまし、残されたカオルと父親の二人暮らしが始まりましたが、関係性は極めて悪い。
けれども、初めてウラシマトンネルに入って、帰宅したとき、いつもはカオルを心配しない父親が血相を変えて飛んでくる。
そして、帰りが遅くなったことに対して、心底、不安を感じていた様子を見せます。
違和感を覚えたカオルが自室に戻り、携帯電話を見ると・・・、なんと1週間も日付がすすんでいた。
ウラシマトンネルの中は、「異常に時間の進みが速い」ことが判明するのです。
つまらない小説は、「衝撃の事実」を登場人物が言葉で解説してしまう傾向があるのですが、この作品は、エピソードの中で「ハッ」と気づかせるところが巧みです。
誰かを想う気持ちが、物語を動かしていく
「キャラクター」についても語ります。
先述したように、妹の「カレン」は故人ですが、カオルの回想シーンや夢の中(?)に何度も出てきます。すごくかわいいです。兄妹二人の仲も良く、ほほえましく感じられます。
現在のカオルの空虚な状況も相まって、「時間が速く過ぎ去ってしまってもいいから、もう一度、カレンに会いたい」という強い気持ちに共感できます。
ヒロインの「花城あんず」は、ストレートに感情を表すタイプ。個性的で、好きな人は好きだと思います。
私としては魅力は感じなかったのですが(すみませんw)、カオルがあんずに惹かれていく様子はよく描けていました。
あんずを想う気持ちが、終盤の山場シーンにつながっており、物語は大盛り上がりのままエンディングまで駆け抜けます。
私は職業柄、文章を読みながら、あれこれ考える癖がついていて、ストーリーの粗がどうしても気になってしまうタイプです。
この作品にもツッコミどころはあるのですが、なぜか、それが気にならない。筆致と設定の魅力で、良い意味で強引に読まされてしまいました。
文章もやさしく読みやすいし、小学生でも楽しめるはずです。
ただし、カオルとあんずの「キスシーン」があるので、親御様には一応お伝えしておきますw
また、カオルの母が蒸発した原因が「浮気だった」という表現もあります。しかし、そういう言葉があるだけで、詳細な描写はありません。
個人的には小学生に読ませても、全く問題はないと思います。
それよりも、幼い男子がこの小説の恋愛描写を読むと、「なぜカオルは、こんなにあんずのために、必死になっているんだろう・・・?」と意味不明に感じられる可能性はあります。
そういう意味では、おませな女子のほうが楽しく読めるかもしれませんね。
他にも、小学生におすすめの本や、読書に関する話を、このページ下部の【関連記事】で展開しています。ぜひ、ご覧ください。
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