続「中学受験は親の責任」伴走に疲れたあなたへ—“方法論にすがる親”の落とし穴

「自走」論・「伴走」論

こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山と申します。

今回は、以前書いた記事『「中学受験は親の責任」伴走に疲れたあなたへ—“真面目な親”ほど苦しむ構造を分析』の続編です。


前回は・・・

  • 子どもの成績が悪いと、「私のせいかもしれない」と感じてしまう。
  • 子どもが努力していないように見えると、「私の教え方・関わり方が悪かったのでは?」と焦って、つい強い口調で叱ってしまう。
  • 「私はこんなに頑張っているのに・・・」という思いで苦しくなる。

こうしたお悩みを持つ親御様を、「ジコセキ型(自己責任感が強すぎるタイプ)」と名付け、その背景を分析しました。

私は、決して「親御様が悪い」と責めたいわけではありません。

むしろ、「子どものために」と真剣に向き合っているからこそ、苦しくなってしまう。その構造を一緒に見つめ直していくことが、本記事の目的です。

なぜ、ジコセキ型になってしまうのか? そこからどう抜け出すか? 

ご自身の「思いぐせ」に気づくためのヒントとして、読んでいただけたら幸いです。

「ジコセキ型」を生み出す社会的背景

前回記事の最後では、「人生において、負けを知らない」親御様こそ、「ジコセキ型」になりやすいというお話をしました。

以降、この内容について深堀りしていきます。

「思考停止」が生まれる構造

これまでの日本社会は、社会的なレールに乗ることで、「一定の収入・クラスが得られる」ケースが多かったと思います。

いわば、「思考」の重要性に迫られずとも、「従順さ」さえあれば人生が上手く行く場合もあった、ということです。

しかし、大変厳しい言い方で恐縮ですが、中学受験は「思考停止に報いる」世界ではないんですね。

子どもは親の思い通りには動きませんし、成功パターンは各家庭によって違うので、誰かの「猿真似」をしたところで結果は出ません。

「ジコセキ型」の方のしんどさは、以下の状態ともいえます。

今までは社会構造にフィットしていた方が、同じやり方が通用しない「中学受験」という局面に突入し、思考回路が構築されてこなかったことに苦しんでいる。


方法論に頼らない。本当にやるべきことは「診察」 

対処より診断。腹痛に、いきなり薬を出しますか?

