こんにちは。中学受験の家庭教師 鳥山です。
「塾に通わせず、マイペースに中学受験をさせたい」とお考えの方へ。
今回の記事では、「ゆる中学受験(ゆる受験)」をする際の注意点を、現場目線でお伝えしたいと思います。
一部に、厳しいと感じられる内容もあるかもしれません。
ですが、お子様が良い受験を迎えるために、親御様に正しい知識をつけていただきたい。そんな願いを込めて書いています。
(※ 本記事は、2024年9月に初出の内容を、2025年6月の現状に即して加筆・修正したものです)
中学受験の新潮流?「ゆる受験」の定義と従来型との違い
「ゆる中学受験」といっても、受験関係者や保護者によって、捉え方は様々なようですが、まずは定義から確認してみましょう。
「ゆる中学受験」は、「進学個別 桜学舎」の塾長 亀山卓郎先生が提唱した考え方です。亀山先生のブログやYouTubeを見ると、「ゆる中学受験」の定義とは、以下であると説明されています。
1.「首都圏模試偏差値60以下」の学校を、志望校とする。
2.勉強の期間は、原則として2年間。
3.1の学校の入試で求められる、基礎的な問題を定着させることに重きを置く。
首都圏模試偏差値 57~60の学校は、桜美林、駒込、埼玉栄、サレジアン国際世田谷、淑徳巣鴨、順天、多摩大目黒、桐蔭学園、桐光学園、ドルトン東京学園、京華、佼成学園、獨協、日大豊山、カリタス女子、実践女子、昭和女子大、三輪田 等です。 【2025年6月現在】
(※ 外部リンク:「首都圏模試センター『偏差値一覧』」)
ここまでが、亀山先生が発信されている『ゆる受験』の基本的な考え方です。
ここから先は、私自身の意見をお話ししていきます。
サピックス、早稲アカ、四谷大塚、日能研の教材やテストには、難関校受験を想定した、発展的な問題・高度な読解力を要求する問題も多々含まれます。
そのため、カリキュラムを定着させるのに3年間かかるのですが、「ゆる受験」の場合は、基礎問題のみに取り組むため、受験勉強の期間は短くなります。
家庭の目的を理解した上で、基本問題の定着をメインに指導してくれる先生に頼る必要があるので、桜学舎のような個人の先生が運営する塾や、家庭教師を利用しながら学習を進めることになるでしょう。
塾や家庭教師の先生の中には、「ゆる受験」の定義を理解した上で、それを良しと考えない方もいらっしゃるようです。
ですが、ご家庭それぞれの価値観に過ぎませんし、私は否定する理由は何もないと考えます。実際、過去には「ゆる受験」の子を指導した経験もあります。
くわえて、私としても、子どもの才覚や、競争向きな性格か否か? という点、精神的な成熟度が伴っていないのに、みんなに一律でハイレベルな学習を課して、高い成績を目指させる風潮に疑問は感じています。
同時に、「中学・高校を私立一貫校で過ごす」こと自体に、大きなメリットがあると考えているため、「基本的な問題だけ固めて、目指せる学校を目指そう」という考え方にも、賛同できるのです。
ですが、「ゆる受験」には注意点がいくつかあります。
ゆる受験に潜む落とし穴。塾なし中学受験の注意点とは?
偏差値60は「ユルくない」? ゆる受験でもそれなりに大変
たくさんの小学生を教えてきた経験から言えることなのですが、小学校でまったり過ごしてきた普通の子にとって、「首都圏模試偏差値60」を取るための勉強は、それなりに大変だと思います。
そして、親御様の方も、勉強や工夫は必須で、たとえば、中学受験に関する知識を得たり、子どもが前向きに勉強できるための環境づくりをしたりしていくことは大切です。
要するに、「ゆる受験」するにしても、「ときには、受験生本人が、苦労や苦痛を感じることもある」、「塾や家庭教師に、全て任せておけばOKということではない」ということは伝えさせていただきたいのです。
ただ、みんなと一律で高い次元を目指すよりかは、親子共にかかる精神的・時間的負荷は少なくなるということなのですね。全くなくなるわけではありません。
「首都圏模試偏差値60」の取りづらさについては、以下の亀山先生の記事も参考になると思います。
※ 外部リンク:「進学個別 桜学舎『首都圏模試偏差値60はユルすぎるのか?』」
塾なしで難関校は無理? ゆる受験の限界と現実
もう一つ、絶対にお伝えしておきたいのは、個別指導主体で、基礎的な内容を固めるだけで到達できるのは、あくまで「首都圏模試偏差値60」までである、という点です。
それ以上の学校を目指すのであれば、発展内容まで取り組み、学習量もぐんと増やし、模試も(首都模試とは別の)ハイレベルなものを受ける必要があります。
それらを与えてくれるのは、「集団塾」です。たとえば、サピックス、早稲アカ、四谷大塚、日能研、栄光ゼミナール、市進学院 等。
また、首都圏模試偏差値60より、さらに上の学校を目指すのであれば、他者との競争心や、「つらい・わからないことがあっても、何とか授業についていこう」といったマインドセットも大事になります。
これらもハイレベルな集団塾でないと、中々身につきません。こういった場を提供してくれる、塾の役割は大きいです。
もし、「ゆる受験」をお考えの方で、
「子どもに、自分らしく勉強してほしい。大量の宿題とか競争とか、つらいことは避けさせたい」
「でも、難関校の合格を目指したい」
という願いをお持ちの方がいらっしゃったら、それは二律背反する考え方であるとはお伝えしておきたいです。
少なくとも、私にはその二つを同時に叶える手段が考えつきません。