「受験勉強が上手く行っていないな」と感じたとき、ジコセキ型の方の多くは、子どもに「方法論」を与えると思います。

「方法論」とは、ネットなどで情報収集をして、評判の良いテキストを与える ・ 何かの勉強法を試してみるといったことです。

上手くいく場合もあれば、いかないこともあるでしょう。おそらく、この記事を熱心に読んでいただいている方は、後者なのではないかと想像されます。

なぜ、上手くいかないかといえば、「方法論の前に、やるべきこと」を飛ばしているからです。

それは、「テスト中の、子どもの思考回路の理解」です。たとえば、国語であれば「文章が読めない原因」「記述問題が解けない原因」を究明しなければいけません。

けれども、それをしないまま、いきなり方法論だけ与えてしまう。

これを「医師の診察」にたとえるならば、「腹痛」という現象だけ見て、場当たり的に「市販薬」を与えているのと同じです。

腹痛の原因が過敏性腸症候群なら、市販薬は効きづらい。それに、もしかしたら、大手術が必要な腫瘍を抱えている可能性もあるわけです。

方法論に頼りたくなるのは、親の経験則があるから

とはいえ、いきなりテキストや勉強法といった「方法論」を与えたくなるお気持ちも、よくわかります。

おそらく「今までの親御様自身(あるいは、親御様の周囲の方)の経験」に基づいた行動なのではないでしょうか。

ご自身の学歴に自信があるジコセキ型の方は、「今まで自分がそうしてきたのだから、上手くいくはずだ」と考えるでしょう。

また、学歴に自信がない方でも「周囲の人(配偶者・ママ友など)が、そうしている」と聞いて、テキスト・勉強法を与えられているのでしょう。

しかし率直に申し上げると、ここでは「自他の混同」というエラーが起きてしまっています。

子どもは、親とは全く別の個性・能力を持った人間です。また近年は、入試問題の「質の変化」も非常に大きい。だから、

「30年前の入試において、この方法で自分は上手く行ったから」
みんな(学力の高い配偶者・ママ友など)が、やっていることだから」

上記は、子どもに「方法論を与える理由」として、成立していません。

ここで、親御様が本当にやるべきは「診察」

ご自身の伴走に、違和感・限界を感じていらっしゃるなら、一度「子どもに何かをする前に、立ち止まって考える」というステップを踏んでみてほしいのです。


伴走における「診察」とは、具体的には以下の2つです。

  1. テスト問題(模試や入試問題)を理解する。
  2. 子どもがどう考えて、どう解いているか(思考回路)を確認する。

    こう書くと、「それができないし、よくわからないんですよ!」とイラっとする方もいるかもしれませんが、まず【1】については「精密な理解」は必要ありません。

    数問でいいので実際に取り組んでみて、「おー、難しいことやってるなー。私が小学生なら、とても解けないわ」と感じるレベルで構わないのです。

    ジコセキ型の方は、大変「真面目」なのですが、少し「ゆるさ」があるご家庭のほうが、受験は上手くいきやすいことも申し上げておきます。

    【2】については、正直言って、指導歴の長い私でも「わからないときはわからない」です。子どもの頭部をこじ開けて、脳の動きが確認できるわけではないのですから。

    ただ、「わかろうとする姿勢」を常に持ち続けることが、すごく大事だと思っています。

    最もまずいのは、「(1)(2)の作業(=診察)」をすっ飛ばして、性急な結論を出してしまうことです。

    たとえば、以下が典型的なパターンです。

    1:私がちゃんと教えているのに、定着しないのは、子どもの地頭が悪いからだ。(地頭至上主義タイプ

    2:私が子どもの頃は、もっとガツガツ問題を解いていた。子どもの努力が足りていないから、点数が悪いんだ。(過剰な努力信仰タイプ

    3:うちが伸びないのは、通っている塾が悪い。転塾 or 家庭教師を考えよう。(方法論ジプシータイプ

    要するに「思考停止」しているのです。大変厳しい言い方でごめんなさい。

    「方法論を与える」という行為は、一見、考えているように見えて、原因を探るという思考は行われていません。

    そして、それが上手くいかなかったときも、先に結論ありき(例:親の私はちゃんとやっている)で、理由を「強引に後付け」してしまっています。

    そもそも、受験の伴走に親の責任は伴うが、成績や結果は親のせいではない」のです。

    お子さまへの関わり方について反省されたとしても、ご自分を責めすぎないでください。

    まずは、お子さまとしっかり向き合うところから、始めてみてくださいね。

    (※ 上記の「タイプ」に関する詳細は、以下の記事に書きました)

    伴走は「できないこと」への自覚が、最大のサポート

    ジコセキ型の方は、「人生負け知らず」なのだと思います。

    「そんなことないですよ。苦労してきました」とおっしゃる方もいるかもしれません。

    しかし、それは勉強が得意ではなかったとか、浪人・留年をしたというレベルの話で、「社会的に大きくレールを外れた」経験のある方は、おそらく皆無でしょう。

    これまで「欲しいもの」は、おおよそ手に入れてこられたのではないでしょうか。

    実はその点にも、伴走時にエラーが起きやすい原因があります。

    なぜなら、子どもの伴走をする際には、「制約の中でできること」を考えなければいけないからです。

    教えられなくても、支えることはできる

    仮に、親御様の学力として、子どもの取り組んでいる問題が「ほとんど解けない」レベルだとします。

    ならば、親としてのフォローは「できる範囲内(限定的)」になるはずです。それが「制約」です。

    ご自身が高度な学習内容を理解できなくても、「子どもの好きな料理をつくって、労ってあげる」といったことも、子どもにとって、十分な支えになります。

    逆に、冷静に考えてみていただきたいのですが、「勉強内容を理解できていない人が、勉強を教える」「具体的なアドバイスをする」ことはできるのでしょうか?