ごくまれに、集団塾無し&マイペース学習で、御三家といった難関校に合格する天才児もいますが、お子さんがそういうタイプであれば、模試を受けたとき、初回~2回めまでの間で、必ず成績にきざしが見えると思います。
「自分のペースでやる受験」のリスクとは
普通の子が、中学受験を、本当の本当に本人ペースで「ゆるく」やるなら、合否結果は一切期待できないと思っていただいたほうがいいです。
私の個人的な価値観にはなりますが、「じゃあ、合否は気にせず、ダメもとで受験するだけしてみればいい」という「ゆる受験」希望の方の意見には、異を唱えさせていただきたいです。
なぜなら、12歳の子どもにとって「不合格」は、自分の存在が否定されたかのように感じて、本当にショックを受けるものだから。
受験本番までに、塾の競争で揉まれてきた子や、他の受験生と比較したときの自分の立ち位置を知っている子であれば、周囲の大人の態度や声かけしだいで、不合格になっても乗り越えられるものです。
しかし、「ゆるく」やっている子はそういった経験・観点がないので、不合格を通して、無意味な敗北感・劣等感だけ植え付けられて、中学入学後の勉強もがんばり抜けなくなってしまうこともあります。
その点は、お子様のために重々ご注意いただいたほうが良いでしょう。
中学受験を「塾なし」で進めるときの注意点
「塾なし中学受験」で親が担うべき役割とは
ちなみに、集団塾に通わないで中学受験する場合、親御様には非常に高いレベルのリテラシーが求められます。
そもそも、なぜ皆がこぞって有名集団塾に通うかといえば、中学受験で出題される内容は、小学校の学習内容とかけ離れていて、問題が特殊すぎるからです。
たとえ、親御様自身は問題が解けたとしても、子どもに「再現可能な形」で教えられるかは別の話です。
だからこそ、子どもに専門家の指導を受けさせる。つまり、有名集団塾に通わせることが、現実的な判断になるのです。
(まあ、そこまで考えず、「みんなが通っているから」で何となく有名塾に通わせ始める方も多いですが・・・)
さらに、小学生は幼いので、勉強していてもダレるときが多々あります。しかし、塾が「みんなでがんばる場所」を設けることで、モチベーションの管理をしてくれているという側面もあります。
塾無し受験の場合、本来は塾が担ってくれるこれらの役割を、親御様が代わりに全部やらなければいけなくなるのです。
たとえば、塾に代わって、教材選定や問題の取捨選択も親がしなければならず、それをするためには、まずは志望校の過去問内容の理解が必要になります。
すなわち、親御様にはある程度の「学力」が要求されるということです。
また、目まぐるしく変化する受験生の状況に対応するために、「複眼的思考力」「判断力」が求められますし、子どもの勉強が上手くいかなくても感情的にならないよう、「親子関係の良さ」「寛容性」「精神力」が必要なこともおわかりいただけるのではないでしょうか。
みんなが「王道=集団塾」を選ぶのには意味がある
不謹慎な比喩かもしれませんが、志望校の受験を、「最終的にマシンガンを使って、戦争する」ことにたとえるとします。
集団塾の子は、4年生くらいから、少しずつ銃の扱い方を学んで、学年が進むにつれて、対人での実践訓練を始めて、そのうえで戦争に挑んでいる。
一方、塾無しの子は、戦争が開始するまで、ずっと自宅の庭でカカシを木刀で叩き続けている。親御様のリテラシーによっては、そのくらい明後日の方角に行ってしまうこともあります。
ですので、中学受験に挑むなら、まずは有名集団塾に通ってみる、という選択肢を取ったほうがいいです。
通ってみた後、何かしらの事情で辞めて、塾無し受験に切り替えるにしても、通塾した経験から、中学入試のレベル感やボリューム感がわかっているので、学習の方向性が、大きく外れることにはなりづらいと思います。
「個別指導塾だけで、中学受験するのはどうか?」というご質問について。
校舎数がたくさんある大手個別指導塾については、「ゆる受験」を目的にするのであれば通って構わないと考えます。(ただし必ず、「1:1」で指導してくれるところを探しましょう)
ですが、首都圏模試偏差値60より上の学校を目指すのなら、実際に勤務していた経験から、おすすめはできません。
詳しいことは、以下の【関連記事】に書いています。
※ 関連記事:【中学受験】大手個別指導塾のリアルな実態と失敗しない使い方-元講師が本音で解説
まとめ:「ゆる受験」Q&A
「ゆる受験」に関して、この記事の概要をQ&A方式でまとめました。
Q. 「ゆる中学受験」って、本当にゆるいんですか?
A. 基礎的な問題を固めて、「首都圏模試偏差値60」を取るための勉強は、それなりに大変です。小学校の勉強と違い、中学受験においては、「基本問題」が既にハイレベルだからです。
Q. 塾に通わず、家庭教師だけで中学受験は可能ですか?
A. 可能ですが、ご家庭には高いリテラシーが求められます。
Q. 難関校を目指す場合でも、「ゆる受験」で合格できますか?
A. かなり難しいと考えます。難関校合格には、発展問題への対応、他者との競争経験、演習量の大幅な確保が必要だからです。「ゆるくマイペース」と「難関校合格」は、基本的には両立しないとお考えください。
Q. 個別指導塾だけでも、中学受験はできますか?
A. 目的によります。「ゆる受験」であれば、1対1指導を行っている個別指導塾は選択肢になりえます。ただし、難関校を目指すなら、集団塾の方が圧倒的に有利です。
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