    あるいは、「勉強内容を理解できていない人が、『こうすればいいんじゃないか』とあみだした方法論」は、果たして有効なのでしょうか?

    もちろん、いずれも不可能であり、有効でないことがほとんどなのですが、これらを実行してしまっている方は結構いらっしゃると思います。

    (※ 個人的に、かの有名な『下剋上受験』は、「創作が入っている」のではないかと感じます。あるいは、著者の親御様が「学業以外のフィールドで、死ぬほど頭を使ってきた方」かのいずれかです)

    「私に、これはできないんだ」という「制約」を意識したうえで、「じゃあ、できることは何だろう?」とお考えいただくことが大事です。

    無意識のうちに、「両立しないはずの二つのこと」を求めている/やっている方は多いです。

    それは「今までは、何でも手に入ってきた」からなのかもしれません。

    「教えたい親」こそ、やるべき準備がある

    一方で、学力がある方でも、「他人に教える」「他人を導く」のは全く別次元の問題だとはご理解いただいているでしょう。

    子を教えていて上手くいかないのであれば、その事実を認めていただいた上で、「できること」を考えていただかなくてはいけません。

    「勉強を教える」こと以外でも、子どもをフォローする手段はたくさんあります。

    そもそも個人的に、親御様が家で教えることは「原則として」推奨しておりません。親御様が教えることをおすすめしない理由は、以下の記事に書きました。


    しかし、どうしても親御様として「家で教える」ことをしたいのであれば、「できる限り、模試・入試問題を解いてみる」ことは必須だと思います。

    • 「この問題、簡単に見えるけど、実はすごく難しい」
    • 「一問一問は時間をかければ正解はできるが、40分間という制限時間内に正答を積み重ねるのが難しい」

    上記のように「問題を解かなければ、わからないこと」は、実は、星の数ほどあります。

    指導者自身が「問題を解いた経験」を積みかさねれば、テスト中の「子どもの気持ち・思考回路」を理解することにつながっていくのです。

    くわえて、親御様が若年期の入試問題と比較して、今は難易度が上がっていますし、問題の質もかなり変わっているのですが、問題を解けば、それを「本当の意味で」理解できます。

    問題を解くことが、親御様にとって大きな負担になるのは重々承知しておりますが、「どうしても、家で勉強を教えたい」ならやるしかありません。

    プロ野球やJリーグの観客が、SNSで「こうすれば勝てるのに!」「もっと、〇〇の練習をしろ」などと、自分で考えた戦術を語ることがありますが、問題を解かずに指導するのは、それと一緒になってしまいます。

    「1:時間を犠牲にして、問題を解く」のか。

    もしくは、「2:時間を犠牲にできないから、問題は解かない。親は勉強を教えず見守る」のか。

    この二択であり、本来は「両方のいいところ取りの選択肢」(例:忙しくて問題を解く時間はないから、答えだけ見て解説する)は存在しないはずです。

    それが「制約の中で考えて、伴走する」ということです。

    まとめ

    ここまでの話をまとめましょう。

    • 子どもに方法論を与える前に、「診察」をするべき。(診察は、完璧なものでなくて構わない)
    • 本来、伴走は「制約」の中で行われるもので、親御様個人として、できること・できないことを考える必要がある。

      親御様にとって、耳が痛いであろうことも書かせていただきました。ですが、「私ってダメな親なんだ」と、ご自分を責める必要はございません。

      「今、抱えているズレは、どういう構造で起きているんだろう?」と振り返ってみることが、前向きな中学受験への大きな一歩になります。

      今、読者様が悩んでいらっしゃるとしたら、「親が責任を背負いこみすぎない」「子どもに主体を返す」「親が考える習慣を持つ」。この3つが解決のヒントになるはずです。

      3つのヒントのうちの「前2つ」に関しては、以下の記事に書きましたので、未読の方はぜひご覧ください。


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